37 小早川隆景との出会い
久しぶりに新たな重要人物が来ました。
孫四郎より前に五大老になる小早川隆景です。
6月1日、僕は二条城に呼び出された。この城は久太郎さんがメインとして頑張って建てた城だ。よく造りを見ておこう。
「お、来たか。孫四郎。」
見てる途中だったけど話しかけられた。すぐに応答しないと色々な意味で首を切られるかもしれないからすぐに話しかけてきた相手に向かう。
「これは信長様。一体なぜ今日は二条城で待ち合わせなんですか?」
「これから依頼することは義昭殿と2人で出すものだからな。」
「く、公方様に会えるのですか?」
「義昭殿はどうしても其方に任せたいそうでな。」
「は、はあ。よくわかりませんがお話を伺いに行きましょうか。」
中はまあまあ豪華な造りだった。信長様は僕より少し前の席に座った。僕みたいな身分にも座布団がある時点で結構な金持ちであることが分かった。…違う違う。ほとんど織田家が出費しているからこれ実際には織田の金で買っているやつじゃん。
「面を上げよ。其方が前田利長か。其方の活躍はよく耳にしておるぞ。」
「あ、ありがたき幸せで、す…。」
何でこの人相手に嚙んでいるんだ?確かに予想以上に優しそうな顔をしているけれども。落ち着け、僕。
「其方に頼みたいのはな。小早川隆景に書状を届けてほしいのじゃ。」
「小早川隆景というと毛利の一族の―」
「そうじゃ。今、畿内で篠原が暴れているのを知っているだろう?」
「はい。確か先月の中頃辺りから暴れ始めたそうですね。義継殿や三人衆の方が止めよと言っても止まらないそうで。」
5月の中頃辺りから篠原長房が備前や機内で暴れだした。去年和解した三好三人衆は関わりがなさそうなのが不可解だ。なぜ篠原は独断で攻めだしたんだ?もしかして三好本家と何かあった?
「重朝や親興、惟政には近日中に打ち払うべきと言っておいたがそれだけでは心配でな。それで毛利に篠原討伐の依頼を出そうと思っているのじゃが。」
「私一人で安芸まで行くのですか?」
確か毛利って安芸を中心に活動しているはずだ。そんな遠くまで1人で行きたくない。
「いや、今は浦上と争っているはずだから備前にいるはずだぞ。」
だとしても遠いじゃん。やだな~。
「久太郎もつけてやるがそれでも駄目か?」
「…今の毛利の状況から考えていくべきではないかと。」
何を言っているんだ、僕。勝手にしゃべりだしたよ。
「どうしてじゃ?」
「元就殿はここ数年体調を崩しています。噂によると今にも死にそうな状況らしいです。それなのに向かったら毛利側からしては迷惑かと。」
すごい。本当に勝手に喋ってる。
「そのような状況誰から聞いたんじゃ?」
「商人の方でございます。」
嘘つけ。僕は何も聞いてないぞ。何でこんなにペラペラ話されてんだ?
「…だとしても行くべきじゃ!な、信長殿。」
「…は?頭だいじょ―」
「行きます。その書状を私に下さい。」
ようやく僕が喋れるようになった。信長様危ないですよ。ここで挑発してはいけません。それにしても小早川隆景か。後の五大老の一人。一体どんな人だろう。後で半兵衛先生に聞いてみよう。
6月3日
朝早すぎる。飼っている馬も眠そうだ。
「行くよ。早くしないと時間かかっちゃうよ。」
久太郎さんは元気でいいですね。僕は全然行きたくないですよ。
「ただでさえ3日かかるらしいじゃないですか。何でこんな遠い場所まで行かなくちゃいけないんだろう…。」
「将軍様は気まぐれだからね。」
「はあ。それで本当に吉田郡山城でいいんですか?」
「調べた感じだとね。備前での毛利の立場はそんなに入ってないみたい。」
「なるほど。じゃあゆっくり行きますか。」
それから4日間かけて吉田郡山城へ着いた。至急の手紙と言われたけどあまり急ぎすぎると浦上の人たちに怪しまれそうだったので旅人に変装したり備前国あたりで宿に2回泊まったりした結果、結構時間がかかってしまった。吉田郡山城は立派な城だった。あの尼子を退けた理由もよく分かった。毛利の方への手続きは全部久太郎さんがやってくれたからその間は馬の手入れや城下の視察に時間を費やすことができた。隆景殿に会えたのは6月8日だった。
城の応接室みたいな場所に通された。目の前にまだ若そうな人がいる。この人が小早川隆景という御方か。
「初めまして。今回、信長様と義昭殿に使者として向かうように命じられた前田孫四郎利長と申します。」
「その助役の堀久太郎です。」
え、名乗るときってそこまででいいの?
