32 野田・福島の戦い
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疲れた。久太郎さんに団扇で仰いでもらいながらこの間から考えていたことについて聞いてみることにした。
「…久太郎さん。どうしたら日ノ本から戦が消えますかね?」
「急にどうしたの?」
「実は―」
僕は姉川で起こったことを全て久太郎さんに話した。あれ?気づいたら涙が止まらなかった。きっと人を殺した虚しさや悲しさがどっとあふれ出てしまったんだろう。
「よしよし。でもこれで泣いてたらあと何回泣かなくちゃいけないの?」
「え?」
「信長様はまだまだ止まらないよ。進むたびに戦が起こりまた人を殺す。戦国というのはそういう時代なんだよ。」
「…。」
久太郎さんが言う言葉とは思えなかった。何かカッコいいです。
「あ、肩こってるね。揉んであげるよ。」
あぁ涙が止まらない。落ち着くんだ、僕。…僕は決めた。いつかこの国を戦のない世に変えることを。長政殿も望んでいて戦いに行ったわけじゃないんだ。あんな悲しい戦はもうごめんだ。
数日後
訓練場で皆と鉄砲の練習をしていたら丹羽様が急に飛び込んできた。
「三好三人衆が攻めてきたらしい!」
もう、すぐに戦が始まるよ…。でも今回は僕は参加しないと思う。
「孫四郎もついてこいだって。」
前言撤回。え、え、え⁉
「は、はい?なぜです?皆前回の戦で疲弊していますよ。」
「違う違う。お前だけ来ればいいとのことだ。」
僕が疲れていないとでも?正直めんどくさい。嫌だ。だけど断ったら今後どうなることやら…。
「丹羽様、ちょっとお話が…。」
松右衛門さんが丹羽様の耳元で何かしゃべっている。丹羽様は何?とか疑った後に僕に向かってこう言った。
「今度の戦に出てくれたら饅頭1箱買ってあげるから頼む!」
物で釣るなんて悪いなあ。流石に饅頭一箱で動くわけありませんよ。命の方が大事ですし。首を横に振ろうかと思ったら、
「じゃあ3箱!」
「行きましょう。」
しまった。思わず言ってしまった。三箱って結構高いよ。それなら頑張ってもいいかな。
「そうか。ならば信長様にもそう伝えておくぞ。」
あーあ。せっかくの休みだと思ったのにー!軽く松右衛門さんを睨んでおこう。
「そんな風に睨んでも全然驚きませんよ。」
そりゃあ9歳の目ってまだ優しいからね。…なんて考えている場合じゃない!急いで準備をしないと…。
8月20日岐阜を出立した。確かこの戦で敵として参戦するのは三好三人衆、斎藤竜興、それから顕如だったはず。野田城・福島城の戦いなんて日本史の資料集の隅に書いてあっただけだけどよく覚えているなと感じる。
23日
信長様は京で一旦休息を取ると言った。ちなみに休息の場所は、
「本能寺…。」
そう。あの本能寺だ。史実では今から12年後に明智光秀がここで信長様を討つ事件が起こる。でもこの間の様子を見る限りとても起こるとは思えない。この後に2人の間に一体何が起こるんだろう?そんなことを考えながら3日間を移動しながら過ごした。
26日、いよいよ天王寺まで着いた。僕らはは40000人。対する三好は8000。5倍も差があるよ。これは勝ったでしょ。と何も知らなければ思える。でもなぜかこの戦は負けるんだ。何でだったっけ?何かおかしい点に気づけば勝てるかもしれない。もう歴史はだいぶ変わってしまっている。だったら僕のやり方で皆が幸せになれる世を作ってみよう。
軍議
「さてどうやって攻めようか。」
信長様が皆に聞いてきた。
「一つ言えるのは早めに終わらせないと本願寺が動くところですね。」
「孫四郎殿、それはなぜじゃ?」
誰だっけ。ええと、三好義継だ。義継殿に聞かれた。
「本願寺は周りがうるさいのが嫌いです。過去にも細川管領が本願寺周辺で戦をしていたところ周りで騒ぐなという理由で本願寺が乱入してきたことがあったそうです。」
これは前世で得た知識の1つだ。なぜかこの辺りの知識は無駄にある。
「とすると早く、かつ確実に倒せる方法を考えねばならぬな。」
「まずは調略をやるべきかと。」
「もうすでに根回し済みよ。ついでに義昭殿も呼んでおいたしな。」
「え、将軍様が来られるのですか?」
「それがこの戦を終わらせる最善の方法だろ?」
いや、将軍様はきっと役に立ちませんよ。
「義継と久秀と惟政は天満が森に陣を取れ。ただし攻撃はするな。奴らもこっちがやってこない限りは攻めて来ないはずだ。」
そうなんだ。…僕が来た意味とは。
「孫四郎は俺の側にいろ。」
「承知しました。」
これはお勉強会と考えて参加すればいいのかな?
