56 越前を取り戻せ
8月、信長様は去年一向一揆勢に奪われた越前を取り戻すと皆に号令を出した。
「それは本当なの?孫四郎さん。」
今、俺は久太郎さんに今回の戦は貴方も参加するんだよということを説明している。
「はい。信長様は久太郎さんも連れてくるようにと私に命じてきましたから。」
「…何で僕が行かなくちゃいけないのかな?越前なんて詳しくないよ。」
「それを言ったら俺だって…いや、私は一度行っているから連れていかれるのは当たり前か。」
「ちょっと待って?しばらく会っていない間に性格変わってない?大丈夫?」
気づかれたか。…俺はどうすればいいんだ?
「…私は信長様と一緒に闇に染まりました。と言えばわかりますか?」
「全然。だっておかしいもん。いつもだったら戦に行きたくないって言うはずなのにさっきはなぜか無理無理納得していたしそもそも孫四郎さんって僕を使っていたよね?何で変わっちゃったの?」
「乱世を終わらせるためです。…駄目だ、それじゃあ理由にならない…。」
「珍しく僕でさえ状況がつかめないんだ。きっと他の方々もわからないと思うよ?正直に言ってよ、いつもん孫四郎さんに戻ってよ!」
「それができるなら俺はこんなダーク…闇落ちしないで信長様に言いますよ。焼き討ちだけはやめろって。でももう後戻りできないんです。本当にあの人と天下を狙うなら。」
「駄目だ、いつもの孫四郎さんじゃない…。」
俺ももう昔の感じがわからなくなってるよ。もうかれこれ1年ぐらいこんな感じでやってるから。
「…戦に行くよ。今の孫四郎さんはほっとけないから。」
多分長篠でさらにダークさが増しちゃったんだよね。でももう治らないと思うよ。治るんだったら上手く使い分けているもん。ごめんね、久太郎さん。
8月11日に待ち合わせ場所である長浜城に到着した。着いて早々虎之助殿や半兵衛先生に出迎えられた。この間の戦で内藤昌豊、馬場信房の首を取ったときの話とかこれからの予定について話をした。先生にも俺の性格が変わったことを薄々気づかれていた。どうすればいいの?
そして13日には信長様本隊も到着した。何と信長様と久太郎さんはここ3年ぐらい会っていなかったらしく一体側近って何なんだろうって考えさせられた。そういえば俺も側近だったよね?あれ?まあいいか。
14日には敦賀城まで来た。翌15日は風が強いのにもかかわらず一揆勢がいる越前に本格的に進行を開始した。最初に突っ込んできた敵将は先鋒の秀吉様と十兵衛様により蹴散らされた。そこからは織田本隊は敦賀城に待機。我ら攻撃部隊はそのまま越前統一に向け進行を続けることになった。
まず最初に落とす城は杉津城だ。いきなり無謀に攻めても何なのでまずは作戦会議から始める。
「秀吉様と十兵衛様は府中の竜門寺を攻めているためこちらには来れないとのこと。…さてどうしますか?」
珍しく俺が司会役だ。皆何も言わないのか。だったら―」
「焼き討ちしますか?」
「ま、孫四郎?お前本気で言っているのか?」
父上が驚いている。いや、丹羽様を除くほとんどの人が驚いている。
「又左の申す通り。其方は比叡山で何を見たんだ?」
「柴田様、もう我らは戻れないところまで来ているのです。ここを恐怖で落とさないと加賀・越中を後々取る時に支障が出ますよ。」
「…孫四郎と言ったか?其方の策は確かに理には合っている。だがなぜ其方が言っているのか、ということが親父様が言いたいことだと思うぞ。」
そういうのは織田…違う、津田信澄様だ。此度が初陣らしくずっと保護してくれていた柴田様の下で参加したいという意志から織田一族ながら信長様の側ではなく柴田様と共に行動を共にしている。
「…孫四郎、やっぱりか。勝三から聞いていたがお前、信長様に染められてしまったな。」
賦秀さんも気づいているね。
「…どうすればいいのですか?私だって染まりたくて染まったわけじゃないんですよ。乱世を終わらせるためにはこれぐらいの覚悟が―」
「いいんだよ、孫四郎。お前はお前のままで。」
「そうだぞ、お前は半兵衛や可成様に何を学んだんだ?それを活かせないでこのまま過ごしていいのか?」
