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第五話 秀吉と半兵衛の出会い

犬千代視点を無くした代わりにこの話のもう一人の主人公視点を新たに書き加えました。


書き直し前から1700文字増えて約5700文字です。但し、流れ的に無駄な部分はこれでも削ったつもりです。(削るどころかむしろ字数は増えてますが)

★木下秀吉


墨俣城乗っ取りから数日が経過した。久しぶりに小六殿と一緒に過ごせた三日間、楽しかったな。あの後、信長様から頂いた褒美が予定より多めだったから、ここ数日は少し豪華なご飯を食べることが出来ている。ねねや小一郎も嬉しそうだ。まだまだ、働けるうちに沢山稼いで、歳を取ったら子に家督を譲って、俺はねねと一緒に優雅な隠居生活を楽しみたいものだ。



しばらく休んでしっかり回復も出来たことだし、もうそろそろ、新たな任務を頂きたいと思っていた矢先、丹羽様が俺の家を訪ねてきた。


「調子はどうだ、藤吉郎?」

「帰ってから数日は疲労が溜まって動くのが少し億劫でしたが、今はこの通りぴんぴんしております」

「そうか。なら、次の任務をお前に任せてもいいな?」


俺は思わず笑みが零れそうになった。思い通りに事が行くのは嬉しいことだが、順調すぎると逆に心配にもなる。


「いきなりですか。して、その内容は」

「西美濃三人衆、お前なら誰かわかるな?」

「もちろんでございます。稲葉良通・氏家直元・安藤守就の三人のことですよね?」

「そうだ」

「つまり、その三人を斎藤家から引き剝がし、我らに味方させる。ということでよろしいですか?」

「うむ」


調略は俺の得意分野だ。勿論、断る理由はない!


「承知いたしました。必ずや、その任を成し遂げて見せましょう」

「相変わらず答えが早いな。前回の墨俣の件もあって、殿も私も、お前に期待している。その期待を裏切るでないぞ」

「ははっ」


まさか、殿がそこまで期待してくださっているとは。益々、事の失敗は許されないな。今回も、小一郎と二人で計画を練るか。




「事前に丹羽様に聞いた話だと、三人とも味方してくれる可能性が極めて高いそうだ。つまり、順番に回っていけばおいらたちの気持ちも伝わってすぐに降ってくれるだろう」

「ただ、それでは効率が悪すぎます。信長様の美濃侵攻にも悪影響を及ぼすかもしれません」

「そうなんだよな。代替手段として、手紙を送って脅すこともできる。ただ、それだと相手が織田家にいい思いを持たない」

「兄上は三人衆を降らせたその後のことも視野に入れているのですね」

「だって、嫌だろう?俺たちが降らせたのに、斎藤家を滅ぼした直後に裏切ったりでもしたら」

「それはそうですね。そうなるとどちらも最善ではないですね」

「お邪魔します。こんにちは、秀吉様、秀長様」


急に声が聞こえて驚いた。後ろを見ると犬千代がきょとんとしながら立っていた。


「お、いらっしゃい犬千代。お菓子でも食べていくか?」

「よろしいのですか?では、有難く頂きます」


相変わらず、美味しそうに食べるな。その顔を見ていると俺たちまで幸せな気分になる。


「ん、これは美濃の地図ですか?」


饅頭を食べ終わった犬千代が聞いてきた。指を差す先にはちょうど話をする時にわかりやすく広げていた美濃の地図がある。利家殿に教わったのか?


「よくわかったな。実は今度、信長様の命令で西美濃三人衆と呼ばれる人たちを調略することになってな。どうにかして効率よく、かつ変な思いを抱かせずに味方に付けることが出来るのか考えていたところだ」

「また、大変なお役目ですね。いつもご苦労様です」

「それはどうも。って何か変な感じだな」


思わず吹き出しそうになった。やはりこの子供、只者じゃない。


「……北方城の近くに関ヶ原があるんだ」

「そうそう。かつて大友皇子と大海人皇子が争った天下分け目の場所で有名な場所だな。まあ、近くと言っても馬で半刻はかかるけどな」

「その関ケ原の近くに、あの竹中半兵衛という男は、いるんですね」


竹中半兵衛……二年前に僅か十六人で稲葉山城を落とした伝説の男か。一度会ってみたいとは思ったことがあるが中々機会がなかったな。って何でそれを犬千代が知っているんだ?と思ったら、すぐに口を開いてくれた。


