73 幸せの時
長浜城
ああは言ったもののあの後は年末まで戦がなかったんだよね。というわけで僕と慶松、久太郎さん、なつの4人で長浜城まで見舞い…診察かな?とりあえず先生に会いに来たことにしよう。
「…どう?良くなってる?」
「うーん。悪くはなっていないけど良くもなってない。」
つまり現状維持か。
「先生、働いてないですよね?あの後、なつから話を聞いたんですけど何もしていなかったら2か月後には効き目が出るって聞いたんですけど。」
「…。」
「まさか。」
「秀吉殿に…色々聞かれちゃってね。播磨攻めはどうすればいいかとか但馬はどれぐらいで落とせるかとか。」
「それで現地に視察に行ったりとかはしてないですよね?」
「…。」
慶松の質問にも黙るとは…。ため息が出る。
「しっかりして下さいよ、先生。治したいんでしょ?」
「治したいよ…。でも秀吉殿を支えることも同じぐらい大事なことだから。」
うーん。どうすれば休んでくれるかね。
「…外出禁止と言ってもらえる?」
「逆に良くないですよ。…でも遠出もよくない。」
「…姫路までならともかく、但馬まで行くのは駄目です。但馬で万が一があったら間に合わないですから。」
「若様、姫路でも遠いですよ。感覚大丈夫ですか?」
そうかな…。米原から姫路まではあっという間だったから長浜からでも変わらないと思ったんだけど…ってそれは前世の記憶だ。
「お話中ごめんね。孫四郎、虎之助が会いたいって。」
ねね様が教えてくれた。虎之助殿…今ですか?
「行ってらっしゃい、孫四郎。私のことはいいから。」
「先生…。お大事に。」
「若様、私も行ってもいいですか?」
珍しく慶松が行きたいと言うとは思わなかった。…せっかくの機会だ。2人を知り合わせますか。
「あ、いいよ。お話が済み次第紹介してあげるね。」
「孫四郎様、忙しい中すみません。」
「本当だよ~。…あ、嘘ですよ。そんなにしょぼんてしないでくださいよ。」
虎之助殿もメンタル弱い?…気にせずに話そう。
「それで何で呼び出したんですか?」
「これ、どうぞ。」
あ、なるほどね。僕が結婚したことが周囲にばれたわけね。だから安産祈願のお守りとか渡してくるのか。…ちょっと待てよ。
「僕、まだやってないよ?」
「…え?結婚したのに?」
結婚したらすぐやるタイプじゃないんですよ。…それに一応この時代では側室は正室より身分が低いから子を先に産んでも後で厄介なことになりやすいし。でも僕らも年頃だから前の時は約束したんだけど…。
「桜とは前に戦が終わったらお願いとは言ったけどあの時は先生の肺結核がやばかったから―」
「…じゃ、じゃあこれは。」
「申し訳ないけど要らないよ。…虎之助殿はやったの?」
「え、そ、そんな風に聞きます?ま、まあやりましたけど。」
動揺しすぎじゃない?
「…だから孫四郎様、いつもと変わらないのか。」
どういうこと?
「…何かよくわからないけどまあいいか。」
「…ところでそこにいる子は?」
「あ、まだ紹介してなかったね。大谷慶松。僕の初めての家臣で将来は僕の軍師になる予定の子だよ。」
「紹介雑じゃないですか?…大谷慶松と申します。よろしくお願いします。」
数年前の僕を見ている感じだ。何で同じようなツッコミをするのかと思ったけどそれだけ僕を見ているってことだよね。
「加藤虎之助です。…もしかして年下?」
「あ、はい。多分3つ年下ですね。若様と虎之助様が同い年と聞いているので。」
「…孫四郎様、言葉崩していいですか?」
「僕に聞かれても…。慶松に聞いてくださいよ。」
「そ、そうでしたね。…いいですか?慶松。」
聞かなくてもいい気がするけど…。
「いいですけど…何で虎之助様はそこまで丁寧なのですか?」
「孫四郎様がそうだったから…。」
いや、僕はいい加減だよ。久太郎さんの方がやばいよ。僕が来るまでずっと丁寧語を使ってたんだよ。
「若様は確かに皆に対して丁寧に接していますよね。私も見習いたいです。」
「俺も。どうすればああなるのかわからないよ。」
それ本人の前で言いますか?…僕が困ってきた。
「虎之助様は若様のような頭脳派ですか?それとも武闘派ですか?」
「どっちかと言えば武闘派かな。でも佐吉や孫四郎様ほどではないけど頭も使えるよ。…自分で言うのも何だけど。」
「若様は剣と鉄砲しか使えないですよ―あ、何でもないです。」
そこまで言ったなら最後まで言いなよ。怒らないから。
「慶松の言うとおりだよ。僕には槍も弓も向いてないもん。ついでに言うと剣も多分虎之助殿には敵わないよ。これだからいざという時に困るんだけどね。」
「いざという時とは。」
「一騎討ちや鉄砲を構える時間がない時の敵襲とかね。」
「…じゃあ今やってみますか?」
どうしようかな?…これも修行だと思えば別にいいか。
「慶松、羽織を持ってて。ええと竹刀は…あった。一応出来ますよ?あ、もう1枚脱ごうかな。」
と言いながら緑の服も脱ぐ。これで上は白服のみ。超寒い…。だけど体を動かしたら絶対暑くなるからこれでいい。
「…意外に鍛えてるんですね。」
「意外は余計だよ。…え?上半身裸?」
「いけませんか?」
「いや、別にいいけど…。やるよ。慶松、合図は任せた。」
「では。…始め!」
ほう、なかなか考えて突っ込んでくるね。猪武者の市松とは大違いだ。…でもこの程度なら負けないよ。
「…面。」
「え⁉孫四郎様強すぎません⁉」
「これで強いなら父上や賦秀さんには敵わないですよ。あの人たちは異次元の強さを持ってますから。」
「まさか孫四郎様が強いとは思わなかったですよ。剣でも名を残せますって。」
「無理無理。織田家にはこれより強いのが何人もいますから。…一度やってみますか?織田家剣豪最強決定戦とか。」
「面白そうですね!あったら是非参加したいです!」
「まあ今の織田家には無理だと思いますけど。」
やってみたいなあ。まだ真の父上とは戦ったことがないし。賦秀さんも1勝しか出来てないからね。仮に勝っても柴田様や上様にボコされて終わるだろうけど。
色々話した後、家に帰ったのは亥の刻ぐらいだった。すぐに風呂に入った後、部屋に戻ったら桜がいた。
「どうかした?」
「…まだやらないんですか?」
ギクッ。忘れてなかったか。
「…初めてだから上手くいくかわからないよ。」
「構いません。…まず孫四郎様がやろうかって言いだしたんですからね?」
そこまで言うか…。
「まあそうなんだけど。…じゃあいくよ。」
この後、2人の時間を幸せに感じたのは言うまでもない。
孫四郎君、意外に剣術も強いです。ですが剣ではなく鉄砲で活躍させてしまう私。まあ本人も鉄砲を希望しているので大丈夫でしょう。(勝手に決めるな)
後半はノーコメントで今日は終わらせて頂きます。明日からは1578年に入ります。