28日に三好為三と香西長信が我らに降伏をしてきた。これが先日言っていた根回しかな。この調子で寝返り者がどんどん出てくれないかなと思ったけどそうは上手くいかなかった。そして9月3日には義昭が中嶋城に着いたという連絡が来た。多分効き目は薄いと思うけど降伏してくれないかな?
8日、信長様は義継殿を始めとする部隊に浦江城への攻撃の許可を出した。様子はよくわからなかったけど情報からして圧倒的有利だということは伝令の人の報告から聞き取れた。その日のうちに浦江城は落城した。
11日、いよいよ野田城・福島城への攻撃が開始された。前線では7つの将兵の首をあげたらしい。生首はあまり見たくない。翌12日からは雑賀衆、根来衆の援軍もやってきた。
「重秀、よくぞ援軍に来てくれた。礼を言うぞ。」
「大将の頼みならいつでも駆け付けますぜ。」
鈴木重秀。別名は雑賀孫市とも呼ばれる男だ。
「孫四郎、重秀と一緒に鉄砲を撃ってこい。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
何でこうなるのかな。この人、確か後で石山合戦のせいで裏切るんだよ。…あ!そうか。負ける理由が分かったぞ。多分だけど。
前線で適当に鉄砲を撃っていた。適当とは言うけどほぼ全て敵に当たっているんだけどね。
「上手いですな。信長殿にはもったいない腕前ですよ。いっそわが雑賀衆に入らないか?」
「いえ。お断りしておきます。」
「はっはっは。そうですかい。でも―」
「三好が和議の使者を送ってきたそうです。」
和議か。これは受けた方がいいと思います。
「いったん戻りましょうか。重秀殿。」
「そうしましょう。」
陣に帰ると信長様がキレながら話しかけてきた。
「奴らめ。無条件で和睦を結びたいと言ってきよったわ。」
確かに無条件じゃ許せないね。でもこれでも結ばざるを得ないんだ。先のことを考えるとね。
「こんなくそみたいな条件は破棄だ!すでに畠中城も落とした!戦を―」
「待ってください。これは三人衆の罠です。ここで結ばないと彼らは思っています。仮に我らが結ばなければ本願寺にあっちは謝っているのに織田は徹底抗戦してくると訴えてきます。それだけを聞いた本願寺の御坊様はきっと我らが戦をやめない愚か者だと思い挙兵するでしょう。そうなるとそこにおられる重秀殿も浄土真宗に入っているので我らと戦うことはほぼ間違いがないでしょう。ですよね、重秀殿。」
そう、まず重秀殿が裏切る理由は顕如が挙兵してしまったから。だったらそれを阻止すればいい。
「仮に顕如様が立ったらそうなるな。」
「さらにですよ。我らはここ摂津の事ばかりに夢中になっていますが後方の京側に誰がいるか忘れていませんか?」
「…浅井と朝倉。」
信長様が冷静に戻ってきている。あと一息だ。
「はい。この2勢力もこの機会を逃さんと京へ攻めに向かうでしょう。」
「後ろには可成を残しておるが―」
「比叡山延暦寺を忘れていませんか?あそこも浅井・朝倉と仲のいい勢力ですよ。御坊様も武装するのが当たり前な世の中なのでここだけ挙兵しないのはありえないかと。そうすると森可成様も…。」
きっと死ぬだろう。宇佐山城のあたりは戦いやすい場所とは決して言えない。
「…わかった。そこまで言うなら孫四郎。お前が和議の使者となれ。」
そうですか。…ん?
「な、なぜ私なのですか?」
「こうなると思ってなくて五郎左たちを連れてきていなかったからだ。」
「私はまだ死にたくありません!」
「俺が守ろう。」
「重秀殿…!」
大丈夫かな。僕この人に殺されない?
