69 天の雨
遅れて投稿しております。申し訳ないです。
先生の咳。あれもしかして肺結核の前兆じゃない?竹中半兵衛って確か本能寺より前に病死するんだよね。…どうにか治せる方法がないかな。
「孫四郎様?」
え、あ。気づいたら桜の膝で寝そうだった。
「ごめんね。ちょっと考え事をしていて。」
「あ、そうじゃなくて耳かき片方終わりましたよ。」
え、寝ることに文句はないの?…確かに逆の立場だったとしても桜だったら文句を言わないと思う。
「ありがとね。いつも代わりにやってもらっちゃって。」
「いいえ。私の方こそ孫四郎様にはお礼を言わなくてはならない立場ですから。」
立場ねえ。そんなの関係ないと思うけどな。
「…何かありました?」
「うん。僕の師匠の半兵衛先生がね、嫌な咳をしていて…。もしかしたら先が長くないかもしれないなって。」
「…孫四郎様は医術に詳しいのですか?」
「ううん。そんなに医療法には詳しくないよ。なつの方が絶対詳しいし。」
「…なつは生まれながらに医術を習得していたのです。」
「…やっぱりね。何となく事情が分かった。」
「…?」
あ、余計なこと言っちゃった。
「なんでもないよ。」
「気になりますよ。」
「…きっと神に恵まれてたんだよ。きっとね。」
「なるほど。…ってごまかしきれると思わないでくださいよ!」
「まあまあ。桜はいつも可愛いよ。」
「…え?」
「好きだもん。桜が一番好き。」
何を言ってるんだ?僕。
「…今日はあまり聞かないようにしようかな。」
ありがとね、桜。
~久太郎視点~
いいな~。孫四郎さんいいな~。
「久太郎様?」
へ?なつさん?
「どうかしました?」
「…あの2人いいな~って。」
正直に言っちゃうんだよね。これ、孫四郎さんのせいかな?それとも元々の僕の性格?
「そういうことね。…じゃあ私と付き合う?」
え、どういうこと?付き合う?…わかったよ。自分のことには鈍感の僕でもわかった。
「い、いいの?」
「久太郎様優しいし。」
「…お願いします。なつさん。」
何か家庭関係がぐちゃぐちゃになった気がするけど…まあいいや。
~慶松視点~
これ見ちゃいけないことだったかな?久太郎様となつさんが結ばれた?
「慶松殿?」
万福丸殿が声をかけてくれる。
「…私はどうすればいいのだろうか。」
「気にしない、気にしない。まだまだ時間はあるよ。」
「ですね。」
2人ともお幸せに。
~孫四郎視点~
7月18日、畠山家の城である七尾城が包囲された。越後の龍…上杉謙信が段々北陸平定のために西へ向かってきていることに危機を感じた信長様は柴田勝家様を総大将とした救援軍を加賀に送ることにした。
「というわけで久太郎さん。今回の私の役目は秀吉様と共に柴田様の援軍につけ!でございます。」
「…え?僕どうすればいいの?」
「簡単です。ただ僕の動きについてくればいいのです。」
「…あながち間違いじゃないよね。しばらくの僕の役目は目付…じゃない保護役だもんね。」
今、本心サラッっと出したよ、この人。まあ聞かなかったことにしよう。
「まずは皆様と合流するための準備をしますか。」
「そうだね。…何か行く気満々じゃない?」
「そうでもないですよ。…こうでもしないとあの越後の龍と戦おうと思えなくて。」
「…了解。」
何となく察してくれたね。とりあえず準備しますか。
9月17日
いよいよ七尾城まで間近に迫った。今から作戦会議を行うところだ。
「いよいよ七尾城まで目前。もうすぐで畠山を助けることは出来るな。」
「そうだといいですけどね。あ、一益様。どうかしましたか?」
「上杉謙信が七尾城を落とした。このままだと我らに突っ込んでくるぞ。」
七尾城落城だと…。
「…。」
「どうした?藤吉郎。」
「柴田様、此度の戦は近江で行うべきです。」
お、近江⁉何で?
