45 未来から来た者の運命
このタイトルでは運命を「うんめい」と読むのではなく「さだめ」と読んで下さい。
お昼の回よりも5倍ぐらい文量が多いです。キリが悪かったので全部入れてしまいました。
8月26日に我らは虎御前山に戻った。
「秀吉、小谷の状況はどうだ?」
「それが…某と半兵衛で何度も交渉を依頼しているのですが全く応じてくれませぬ。」
「であるか。半兵衛、どうすればいいと思う?」
「長政殿が応じないのは小丸にいる父、久政殿に遠慮されてのこと。とするとまずは本丸と小丸の間にある京極丸を落とせば両者は分断されます。」
「その後小丸を落とし、再度依頼してみるか。わかった。その通りに行おう。」
珍しい。他の家老様たちから反論が出なかった。秀吉様は嫌われてても半兵衛先生は嫌われてないもんね。それにしても不可解な点が1つだけある。なぜ長政殿は金ヶ崎で秀吉様を討ち取れるチャンスで撤退したんだろう?越前から戻っている最中に思い出したんだけどよくよく考えたらおかしい点がいくつかある。少し悩みながら攻撃の準備を始めた。
翌27日、京極丸はあっという間に落ちた。さらに秀吉様の活躍により小丸もあっという間に落ちた。浅井久政は一族の人と一緒に自害したそうだ。久政の首は丁重に葬った後、義景の首の横に置かれた。無念だっただろうな。あの時織田を叩いておけば僕も信長様もきっと助からなかっただろう。もったいないの一言しかかけることができなかった。
翌日、ようやく浅井長政殿は面会を許可した。
「さて誰が行くか。」
「ここまで頑張ってきたのは秀吉様です。よって秀吉様が行かれるべきでしょう。」
珍しく周りにお偉い方々がいるのに僕に話を振られた。急に聞かれてしまったので考えることができず普通の答えを返してしまった。
「それに秀吉なら長政でも話を聞いてくれそうだしな。…孫四郎も行くか?」
え?僕が?
「いいのですか?」
「ああ。秀吉の考えは面白いぞ。近くで学んでくるといい。それに流石に面会中に殺すほど長政は野蛮な男ではない。行ってこい。」
せっかくだし会って見るか。これが最後のチャンスだもんね。
「わかりました。」
秀吉様と共に城番に目的を伝えて城内に入った。結構広い。岐阜城の部屋ともそんなに変わらない広さだ。案内された部屋でしばらく待っているとスッとした足音が聞こえてきた。
「お待たせいたしました。どうぞお顔をお上げください。」
そうっと顔を上げたら見覚えのある顔が目の前にいた。相手も驚いている。まさか…そんな…。
「あ、あの時私が追撃した方がまさか貴方様だったなんて知りませんでした。」
「こちらこそ…。まさか子供に撃たれて殺されかけるとは思いもしなんだ。」
なんてことだ。なんてことだ。何で僕は今ここにいるんだ?
「どういうことでしょうか?某にはすっかりわかりませぬが。」
秀吉様が困った顔をしている。
「3年前、私が敵の侵入を防ぐために鉄砲で撃った相手が浅井長政様だったんですよ。」
長政殿はこくんと頷いた。表情は変わっていないけど内心では恨まれてるかもしれない。
「今もこの顔ということは当時はいくつだ?9か10ぐらいか?」
「はい。…あの時は申し訳ありませんでした。」
「気にするな。逆にあの時撃たれとけば皆死なずに済んだのかもしれんな…。」
ど、どういうこと?とりあえず今までの罪を暴露するか。
「私がしたことはそれだけではございません。遠藤直経殿、今村氏直殿、弓削家澄殿もあの戦いで討ってしまいました。本当に申し訳ありません。」
しばらくの間、長政殿の前で頭を下げ続けた。すると、
「秀吉殿、しばらく2人で話をさせてくれぬか?2人きりで話をしたい。」
と言ってきた。僕殺される?そんなことはないと思うけど。
「え、いや、それは。」
あ、表情でわかった。きっと誰にも聞かれたくないことを話したいのだろう。何を話したいのかはわからないけど。
「秀吉様、長政殿はきっと私を殺すようなことはしないと思います。…大丈夫です。必ず本陣に戻って見せますから。」
「…外で待ってるからな。もしものことがあったら信長様に言ってやる。」
「そんなことはないと思います。さあ、早く。」
秀吉様は心配そうな顔をしながら出ていった。
「秀吉の扱い方もわかっているのか。」
急に呼び方を変えた。…この人表裏がはっきりしているタイプだ。でも嫌いではない。
「まあ長年の付き合いですから。」
「…さて、なぜ2人きりにしたかわかるか?」
わからない。でもきっと2人じゃないと話せないことがあるんだ。首を振ったら長政殿は驚きの言葉を言った。
「俺はこの後の未来のことを知っている。この後信長が本能寺で死んだりさっき出て行った秀吉が天下を取ることとかな。」
「え⁉」
それ以上の言葉は出なかった。本当に?