…わかったよ。前の久太郎さんと同じ状態に俺は陥ってたわけね。だから犬千代も言ってたのか。これは僕じゃなくて君が望んでいることだとね。
「此度の焼き討ちはわしが考えたことにしておく。」
「柴田様に迷惑はかけられませぬ。五郎左が考えたことにしておきましょう。」
迷惑をかけまくってるな、俺。ごめんなさい。
~久太郎視点~
話が終わった。あれはわざとやっているわけじゃないんだな。孫四郎さんはきっと戻そうと思えば戻せるんだよ。でも、信長様にきっと何かしら影響されて今の性格が生まれちゃったんだと僕は思う。ん?あれは…。
「直政?」
「あ、これは秀政様。お久しゅうございますな。此度は参戦されるので?」
堀直政。僕の従兄弟で幼い頃は一緒に勉学に励んだ。僕が小姓になるのと同じぐらいに信長様の家臣になっていたはず。
「うん。今回は後輩の視察も兼ねて参加しているところ。」
「秀政様にも後輩が出来たのですね。…そろそろ某も堀家に戻り時ですかね?」
「うーん。僕は別にいいけど信長様がなんていうかな…。」
「話は聞かせてもらったぞ、久太郎。」
信長様!…じゃない佐久間様か。
「わしに任せておけ。案外わしも使えるんだぞ?」
大丈夫かな。…かけてみるか。
「ではお願いします。佐久間様。」
「うむ。期待しておれ!」
この後、秀政と直政は生涯のコンビとなるのであった。
~孫四郎視点~
杉津城に出火したやっぱり燃えていても何も怖くないと感じてしまう。
「孫四郎、其方火が怖くないのか?」
「信澄様…。そうですね。ここよりも延暦寺や長島の方が怖かったので。」
「私は怖いよ。…利家殿はいい父だな。」
急にどうしたんだ?
「其方が道を間違えても助けてくれる。本当に利家殿はいい父だな。」
「信澄様の父上様はどのような方だったのですか?」
そう言った瞬間信澄様の顔は一気に暗くなった。
「私の父はな、叔父上に謀反を起こした責務を取って自害したのだ。それも私が4つの時にだ。」
自害?…まさか信澄様の父上って、織田信行っていう人?
「だからあまり思い出がないんだ。覚えていることとしては『其方は信長叔父上を支える男になるんだぞ。』と言われたことぐらいしかな。」
前に犬千代に聞いた情報だと織田信行って人はこの体が生まれる4年前に謀反を起こそうとしたが柴田様に密告されて計画がばれてその責任を取って切腹した人って言ってた。まさか信澄様がその子供だったなんて。
「私は其方や信忠様が羨ましいのだ。…おっと今の話はなしにしてくれ。」
信澄様、俺は出来る限りあなたのことをサポートします。
火攻めを続けていたら突如城を守っていた堀江景忠が寝返った。16日には安居景健という者が一揆勢の主要人物であった下間頼俊、頼照の首を取って降伏を申し出てきたが我らはこれを許さずに切腹するように命じた。景健は凄まじい大声を出しながら腹を切って死んだらしい。らしいというのは俺は現場を見ずに次の城の攻め方を考えていたからである。
18日、柴田・丹羽・信澄隊の3隊で鳥羽城を攻撃した。一昨日頑張って考えた策などいらないほどぼろい城だったので強攻で攻めた結果僅か四半刻で落城した。あともう少しでこの戦は終わる。
22日、仕上げとして豊原寺を焼き討ちにした。僧兵は門から飛び出してきたがすぐに我らが迎え撃ったので生き残った僧兵は誰もいなかった。これでこの戦が終わる…。
敦賀城
「権六、此度の第一功は其方だ。越前一国を其方に任せる。又左や成政たちも権六を助けてやってくれ。」
「ありがたき幸せ。」「ははっ。」「お任せあれ。」
柴田様、おめでとうございます。
「又左と成政と不破光治に府中10万石を、五郎八には大野3万石を与える。異議はないか?」
「「「ははっ。」」」
五郎八というのは金森長近殿のことだ。良かったですね。皆さん。
~顕如視点~
越前を取り返されましたか。ふふっ。まあいい。ここらで和議を結ぶか。しばらくは静かに暮らすためにな。
津田信澄・堀直政登場です。
次回が1575年最後の回になります。お楽しみにお待ちくださいませ。
追記:何とか思い出せる範囲で57話を書き直しました。ですが一部の部分を思い出せなかったのでそれについてはまた明日の前書きを見て頂けると嬉しいです。