「戦上手の謙信を相手に加賀や越前で戦っても不利なだけ。だったら近江で―」
「反対だ。そもそも近江で戦っても奴らに地の利はないがそれだと上様を危険にさらすことになる。」
「それにその策だと一度奪われた越前をまた奪われることになる。そんなこと俺や成政は望んでいねえぞ。」
父上が珍しくキレてる。
「利家殿、其方ならわかるだろう?謙信は―」
「お話中失礼します。秀吉様、あなたが言いたいのはここで謙信と戦っても負けるだけ。そう言いたいのですよね?」
「ああ。孫四郎もそう思うだろ?」
「はい。ですが秀吉様の策でも上手くいくとは思えません。近江に逃げて負けた時はどうするのです?その場合謙信は京に上洛―」
「孫四郎の言うことも最もだ。だったらどうすればいい?」
え、そこを僕に頼む感じ?
「孫四郎、わしからも頼む。何かいい考えを浮かんでおるのだろう?」
そう言われてもねえ。…即席にできるのはこれかな。
「恐らく今回の戦で戦上手の謙信公に勝てるのはほぼ無理。ですが面目上逃げ帰ることは不可能。でしたら戦って痛み分けにしましょう。」
「「痛み分け⁉」」
「何を言っているのだ孫四郎。そんなこと―」
「わかったぞ孫四郎。」
見事に2人の意見が分かれたね。
「柴田様!この意見にはとても―」
「頭を冷やせ秀吉。鍵となるのは孫四郎と成政の鉄砲隊だ。特に孫四郎の鉄砲は雨の日でも使える。天気も味方につける謙信に雨が理由で負けることはほぼない。そして孫四郎の鉄砲は敵の策など関係ない。敵を見つけた次第8発撃てば必ず敵に当たるだろう?」
「まあ必ずではないですけど。でもこの戦はいけると思います。仮に痛い目に遭っても上杉を退かせれば実質我らの勝ち。そのままの勢いで七尾城を取り返してから戻るなんてことも可能なわけです。」
「…柴田殿、御免。我らは近江に帰させていただく。」
な、何を言ってるの?
「秀吉様、ここで帰ったら切腹は確定、悪ければ一族・家臣まとめて死刑なんてことも―」
「いいんだ孫四郎。俺は気づいたんだ。北陸は俺の攻めるべき場所じゃない。ってな。」
何かカッコいいこと言ってるようで結局は怖いから逃げるだけでしょ?佐久間様よりも酷い演技…いやもはや演技ですらないぐらい気丈に振る舞っているもん。秀吉様、臆病だぞ!僕だって嫌だよ。化け物と戦うなんて。でもここで逆に謙信に勝った、もしくは引き分けだけど実質勝ちみたいな状況になったら僕らが有利な状況に変わる。
「…柴田様、後は任せました。」
「秀吉様!」「藤吉!」「藤吉郎!」
柴田様以外の皆が呼び止めようとしたけどもう既に秀吉様の決意は固かった。まもなく秀吉様は近江に帰っていった。
「…秀吉様は何で今帰ったのでしょうか。」
「きっと親父様と仲が悪いからだろ。ですよね、親父様?」
成政様、それは違うよ。2人の考えは違うけど能力はお互いに認め合っている仲なんだ。
「…。」
そこで黙ったら駄目でしょ、柴田様。
「…迎え撃つ準備をしましょう。謙信はいつでも奇襲して来ますよ。川中島の戦いがそのことを教えてくれました。」
「そうじゃな。…状況に応じては撤退するぞ。そのことだけは皆忘れるな。」
「「「はい!」」」
え、応じゃないんだ。まあいいけど。
23日夜
「ほい、孫四郎。今日の晩飯。」
「ありがとうございます。お礼に梅干しをどうぞ。」
前までだったら嫌だった最前線で謙信接近を待っている。…寒い。こういう時に鍋とか食べたい。
「ねえ孫四郎さん。僕は―」
「ただここにいればいいんです。今の僕の戦い方、近くで見たことないでしょ?」
「…本当に護衛のみに特化すればいいんだね?」
「はい。…佐久間盛政殿が勝手な行動をしている。これはまずいかもしれない。」
あの馬の動き方は盛政殿だ。あれは…挑発か。
「上杉が来ました!」
「よし、鉄砲隊構え!」
あ、僕が指示出しちゃった。…いいよね。
「撃て!」
ダダダダダダダダン!