「其方の言動からしてこの時代で生まれたものではないことがわかって言っている。そうだろ?」
周りに他人がいないことを確認した。僕も本当のことを言おう。
「…はい。私は今から500年後の未来から来ましたから。」
「俺は平成になってすぐに病死した。まだ28だったかな。その時に色々な声を聴いてなぜか浅井長政に転生した。」
自分と同じだ。長政殿は続ける。
「なるべく史実通り生きようとした。だが家族が別れることだけは避けたかった。だから金ヶ崎では裏切ることを阻止しようとした。でも無理だった。あの親父のせいで。」
「では秀吉様を生かしたのも?」
「義兄上に天下を取ってもらうためだ。だが手を抜いたことを知った阿呆は次の戦で本気で攻めなかったら市を殺すと言ってきた。しょうがないから姉川では死ぬ気で攻めた。」
だからあの時の長政殿は多少焦っていたのか。
「それも間違いだった。直経を始める多くの家臣が討たれて行ってしまった。」
可哀想に。僕はまだ幸せだ。父上に先に自白したから一応この時代の中では自由に生きていられるほうだ。でも長政殿は父親に言わなかった。その結果、我が儘に振り回されることになってしまったのかな。
「親父が死んだ瞬間、俺は喜んだ。でももう時は俺が生きることを許さなかった。きっと信長も…義兄上も市たちは助けても俺を殺そうと考えているのだろう。」
「信長様は降伏したら大和一国を任せたいと言っていました。だから決して殺そうなんてことはしないと思います。それに、」
長政殿は信長様の家族ですから
そう言った瞬間長政殿は涙を流し始めた。
「まだ義兄上は俺を家族と考えているのか…。」
「きっとそうですよ。姉川の戦いの前には涙を流していましたし。…降伏してください。長政殿。あなたみたいな人は生きなくちゃ駄目だ。」
「…それは無理だ。ここで俺が生きても信長の大名潰しは変わらない。浅井もきっと扱き使われるだろう。それでは駄目だ。皆が幸せに生きれない世を作るなら俺は協力できない。」
この人は皆の幸せを願って生きていたんだ。僕や先生と同じ考えを持っている。長政殿は続ける。
「俺は近江国が好きだ。死ぬなら近江で死にたい。」
その口調からして本当に近江を愛していることがわかる。もう遺志は固そうだ。
「…私は絶対に貴方様の死を無駄にしません。長政殿の意志を受け継いで皆が笑顔で暮らせる世の中を創れるように尽力します。」
「…まだ死んでいないけどね。それと君に任せたいことがある。ちょっと待っててくれ。」
そうだ。死んでないじゃん。何言ってるんだ、僕。一旦部屋を後にした長政殿。数分後には子供の声が聞こえてきた。
「待たせたな。」
そう言って入ってきたのは長政殿と4人の女だ。3人は子供ということは…。
「長政殿の奥様と娘様ですよね?」
「ああ。サルに任せると危ない気がするからな。だが孫四郎殿。君になら任せられると思う。どうか義兄上の下まで届けてくれぬか?」
横を見ると妻であるお市様たちも護衛お願いしますというような目で見てきた。噂通り美しいな~。ってそうじゃない。まあいいお話聞かせてもらったお礼にならいいかな。多分大丈夫でしょ。浅井兵や織田兵に殺されはしないだろうし。
「わかりました。ですが私もこの体では子供ですからね。」
「大丈夫。君ならいけるよ。さあ早く。」
行こうとしたその時、隣の部屋から声が聞こえてきた。
「あ、奥方様がいない!者ども、捜せ!捜せ!」
「姫様を守るのだ!」
そうか。一部の兵は嫁いできたのなら嫁ぎ先で死ねと思っているんだ。でもそんなことはさせたくないな。
「早く!」
長政殿に急かされて後ろに置いておいた鉄砲2丁を背中に背負って4人…1人は抱かれているから3人か?を隣の部屋に手招きした。
「おそらく前の通路はこの騒ぎだと兵がたくさんいるでしょう。とするとこの下にある襖から行くのが上作だと考えますが…無理ですね。お市様はお江様を抱えていらっしゃるので。」
「いいえ。この子を生かすためなら少し無理をしてでも通します。」
怖え。親が子を守るときって大体こんな顔をするよね。
「私が最初に向かいます。次に初様、茶々様に通っていただき最後にお市様が追うという感じでいいですか?」
