49 晦日の過ごし方
たまにはほんわかした話です。
今回は新たな重要人物がたくさん出てきます。
今年ももう年末だ。慶松に肩を叩いてもらいながら色々な宛先への手紙を書いていた。
「それにしても若様、何でこんなにたくさん手紙を書いているのですか?」
「今度長頼さんが家に来るでしょ。その時に孫四郎は元気ですよと岐阜や尾張に住んでいる知り合いの人たちに知らせてもらうために書いているんだよ。」
「なるほど。それに直筆で書けば信憑性も高いですしね。」
まず僕は代筆者を雇っていないしね。その時点で無理だとわかっているよ。
「孫四郎さん!お茶だよ。」
「お菓子もどうぞ。」
久太郎さんと万福丸だ。
「ありがとう。…今年も岐阜城の新年の儀には参加できそうにないですね。」
と久太郎さんに話しかけた。
「そうだね。前まで京にいた秀吉様は今年から今浜…じゃない長浜城主になったからだいぶ岐阜に近づいたけど僕らは京の生活のままだからね。」
うーん。今の家も立派だけどあと数年したら安土に引っ越しだからな~。ってそういう話じゃない。話を変えようか。
「今年は大きな出来事が多かったですね。」
「足利、朝倉、あざ…。ごめんね、万福丸。」
久太郎さん、もうちょっと考えてから発言しようね。
「気にしないでください。孫四郎様のおかげで浅井は滅びていませんし。」
本当に気にしていなさそうだ。よかった。
「滅びたと言えば三好がこの間滅びましたね。」
「義継と一緒に岩成友通も討たれたからこれで三好三人衆で生きているのは長逸だけだね。」
三好義継が自害した。史実では佐久間様によって城が包囲され自害するはずだったのにこの世界では若江三人衆のみが裏切って義継を自害させた。
「まあ久秀殿が戻ってきたのはいいことですけど。」
「あの老人を信じちゃうの?」
「あの人が裏切った理由面白いですよ。今度会った時聞いてみたらどうです?」
久秀殿が裏切った理由をこの間聞いたけどちょっと今は思い出したくないのでまた別の機会に思い出すとしよう。
「慶松は今年新たな出来事があった?」
「万福丸殿に出会えたこと、半兵衛様に色々な教えを得たこと、ぐらいですかね。」
「いいじゃん。出会いがあるって大事なことだよ。でもそれで言ったら僕も今年は出会いが多かったかな。…っと手紙も書き終わったし将棋を打ちますか。慶松、付き合ってもらっていい?」
「はい。私でいいのであれば。」
「うん。最近の慶松は先生の教えを上手に受け継いでいて半兵衛二世と言えるぐらい強くなっているから。」
「でも久太郎様も―」
「もう2人にはついていけないよ…。」
何か顔青ざめてない?そんなに恐ろしいの?…そうっとしておいてあげるか。
「では対局お願いします。」
いつの間にか準備ができていた。横を見ると万福丸が自分用意しましたよという視線を送ってきた。いつもありがとう。
「こちらこそ、お願いします。」
お饅頭を食べながら将棋を打つのはとても楽しいことだ。信玄の死から始まった一年間。疲れて疲れまくった一年間。来年からは多少は楽になるだろう。今日は明日のお正月の準備が終わったらさっさと寝よう。
【王手させられるよ。】
え、こんな時に考えに入ってこないでよ。自分で考えているんだから。
「王手です。」
「それは避けられるよ。」
「ではこれなら。」
「…参りました。」
【ね、言ったでしょ?】
犬千代の言うこともあってるんだけどね。僕は1人でやりたかったな…。
~秀吉視点~
「そーれそれやと叩いてどっこい!」
「長きの夢が叶ったり!」
賑やかだな。まさかおいらが城持ちになるなんて10年前だったら考えられなかっただろう。足軽だったおいらが今浜…じゃない長浜という地を守るように命じられたのだ。ねねや母上に伝えたら大泣きしていた。俺は幸せ者だな。家臣にも恵まれ家族にも恵まれ運にも恵まれるなんて。