「では行ってこい。」
三好陣所
着いた。事前に送られた書状を見せて話し合いの場まで進む。お、ここ…かな。何かしょぼい部屋だね。あ、誰かいる。ご挨拶をしておこう。
「此度和議の使者としてこちらを訪ねることになりました。前田孫四郎利長と申します。」
「…子供?」
初対面で一言目がそれですか。舐めてるようにしか聞こえない。
「一応元服しているのですが。」
「ひっ。その、すみません!」
何だこの態度の変わりよう。僕はただ睨んだだけだよ。
「そ、某、岩成友通と申す。」
「ほう。大将の一人であるあなたが出てきたか。ということはそこにおられるのも残りの三人衆のどちらかということですかな?」
「三好長逸じゃ。良しなに頼む。」
まだ長逸の方が礼儀があるね。
「此度の条件なのですが…。」
軽く悪い顔をしながら僕が話し始める。
「こちらは流石に無条件というわけで和睦するわけにはいかないのでこれから言う2つだけ守っていただければ和睦をしてもいいと思っています。」
「その条件とは?」
「一つ、野田城・福島城の撤去、一つ、三好勢は3年間我らに攻めて来ない。」
「1つ目は飲み込みましょう。ですが2つ目は…。」
正直だ。でもこの3年が大事なんだ。
「信長様はともかく、私はこれ以上戦をしたくないのです。ですがまた挙兵したらまたあなた達と戦わなくてはならなくなる。そんなことをしたくないのです。そ―」
「だとしても。義昭が京にいる限り、我らは戦い続けねばならぬ。」
困ったな。急がないと本願寺が立つかもしれないのに。なんて考えていたら重秀殿が口を出した。
「そういえば宗渭殿はここにおられませんがどうかしたので?」
宗渭?誰の事ですか?重秀殿。
「そ、それは。今日は体調が悪くて…。」
「嘘ですね。あなた達の言動や目元からして何か隠していることがわかります。その宗渭殿がいったいどうなさったのです?」
「宗渭殿は四国に―」
何で嘘ばっかりするのかな。…もしかして宗渭って三好政康の事?結構重要な話じゃない?
「また嘘ですね。ではこうしましょう。2つ目の条件を破棄する代わりに宗渭殿のことについて正直に答えてください。嘘かどうかは瞬時にわかります。正直に答えなかった場合は無理やりにでも先ほどの条件を飲み込ませますよ。」
さあどう出る?
「…宗渭は去年、病で讃岐の地で死にました。」
長逸が言っていることは…合っているね。
「孫四郎殿、これは嘘か?」
重秀殿が聞いてきた。
「いえ、どうやら本当の事のようです。わかりました。では此度は退かせて―」
「それと2つ目の条件なのですが…。」
何だろう。
「わが旧主三好義継と話し合いができるのであれば考えてもいいと思っております。それまでは少なくとも3か月は動かないことを約束いたしましょう。」
短い。でも今はそんなことを言っている場合じゃない。3カ月でも撤退できるだけマシだ。
「わかりました。それで和睦しましょう。」
本陣に帰ると信長様がニコニコしながら待っていてくれていた。まずは謝らないと。
「すみません、信長様。3年間ではなく3か月しか結べませんでした。」
「いや、色々聞けたから良しとしよう。撤退するぞ。」
「三好三人衆の崩壊も近いですね。」
「まさか宗渭が死んでおるとはな。そして奴らの目的もよく分かった。義継には後で伝えておこう。」
「信長殿、我らも一度国元に帰らせていただく。」
「重秀、大儀であった。これからもよろしく頼む。」
これで次の志賀の陣に備えられる。確か4日ぐらい時間があるはずだ。4日もあれば近江には余裕で着ける。
「で、伝令!本願寺が挙兵!」
「え、何で。何で今…。」
状況が理解できない。何で?三好とは和睦したよ?
「信長様、先ほど撤退した雑賀衆を尾行する怪しい僧がいましたので捕らえましたらこんな書が。」
久秀殿が僧を連れてきながら近づいてきた。
「…これは。そうか。そういうことか。この書状は嘘だ。重秀に気づかれる前にこの件を何とか解決させるぞ!」
信長様が捨てた書状には【信長が本願寺を壊すと言ってきた。理不尽なので信長を討ってほしい】と書いてあった。それが嘘ならば何で攻めてきたんだ?
「犯人は近衛前久だ。奴は今、本願寺に世話になっている。原因は義昭があやつを追放したからだ。」
「成程。…で、どうするのです?多分、浅井や朝倉にも同じ書状が来ていると思いますが。」
「まずは禿を何とかする。そこから順番に考えていこう。」
これが信長包囲網か…。本願寺、浅井、朝倉、延暦寺…。どうやって切り崩していくのだろうか。
いよいよ信長包囲網が始まりました。次回は淀川堤の戦いです。
私は大体1戦1話ペースで上げていきますので内容が薄くなりやすいです。予めご了承ください。
今日はまだまだ投稿をしますよ。次はまた1時間後ぐらいにあげますね。