「何で茶々の名前を知ってるの?」
しまった。名を知らないはずなのに言っちゃまずかったか?ええい、ここは適当に。
「先ほど長政殿と話をした時に娘様の名前も教えてもらったのですよ。」
「ふーん。そうなんだ。」
助かった。さてくぐり始めますよ。
「後ろは任せて下さい。兄に多少は鍛えてもらったので。」
だから身のこなし方がいいのか。こういう時に信長様を改めて尊敬できる。(一部を除く)
「殿!姫様方を知らないか?」
「厠に行ったんじゃないか?」
「本当は知って居ろう?早く言いなされ!」
「だったら厠に覗きに行けばいいではないか?」
長政殿が頑張ってくれている。今日仲良くなった人のためにこんなに頑張ってくれるなんて…。
「絶対に生き残りましょう。長政殿が時間を稼いでくれているうちに。」
僕たちは皆で頷いた。
移動している間は茶々様からはどんな身分なの?とか好きな子はいるの?とか聞かれた。一応主君の姪ということもあり嘘をついたらまずいのでわかりやすく本当のことを説明した。一方の初様は泣きそうな顔をしていたからたまたま持っていたお饅頭をあげたら少しにこっとしていた。え?毒味をしたかって?ちゃんと自分が1つ食べて毒じゃないって証明しましたよ。ええ。
「そこを右に曲がると確か門の手前に繋がっているはずです!」
お市様、ちゃんとスパイとしての役目も出来ているんだ。
「了解です!では右に曲がりましょう。」
曲がって20mぐらいで扉が見えた。そこを出た瞬間、僕たちは浅井兵に囲まれた。次の瞬間、
「きゃっ!」「助けて!」
茶々様と初様が捕まった。急いで連射型の鉄砲を持って弾を込める。最近改造したから5秒で撃てるようになっているから引き金を引こうと思った。でも、
「おっと。ここで撃ったら姫君はどうなるかな?」
と脅された。
「お市様、お下がりください。私が相手だ。姫様を離せ。」
「離すものか!どうせそこの姫は織田の間者なんだろ?だったら殺してもいいよな?」
まずい。そんなに首を絞めたら2人が死んじゃう。とするともう1つの方がいいか?と考えながら2本目の単射銃を取り出す。こっちは時間がかかるけど1発しか出ないから連射式よりは2人が当たる確率は低い。
「ん?何を考えているんだ?」
「仮に人質に取ったとしても僕の腕にかかればお前の首ぐらい普通に射抜けるはずさ。」
挑発することによって相手は我武者羅に動くはずだ。
「ふん!これでもか?」
「やめて!」「苦しい…。」
ダン!
人を殺すことは悪いことだ。でもそれがいい場合もある。さっと茶々様をキャッチして優しく床に下ろす。父上、あなたに教えてもらった避け技が今役立ってます。
「お、おい!…まじかよ。」
後は初様を助けるだけ。すぐに助けるために弾込めを既にしていた連射式に持ち替えた。大丈夫。相手はぼーっと立っているだけだから。
ダダダダダダダダン!
「グッ!」
全部兵の頭に当たった。この高さなら手を出さない方が初様に怪我をさせずに済むね。
「お怪我はございませんか?」
「大丈夫!ありがとうございます。孫四郎様!」
「ありがとうございます。」
可愛い子に敬語を使われちゃったよ。照れるな。
「逃がさんぞ!」
やばい!まだいるの忘れてた。
「あ!」「う!」「グエ!」
次の瞬間、兵たちの後ろから知らない男の人が出てきて彼らを討っていった。かっこいい…。
「藤掛殿、助けてくれたのですね。」
「ご無事でしたか、お市様。それから姫様方。」
藤掛って誰だ?と思ったら脳みそにデータらしきものが送られた。
藤掛永勝
織田一族の末裔。
え、この人織田一族なんだ。なんかすごい人に会ったね。とりあえずお礼を言っておこう。
「助かりました。私1人では倒しきれない量だったので。」
「こちらこそ。大事な姫様を守ってくれたこと感謝する。」
「おーい!孫四郎!」
その声が聞こえた瞬間お市様の顔から笑みが消えた。何となく理由分かるよ。まさか本当だとは思わなかったけど。
「秀吉様!遅いですよ!」
「すまない!すぐに気づけなかった!」
その声を聞いてる時もお市様は段々顔を暗くしていった。まずい!