「小早川又四郎隆景と言います。見た感じ2人とも若そうに見えますが織田家は若くても優秀な人材を使っているというのは本当のようですね。」
すごい丁寧そうな人だ。信長様より1つ年上と聞いているけど見た目で言えば隆景殿の方が若そうに見える。
「どうします?本題からいくか世間話からいくか。」
珍しいタイプだな。そんな聞き方する人前世でもなかなか見なかったよ。そうだなぁ。せっかくだし隆景殿と色々な話をしてみようか。
「隆景殿は御年37と聞いていますがわが主よりも若そうに見えます。何か秘訣があるんですか?」
「秘訣ですか。そんなのはないですけど毎日栄養が偏らないように食を摂っています。運動も元春兄上に教わってやっています。」
「それだけでこの肌感はすごいですね。あ、そうだ。私の師匠である半兵衛先生が隆景殿にサイン…直筆署名を貰いたいと言っていました。この色紙にお願いします。」
「直筆署名?」
やばい。そのまま訳しすぎたかもしれない。困ったので久太郎さんをちらっと見たら、
「隆景様の座右の銘と名前を書いて頂きたいのです。ですよね?」
とフォローしてくれた。うーん。それでいいのかな?まあいいか。
「あ。その通りです!お願いしてもいいですか?師匠はどうしても欲しいそうなんです。」
「…いいですけどサインというのはどこの言葉で?」
ごまかしきれなかった…。こんな時に名を借りるのはポルトガルだ。
「葡萄牙の言葉です。」
「孫四郎殿は異国の言葉もわかるのですね。」
「多少ですけどね。」
全ポルトガル人の皆さんに謝りたい。適当に言ってしまってごめんなさい。
書いてもらったサインは中々きれいな字だった。少なくとも僕や佐久間様よりは上手い。
「それで本題なんですけどこちらの書状を見てもらいたくて。」
この間義昭に書いてもらった書状だ。隆景殿は悩んだあげく、
「…これは難しいですね。父、元就の病状がすでに手遅れな状況でして。」
と答えた。
「ちょ、ちょっと待ってください。そんな情報簡単に言っていいのですか?」
久太郎さんが驚いている。確かに久太郎さんの言うとおりだ。僕だって父上や信長様が危篤の状態になったとしてもそう簡単に他家には言わないと思う。何で言ってくれたんだろう。
「毛利は織田と争いたくないのです。情報は全て提供しても構いません。」
「な、なんと。」
「無防備すぎませんか?」
2人で突っ込んでしまった。子供だからって舐められてる?嘘か本当かの区別を僕はできるんだよ?今のところ全部本当の話だし。
「毛利は中国から戦がなくなればそれ以上のことは望みません。」
「中国だけでいいんですか?仮に織田は敵対しないと決めたとしても西の大友、島津、龍造寺や南の長宗我部は中国に手を出してくるでしょう。」
「かと言って西日本と決めてもそんな広大な土地を輝元が治められるとは思えません。」
もう次世代のことを考えているんだ。確かに元就なら治められたかもしれないけど輝元の代になると一気に領土が小さくなるもんね。
「上様には父の喪に服した後に参戦すると伝えてくだされ。」
「いいんですね?義昭殿が口を滑らせて他家に伝えてしまったとしても。」
「仕方ありません。…貴方もまだお若そうなのに結構突っ込んできますね。いくつでしたっけ?」
「今年で10でございます。」
「…!これは立派な将になりますよ。信長にはもったいない子だ。孫四郎殿、毛利に仕えませんか?」
また誘われたよ。僕は嫌だよ。毛利って結構毒殺とか粛清とか多そうなイメージしかないもん。
「ありがたい話ですが私は信長様の側で働きたいので辞退させて頂きます。」
「冗談ですよ。…でも気を付けた方がいいですよ。信長は十数年以内に誰かに討たれる。」
え?何でこの人知っているの?