「お前様!明日のために餅を焼いてみたんだけど味見してみる?」
「おう!小一郎や小六殿、半兵衛殿も呼んでくるわ!」
「呼ばれる前に来てますよ。兄上。」
「ちょっと周りを見てから発言してほしいものだな、藤吉郎、いや、羽柴秀吉殿。」
「小六殿の仰る通りです。城持ちになったのですからもっと頼もしくしてもらわないと…。」
何か皆固っ苦しいぞ。
「や、やめてくれ!おいらはそんな立派なもんじゃない!」
「ん?どうかしたか?羽柴殿?」
「それが嫌なんだ!昔のように藤吉郎で構わぬ、小六殿。」
慣れない。名字をこの間木下から羽柴に変えた。丹羽様の羽と柴田様の柴を一字ずつ頂いたものだ。2人とも喜んでいた。まさか柴田の親父様が喜ぶとは思わなかったが。なんて思いながら餅を食べる。
「うん、旨いな。お虎と市松、それから佐吉も呼んで来い。」
「そう言うと思って3人も連れてきましたよ。秀吉殿。」
半兵衛殿はいつも秀吉殿と言ってくれているから慣れているな。
「来たな。ほれ、3人とも食え食え。まだまだ成長盛りだからな。」
「「「ありがとうございます。」」」
加藤虎之助はおいらの又従兄弟、福島市松はおいらの従兄弟、そして石田佐吉はそこらの寺にいた小僧だ。
「おい、佐吉。お前小食だろ?だったら少しぐらい分けてくれるよな?」
「何でです?そうやって小食と決めつけるのはよくないかと。」
「あーん?」
「待て待て。これは市松が悪い。人の分を取り上げるのはよくないだろ?」
「虎之助…てめえ!…ひっ!」
お虎、やっぱりこの3人の中で一番怖いのはお前だな。
「まあまあ。足りないんだったらねねがまた焼いてくれるから、な?」
「え?あ、うん。焼くけど。」
「本当か?おねね様!」
「ちょっと待ってな!」
すまんなねね。
「すみません秀吉様。もっとうまく止められれば良かったのですが。」
「気にするな。この3人の中で一番調和がいいお前が止められないなら無理だってことだ。」
「…そういえば京には自分と年が同じなのに信長様に気に入られている者がいると聞きましたが。」
孫四郎のことか?
「そいつは優れもので仲良くしておいた方がいい人と良くない人の差が瞬時にできてな。俺にも好意的に接してくれてる。」
「鉄砲の名手とも聞きましたが。」
「あいつに敵うのは雑賀衆の孫一ぐらいだろうな。お前たち3人が協力してもきっと倒せないぞ。」
「それに今、私が教えているその子の家臣も優秀ですよ。」
慶松のことだな、半兵衛殿。
「ああ。あの2人がおいらの家臣じゃないのはもったいないことだ。あの時譲らなければよかった…。」
「秀吉様がそこまで言う2人…。俺も会って見たいです!」
「あいつらは普段京に住んでいるからな。あの辺りで一番でかい家だから誰でもわかる。でもお前を京に連れて行くのはな…。」
「来年また長島を討伐する時に長浜によるとこの間書状を貰いました。その時に顔を合わせてはどうでしょうか?」
「半兵衛殿の言うとおりだな。来年になったら合わせてやるぞ。」
嬉しそうな顔をしている。孫四郎はきっと虎之助とは相性が合うだろう。でも市松や頭が固い佐吉とは相性が合わないだろう。孫四郎は誰でも仲良くなれると見えて佐久間様や林様とかとは仲良くしようとしないもんな。柴田様もその対象と思ったけどこの間の戦で将棋をやるほど仲良くなったって聞いた。親父様は頑固だけど悪い人じゃないもんな。
「秀吉様?」
「あ、寒くなってきたな。先に中に入ろうか。」
来年はそんなに戦はないだろう。早く皆が笑って暮らせる世になってほしいな。
~利家視点~
「お市様!今日も遊びに来ましたぞ!」
「権六ですか。お入りください。」
全く、親父様は何で冬の勤めが終わった後に俺を何度も巻き込んでお市様に合おうとするのか。1人じゃ恥ずかしいから付いて来いってまるで親父様も藤吉に¥と変わらないぐらいお市様のことが好きなんじゃないか?
