3 木下家との出会いと自白
予約できたでしょうか?上手くいってればいいのですが。
朝だ。とりあえず今日ここで起きたことでこの世界に転生したことが確定した。僅かでも元の世界に戻ってほしいという願いがあったが昨日の時点でほぼ無理だとわかっていたので完全に諦めた。昨日の晩飯おいしかったなあ。今日の朝飯も期待しよう。
朝飯を食べながら昨日の夜のことを思い出す。今、脇差に刺してある小刀は一か所も錆がなかった。きっと僕が来る前の孫四郎が毎日にように研いでいたからだろう。でも俺にできる気がしない。今の僕は両親以外誰が誰だかわかっていない状況だ。その人たちの名前を憶えてからどういう風にやるか聞こう。
部屋に置いてあった巻物を読んでいたら父親の利家がやってきた。
「入るぞ。」
「はい。どうぞ。」
正直答え方はよくわかっていない。失礼がないように話せば恐らく大丈夫だろうと思って丁寧に話すことのみ意識している。
「ん?前までそんなの読んでいなかったのにいつの間に読めるようになったんだ?」
しまった!3歳児は巻物読まないのか。さっきまで暇だったから部屋にあった巻物を読んでいたんだ。…なんて言い訳をしようか。
「…何もやることがなかったので読んでみたのですがあまり読めませんでした。」
半分嘘だ。これぐらいの漢文なら中学生でも読める。
「ハハハ。じゃあ読み書きでも習うか。」
え?
「安心しろ。俺が信用できる熱田の松岡様ならきっとわかりやすいはずさ。それともまだ早いか?」
松岡様が誰かもわからん。でもあの前田利家が信頼している人だ。変な人じゃないだろう。うーん。どうしようかな。暇だし文字を習うぐらいだったら行ってもいいかな。
「是非お願いします。…でも道がわからないです。」
正直ここ清州が名古屋から見てどの辺にあるのかも知らないし仮にわかっても当時どんな道があったかなんてよくわからない。東海道ならなんとかわかるけど。
「いや、まずは松岡様に相談してからな。その後に道も教える。」
「ありがとうございます。父上。」
何でキョトンとするんだろう?親に丁寧に話すなんて普通だよね?
~利家視点~
やはりな。あいつだいぶ変わってる。今まではあんなに固くなかったのに熱を出してから急に冷静な性格に変わった。正直関わりづらい。もしかして昨日言っていた記憶を失ったのも本当だったりして…。
「なあ、昨日は冗談のつもりで聞いていたが本当に記憶がないんだな?」
「え、ええ。私は一体何者なのか、今まで何をしていたのかもわかっていません。」
「…俺の兄のことは?」
「わかりません。」
「俺の仕えている殿の名前は?」
「昨日聞いたのですが織田信長様で合っていますか?」
「お、おう。…隣の家の人は?」
「わかりません。」
これは演技じゃないな。何か申し訳ないことをした。何から教えてあげようか。
~孫四郎視点~
絶対怪しまれてるよね。でも本当に何でここに来たかわからないんだもん。どうしよう。
「失礼します。利家様、隣の秀吉様が是非利家様に見せたいものがあると。」
「ん?わかった。すぐに行くから待っとけと伝えとけ。」
「わかりました。」
「ちょうどいい。お前も行くぞ。」
え?今、秀吉って言った?