「それって前に孫四郎さんが言っていた…。」
ちょ、久太郎さん。珍しくぼろが出ているよ。駄目だよ、そんなこと言っちゃ。何とかその言葉を忘れてもらわないと。
「隆景殿、一体誰からその話を聞いたんですか?」
「父上に聞きました。信長は天下に一番近いが側に仕えている者によって十数年以内に討たれるだろうと。父上が言ったことは大体当たります。」
元就さんすごすぎない?僕みたいな転生者じゃないのにわかるなんて。
「それと先ほど久太郎殿が言っていましたが貴方も何か知っているので?」
「はい。私に至っては誰が起こすのか、そしていつ起こるのかまで把握しています。ですがその者がなぜそんなことをしたのかはわかりませんが。」
「貴方は一体…。」
「それは聞かない方がいいです。私も聞きましたが理解するのにかなりの時間を要しましたから。」
噓つきなさんな。僅か10秒で理解したあのことは忘れていないよ。
「…わかりました。つまり父上が言っていたことは本当なんですね。」
「はい。ですが私とそこにおられる堀様、それから私の父がそのことを知っているので阻止できるかもしれませんが。」
「つまり信長が20年間討たれなかったらただの噂話で終わるだけですね。」
「そうなりますね。」
「ところで2人とも泊まる場所はどうしているのです?」
泊まる場所?
「宿に泊めてもらってます。」
「今日は私の家に泊まりませんか?お代は頂きません。」
「…どうし―」
「お願いします!」
久太郎さんを振り切って僕が先に言った。半兵衛先生からあの人も相当頭がいいと聞いていたんだ。是非軍談を聞かせてもらいたい。
「ちょ、孫四郎さん⁉」
「せっかくの機会だし、ね?」
「…しょうがないなぁ。死んだら孫四郎さんのせいね。」
「大丈夫。隆景殿がそんな人には思えませんから。」
「フフッ。では我が家にご案内します。」
めちゃくちゃ遠かった。馬も疲れた表情を見せている。ここが竹原か。1日で行ける距離だけどこんなに遠いなら先に言ってよ、隆景さん。
「2人一緒の部屋になっちゃうけどそれでいいですか?」
「「大丈夫です!」」
そんなの慣れているからね。なんだかんだ言って久太郎さんもノリノリじゃないか。お世話になる人にお願いしますという気持ちを込めてお辞儀をしてからお城に入った。
案内された部屋に入った。
「広いですね。岐阜の自分の部屋よりものびのびと過ごせそうです。」
「そうだね。…って何で先に茶を飲もうとしているの⁉毒味は⁉」
「いらないでしょ。隆景殿に我らが憎まれるようなことはしてないですし。」
「だとしてもね。普通は警戒するでしょ。こういうところは信長様に似なくていいから!」
前世の爆弾解除の時からこういう時の危険は感じていなかった。だから信長様を真似しているわけじゃないんだけどね。
「まあまあ。そんなこと言っている間にお茶が沸いてますよ。」
「人の話聞いてる?いや、君に限って聞いてないことはないか。」
「うん。美味しいですよ。」
「全く。賦秀が言っていたとおりだね。でもそういうところが皆に好かれる理由なのかな。」
何の話だかさっぱり分からん。とりあえず落ち着いてお茶を飲んでから話を聞く準備をしますか。
翌朝
「お世話になりました。昨日は兵法や軍略の話をたくさん聞けて本当に良かったです。帰ったら半兵衛先生にもお話しますね。」
「こちらこそ。今の若者にそんな勉強熱心の子がいるなんて知りませんでした。またいつか再びお話したいですね。」
「はい!…では我らは京に戻ります。」
「上様と信長によろしくお伝えください。」
「わかりました!」
楽しかった隆景さんとの対話。絶対に忘れないよ。また3人で…いや、今度は半兵衛先生も加えてお話したいなあ。でも先生の寿命的に無理か。後でどんな話をしたか伝えてあげよう。
そしてこの時はまだ気づいていなかった。悲劇の争いがもうすぐ側に来ていることに。
悲劇の争いは有名なあの焼き討ちです。
分からない人は明日の投稿をお待ちください。きっと「ああ…」ってなりますよ。