「柴田様、こんにちは!」
「お、茶々様に初様。こんにちは。今日は何をして遊ぼうか?」
「親父様、そうやって遊んでこの間腰を痛めていたではありませんか。」
「そうなの?柴田様?」
「いえ、この権六。御年52ですがまだまだ体は衰えてござらんぞ!さあさ。何をして遊びましょう?」
楽しそうだな。なんて見ていたらお市様が俺に向かって手招きをしている。何だろう?
「お呼びでございましょうか?」
「先日は貴方の息子の孫四郎に助けられました。礼を言います。」
小谷落城の際に孫四郎が姫様方を助けたのは有名な話だ。俺は驚いた。姫様方を助けたのもそうだが茶々様と初様を抱えて逃げたということに驚いた。
「いえ、俺はあまり事情を知らないので…。」
「それで1つ相談なのですが…。」
何だろう?
「縁談についてです。」
誰が?孫四郎がか。誰と?…もしかして。
「あの2人は孫四郎のことを好いています。恐らく江も孫四郎のことが好きになるでしょう。」
待て待て待て。確かにあいつは顔もいいし性格もいい。でも、え?お市様の子と嫁がせる?
「え、そんな、その。」
「私も悩みました。ですが信用できるのは孫四郎殿のみなのです。年的にも性格的にも。」
何を言いたいかわかった。お市様はもしものことがあったら3人とも孫四郎に預けようとしている。
「ですがそんなこと許されるわけ―」
「前例がないだけです。孫四郎はきっと皆から好かれる存在になるでしょう。それに、」
長政様も孫四郎と同じような使命を背負っていましたから。
え、長政と同じ使命?…まさか。
「え?じゃあお市様は。」
「全部知ってます。あの2人はこの時代の人間ではないということを。」
まじか。孫四郎だけじゃなく長政もだったのか。
「これは運命だと感じています。」
うーん。だとしたらそうしてもいいのか?いや、事情を知らない信長様が文句を言うに違いない。噂によると来年生まれる姫様をそのまま孫四郎の正室にしようと考えているらしいし。
「まだいいんじゃないですか?孫四郎も姫様たちもまだ幼いと言っては何ですけど…。」
「そうですね。…このことは2人だけの秘密ということで。」
「…はい。」
その後も姫様方と戯れる親父様たちを見ながら2人で色々な話をした。親父様の話をするとクスクス笑ってた。お?もしかしてこの2人…。藤吉、残念だったな。お市様はお前よりも親父様を気に入っているぞ。
~武田勝頼視点~
今年は不運なことが多かった。父上の死、それは武田にとってデメリットでしかなかった。俺や昌幸は父上の遺志を受け継いで西へ向かおうとしていた。なのに小山田信茂がどうしても行くなと断固拒否したせいで作戦が失敗してしまった。あの時行かないと無理なんだ。いや、違うな。来年が最後のチャンスだ。これで無理だとしたらしょうがない。天下は諦めて武田の名を残すことだけを考えよう。絶対に長篠だけは起こしてはならない。絶対に。
加藤清正・福島正則・石田三成・武田勝頼が出てきました。
それぞれ大事な役目を持たせる予定です。
特に勝頼は言葉遣いからわかるかもしれませんが転生者です。一体孫四郎とどんな関わりを持つことになるのか。また後々の回をお待ちください。
次回で第3章はおしまいです。次はいよいよ第三次長島一揆です。