「どうした?」
「あ、いえ。ええと準備します。」
秀吉ってまさかあの…。
わらじって案外履くの簡単なんだね。と思いながら歩くこと30秒で隣の家に着いた。表札には木下と書いてある。やっぱり…。
「お、来てくれたか利家殿。これはさっき貰った野菜なんだけど良かったらと思って呼んだのさ。忙しかったか?」
「いや、今日は休みだったから良かったけどな。信長様に呼び出しとかされてたらどうするつもりだったんだ?藤吉」
ほぼ確定。木下・藤吉・秀吉。まさか三英傑の一人に会えるなんて。
「その場合はおいらが1人で欲張ろうかと…って嘘嘘。冗談だから。」
隣を見たら父上が秀吉さんを睨みつけていた。ひえー。
「ん?そこにいるのは孫四郎か?久しぶり!元気?」
「それがどうやら記憶を失ってるみたいで。多分お前のこともよく覚えていないぞ。」
「木下…藤吉郎…秀吉…。」
「いや、覚えているみたいだぞ。名前も言っているし。」
「恐らくだがな。名前は憶えていてもお前が何をした人かは覚えていないぞ。」
「まじかよ。おいらが抱っこしてあげたのも?」
「ああ。」
「申し訳ありません。私はあなたの名前しかわかりません。」
今の時代までの生き方はね。
「そ、そうか。…改めて名乗っておくか。おいらは木下藤吉郎秀吉。昔は遠江の松下加兵衛様に仕えてたんだけど10年ぐらい前から信長様の下で働いているんだ。利家殿とはその時からの仲だ。これでも思い出せないか?」
残念だけどそんなこと言われても僕は孫四郎の体にとりついているような感じだからわからないよ。
「お前様!せっかく利家殿が来てくれたんだから茶ぐらい準備したらどうだい?」
「そうだな。じゃあねねに準備してもらっていいかな?俺は今、孫四郎と話してるから。」
一人称はおいらと俺を使っているんだね。
「しょうがないなあ。お前様のは抜きだけどいい?」
「嫌だ嫌だ!愛しているから許して!」
何だこの人。こんな人が後々天下を統一するとは思えないんだけど。
「冗談だよ。お話の続きをしておやり。」
「もう。…何の話をしてたっけ?」
「秀吉様の今までの人生についての話と私があなたを覚えているかの話でした。」
「…利家殿。ちょっと来てもらっていいか?」
目の色が変わった気がする。どうしたんだろう。
「ああ。孫四郎。ちょっと待っとけ。」
門の前で1人で待たされる僕。これが3歳の子供にすることですか?
~奥の話~
「性格変わったよな?今までの孫四郎は多少やんちゃだったのに。」
「それは言える。何かクソ真面目というかお固いというか。」
「何かが憑りついたんじゃないか?狐とか。」
「だったらとっくに気づいてるよ。だけどそんな気配は全く感じない。」
利家は熱田の松岡に鍛えてもらったためか霊感が強い。
「だったら一体―」
「俺が思うのは体調を崩した時に記憶がぶっ飛んじまったんじゃないかと考えている。」
「…今はそう考えるしかないな。おいらたちには考えられないことが多いからな。」
「お前様!お茶入れたよ!って何で孫四郎を1人にしてるの?」
「すぐ行く!」
秀吉と利家は自分たちだけの空間に入ることが多い。
~孫四郎視点~
「ねえ孫四郎。そんなに真面目な子だったっけ?」
「…私にはわからないのです。私の体はかつて何をしていたのか。そしてなぜ…」
「…私、多分わかった気がする。前までの孫四郎と誰かの魂が入れ替わっちゃったんじゃない?」
ねねさん。それ当たりです。でもそんなこと言っていいのだろうか…。いや、多分分かりかけている人には言った方がいいと思う。言わなかったせいで良くわからない目に遭うのも嫌だしね。
「あの~実は―」
「待たせたな。おっ、冷えてるじゃん。」
「おいしいな。流石はねねの茶だ!」
「でしょ~。さ、孫四郎も飲みな。」
いいのかな。何かねねさんの目が怖いよ。何もかもバレそうな気がする。
「いただきます。」
おいしい。これは麦茶かな。
「おいしいでしょ?顔に出ているよ。」
へ?確かに思っていることは顔に出やすいけど…。
「皆ここにいたんですね。長頼に聞いたら隣の秀吉様の家に行ったと聞いたので来てしまいました。」
「こんにちは、秀吉様!それからねね様!」
母上と誰かわからない女の人が来た。
「まつさん。それから幸も来てくれたんだね。どうぞどうぞ。ゆっくりしていって!」
幸?誰だっけ?
「父上、孫四郎と出かけるのもいいですがたまには私たちも誘ってくださいよ。前田と木下はお隣同士だし。」
話を聞く限り恐らく僕の姉だな。幸というのか。覚えておこう。
「いやあすまんすまん。でも今日は俺だけが呼ばれて―」
「だったら何で孫四郎を誘ったんですか?」
「うっ、それは…。」
「まあまあいいじゃないか。ようし、せっかく来てくれたことだし幸!秀吉おじちゃんと遊ぶか!」
「やったー!ありがとう!秀吉様!」
秀吉様が姉らしき人である幸さんと遊び始めた。今だ!