「お市様!ここからはおいらが―」
「大丈夫です。ここまで来たら私とそこにおられる藤掛様だけで届けられます。秀吉様は先にお市様たちの生存の報告をしてきてください。」
「お、おう。わかった!」
ごめんね秀吉様。きっと秀吉様の表情からしてお市様のことが好きなんだよね。でもこれ以上一緒にいるとお市様のストレスが爆発しちゃう気がするんだ。許してね。
「母上、疲れた。」
茶々様が疲れている表情でそう言ってきた。
「あと少しだから辛抱なさい。」
「無理!」
どうすればいいんだ?
「そうだ!孫四郎様の背中に乗せてもらってもいいかな?」
「え!そんなことしていいんですか?」
「茶々、それは孫四郎殿に失礼に当たりましょう。頑張って歩くのです。」
別にいいんだけど…。可哀そうだしな…。でもそうすると初様に失礼か。
「お願い!孫四郎様!」
「…いいですよ。初様も乗りますか?前が空くと思うので。」
「大丈夫ですか?そんな無理しなくても…。」
「茶々様や初様ぐらいの年頃だとお城から抜けるだけで疲れてしまいますしさっきみたいに敵に捕らわれる可能性も考えるとこのほうがよろしいかと。」
「孫四郎殿、この藤掛もいるから疲れたらいつでも言ってくれ。」
皆優しいな。でも多分大丈夫。仮に11歳の体でも2人を乗せるぐらい出来るはず。…思っていたよりは重い。でも行けなくはないね。
「進めー!」
え?茶々様?もしかして馬みたいに行けって感じですか?
「それは無理です…。」
「父上はよくやってくれたんだよ!」
多分茶々様が言ってるのは1人で乗っている時にやってもらうやつだよね。僕も多分1人ならできるけど2人いたら体的にも安全的にも保障出来ないよ。
「もっと大きくなったら出来ると思いますけど…。」
「じゃあ約束しよ!また茶々たちと遊ぶって。」
今日会ったばかりだよね?そんなに気に入ってもらえたの?嬉しいけどまた会えるかな?…可愛い。わかったよ。
「約束します。絶対に。」
「それともう1つお願いがあるんだ。」
声色が変わった。きっと真面目なことだ。
「兄上が昨日北の方へ行くと言って城から逃げていっちゃったの。もしかしたら殺されちゃうかもしれないから早めに見つけてあげてほしいの。」
「茶々、それは…。」
「初からもお願い!優しい孫四郎様にしかお願いできない!」
初様まで…。長政殿に男の子がいたなんて知らなかった。何で言ってくれなかったんだろう?
「名前は何ですか?」
「万福丸だよ。」
浅井万福丸ね。こんなに僕のことを信頼してくれているなら出来る限りは協力してあげたいな。
「この戦が終わったら信長様に許可を得て探してきます。」
「本当に⁉」「嘘じゃない?」
「ええ。ですがそう簡単には見つからないと思いますけどね…。」
そんなことを言っていたらあっという間に本陣に着いた。
「市!無事だったか。不安な思いをさせてすまなかったな。」
「全然。兄様なら助けてくれると信じておりました。」
よかったですね。僕はもうへとへとですよ。
「孫四郎、何で2人の娘を抱えているのだ?」
それは聞かないでくださいよ。というかその目だったら何となく察していますよね?
「それは茶々と初がお願いしたことなので孫四郎殿は悪くございません。」
「そうか。ご苦労であった。そこにいるのは藤掛か?」
「はい。ご無沙汰しております。信長様。」
「其方も無事だったか。…長政は?」
「長政様は兄様に降伏したらこの後、一度裏切っても自分のような件があるから大丈夫だろうという悪い例を生んでしまわないように城と共に最期を迎えると言っておりました。」
「長政…。」
やっぱり僕が考えていた通りだった。信長様は家族を大事にしている。それは長政殿も同じだったのだ。何でこの2人が戦わなくちゃいけなかったんだ。絶対に信長様と長政殿は気が合うはずだったのに。
その4日後、浅井長政は小谷城で自害した。
浅井長政退場。その生き様は主人公に大きく影響することになります。
茶々、初、江は孫四郎のことをどう思っているんでしょうね?また次回以降分かっていくと思います。