「ギャッ!」「痛い!」
「恐れるな、我に続け!」
遠くから白い服を着た武将が現れた。…謙信か?
「もうすぐ雨が降る!それまで辛抱すれば―」
ザーッ!
え、あの人何で雨降ることが分かったの?
「寒い…。」
「大丈夫?孫四郎さん。」
「…防寒対策はすぐに出来ますよ。」
そう言いながら甲冑を脱ぎ暖かい羽織を着る。
「ちょ、ちょっと!」
「いいんです。孫四郎様はこうしないと本領発揮できません。」
松右衛門さんナイスフォローです。
「ああ暖かい。…もっと引き付けよ。敵は火縄銃を使えないと思っている。だから絶対にギリギリまで撃つな。」
「孫四郎、俺の鉄砲はもう使えない。何かできることがあったら何でも言ってくれ。」
「ありがとうございます。…今だ、撃て!」
命中率は本当にいいんだよね。白服の武将は一瞬驚いたけどすぐに、
「たまたまだ。行け!」
と命じてきた。そんなことしても僕らの手柄が増えるだけだよ。
「構え!…撃て!」
命じながら撃つだけで僕らの手柄は増えていく。
「で、伝令!柴田隊に敵の攻撃が集中しており現在約1000名討死!」
やばい。やばい。やばい。
「…どうする、孫四郎?」
「僕に聞かれても…。退きます。常に撃てる態勢を保ちながら退きます。」
「…わかった。」
「孫四郎さん、そんなこと出来るの?」
「姉川の時の応用編を使えば行けます。多分。」
~謙信視点~
鉄砲隊が退き始めた?ふっふっふ。馬鹿め。その先は川だぞ。鬼柴田でさえその川を渡れずに苦戦しておるのだ、奴らに渡れるはずがない。
「追え!ここで織田勢を一気に潰す。」
覚悟しろ。織田。
川の手前で奴らは止まった。な、何をしようとしているんだ?
「鉄砲隊、構え!」
ま、まさか!…そんなわけない。天の雨が降っている今、奴らは鉄砲が撃てん!
「見せかけだ行け!」「撃て!」
ば、馬鹿な…。
「お館様、退きましょう。」
「…そうだな。一旦退け!」
ダン!
次の瞬間、我は首元に弾が当たった。…幸いなことに命に影響する場所ではないようだな。毘沙門天、我を守ってくれたか。
~孫四郎視点~
「あれは恐らく謙信。孫四郎、やったのか?」
「いえ、あえて生かしました。」
「あえて?」
2人ともキョトンとしているね。
「あそこで討ったら大将の仇!と言いながら突っ込んでくるかもしれないですから。」
「…討ってよかったと思うけどな。」
「…僕が奴を逃がすためだけに首を撃ったと思いますか?」
「どういうこと?」
「あの場所から出血したら恐らく1年以内に死にます。しばらくは何事もなく生きることができますがやがて体内の肉が腐り始め亡くなるでしょう。」
「…よくやった孫四郎。本当に痛み分けにするとは思わなかった!」
これで痛み分け?
「いえ、まだまだです。ですがここで上杉を追撃しても無駄死にするだけ。大人しく帰りましょう。」