「ねね様。少し話したいことがあるのですが…。」
「何だい、孫四郎?」
「先ほど話したことです。私はあなたの言った通り遥か先の未来からこの世界に来てしまったのです。」
「え?」
近くにいた利家さんも驚いていた。いいんだ。ここで言わないと後で言いだしづらくなる。母のまつさんはというと姉の幸さんを見るのに夢中で全く気付いていない。
「どういうことだ?」
利家さんから質問が来た。全て正直に話そう。この人は大丈夫。絶対に。
「私は今から450年後の未来で生を受けました。ですがその時にとある事故に巻き込まれて命を落としてしまったのです。ですがなぜか魂だけはこの世界に来てしまって。」
「待て待て待て。つまりお前は元々の孫四郎じゃないと。」
「はい。体は孫四郎と呼ばれる方のですが中身は未来から来た別人となっています。」
2人ともキョロキョロしている。普通そうだよね。ビックリするよね。
「どうなってるんだ?一体。」
「私にもわからないよ。孫四郎…いやもう孫四郎じゃないのか。」
「申し訳ありません。あの時爆発事故に巻き込まれなければ…。」
僕は何を言っているんだ。でも確かに合っているかもしれない。爆発事故に巻き込まれなければ孫四郎は身体に残ったままだったのかもしれない。
「いや、お前は悪くない。…中身は違えど孫四郎は孫四郎だ。でも何だかなあ。」
「私が来る前の孫四郎さんの記憶は私の頭の中には残っていません。ですが私を含めたあなたたちの未来なら多少はわかります。未来から来ましたから。」
「本当か?じゃあこの後の俺はどうなる?」
「流石に早めに言うと歴史を変えかねないのであまり言えませんが1つだけ言えるとすればこの場にいる人は戦場で死ぬことはないとだけ言えます。」
あ、幸さんのことを忘れてた。でも多分大丈夫でしょ。女性が戦場に立つことなんてあまりないだろうし。あれ?2人ともクスクス笑ってる。どうかしたのかな?
「俺やねねに話して正解だったな。まつや藤吉だったら大変なことになるかもしれなかったからな。」
「本当にそう。あの人たちは理解力がないからね。」
確かにそうかもしれない。心配性のまつさんはともかく頭のいい秀吉さんだったら殺されてたかもしれない。
「だから私はお2人に伝えたのです。この方たちなら信頼できると。」
「待て待て。お前は人の感情がわかるのか?」
人が信用できるかは目元を見ればわかるって元の世界…前世とするか。前世の父に教わった。
「多少ですけどね。父…なんて言えばいいですか?」
「父上で構わんよ。これからお前の父は俺だ。いいか?」
「…!はい。はい!父上!」
「泣くな。改めてよろしくな。孫四郎。」
泣いてる?本当だ。なんでだろう?僕、そんなに涙もろくないんだけど。この体の性質?
「じゃあある程度の知識はついているという風に考えていいな?」
「いえ、この時代の文字と私が生きていた時代の文字は多少違うので漢字の読み書きを学びたいのと私が生きていた時代とは内政などの仕組みが違うと思うのでそういうところも教えてもらいたいです。」
「そうか。文字ぐらいならまつに教えてもらえばいいか。まつには俺から事情を話す。」
「私が話した方がわかりやすいと思うよ?」
2人ともいい人だ。でも流石に頼りすぎるわけにはいかない。
「いえ、ここは私が話します。一番わかっているのは私ですので。こう見えて前世では22年生きたんですよ。」
「22歳で死ぬなんて可哀想だね。」
「前世は後悔ばかり残りました。この世界ではそんな後悔を残さずに生きるのがこの人生の目標です。」
「おーい。何の話をしているんだ?」
目標の話をしていたら急に秀吉さん…様だね。秀吉様が声をかけてきた。
「何でもないよ。お前様は幸と遊んでおやり!」
「全く、藤吉は空気が読めないな。…俺も出来る範囲でお前のことを助ける。お前だって来たくて来たんじゃないんだろ。討死はさせないように頑張るからな。」
「利家殿ならば大丈夫だよ。もちろん私の旦那の秀吉もね。」
優しいな。前田と木下の人は皆信頼できる。
「これから困ったことがあったらすぐに相談させていただきますね。」
「どーんと来い。いつだって助けてやる。」
この後は父のこれまでの武功や秀吉様の人生など色々な話を聞いた。しばらくは無事に生きられそうだなとこの時はそう考えていた。
秀吉とねね夫妻を今回登場させました。木下家は前田家に次ぐぐらい重要な役を持っている人が多いです。
明日は2話投稿します。第4話はここ3話分の整理と孫四郎とまつのとある1日について。第5話は今書いている時代からは1年後の永禄9年(1566年)に突入します。4話は試験的にお昼の12時にあげようと思います。短めですのでゆっくりペースに読む人でも3分あれば読めると思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。是非評価もよろしくお願いします。