「父上から聞きました。その男は今、隠居という形で表舞台から去っている。だが、もし彼が未だに斎藤家にいたら美濃攻めはもっと苦戦していたと。もし、味方にできたら織田家は……信長様の天下統一が早まるのではないでしょうか?」

「え、あ、そうだな。うん、その通りだ」


って、どんな返しをしているんだ。おいら、恥ずかしいぞ。

いや、でもこの子供、まだ五歳だよな?あの熱が出た日から変わっちまったな、犬千代。


「兄上、そこらの猿の方がちゃんとした返しが出来ますよ」

「う、うるさい!……ただ、犬千代の考えが俺を遥かに上回っていることに動揺してな」

「兄上の気持ちもわかりますよ。でも、言っていることが理解できないわけではない。そうでしょう?」

「まあ、な。要は、竹中半兵衛()味方に付けた方がいいということだろ?」

「そうです。彼を表舞台に再び戻したら、きっと今後の戦が変わる。そんな予感がします」

「教えてくれてありがとな、犬千代」

「れ、礼には及びません!そんな秀吉様に有難く思われることをしたつもりじゃ―」

「いや、お前が教えてくれなかったらおいらはこの国の宝になるかもしれない人を失うところだった。おかげで作戦を練り直す必要も出てきたし」

「それは、有難くないですよ」


小一郎が溜息を吐きながら呟く。思わず、苦笑してしまった。


「んじゃ、西美濃三人衆並びに竹中半兵衛を味方に付ける策を考えようか!」


一人でも多く、優秀な人材を味方に付ける策。考えるだけで楽しくなってきた!




その夜、俺と小一郎の話し合いの結果、作戦が上手くまとまった。


まず、西美濃三人衆には信長様の手書きで降った場合の褒美が書かれた書状を送る。直筆となると、只の書状とは違って心がこもっていると人は思いやすい。これで、よい返答が帰って来なかったとしたら俺自ら頭を下げてお願いをしに行く。これで、三人衆は降ってくれるだろう。


竹中半兵衛は、小一郎と暇そうな小六殿を連れて会いに行く。実際に会ってみないとわからない部分も多いし、個人的にも会ってみたいと思った。また、三人で行く理由は一人で行くよりも、仲間と一緒に行った方が今の織田家が、少なくとも俺の周りがどんな環境かが伝わって上手く事が運ぶ気がしたからだ。果たして、竹中半兵衛とはいったいどのような男だろうか。




数日後


信長様と話す時間を頂けたので、小牧山城に登城する。評定では毎回お会いするが、滅多に俺から話に行くことはないから少し緊張している。通された部屋で待っていると足音が聞こえてきたのですぐに頭を下げる。


「面を上げよ。久しいな、秀吉。今日話したい内容は西美濃三人衆の話か?」

「いつも某の考えていたことを当てられて少し怖うございますぞ。はい、実はお願いしたいことがございまして」

「申してみよ」

「はっ、三人の方へ、織田家に降った際の褒美を書いた書状を殿自ら直筆で書いていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「何だ、そんなことか。いいだろう。但し、必ず成功させること。俺の手を使って失敗したら、お前を使うよう推薦してくれた五郎左も悲しむからな」

「必ずや、殿と丹羽様にいい報告が出来るように尽力いたします」


案外すんなりと事が進んでよかった。書いていただいた書状を上手く使って三人衆を素早く投降させよう。




同時に、行っていくのが竹中半兵衛の調略だ。引退した彼をどうやって表舞台に戻すか。そして、織田家に降ってもらうか。まずは直接話をしてみないことに事は進まない。というわけで、小一郎と小六殿を連れて半兵衛殿がいるという菩提山城に到着した。


「にしても、凄い大自然に囲まれているな。この間の墨俣からそんなに離れていないのに」

「いや、結構遠かっただろう。…行くぞ」




★竹中半兵衛


「兄上、木下秀吉と名乗る男が訪ねてきました」


久作が驚いた顔で私に知らせに来た。先日、墨俣を落としたばかりの男が一体何の用だ?


「とりあえず、通しましょうか。会ってみたい御方でしたし」


少し恐怖よりも好奇心の方が勝っている。木下秀吉、どのような御方なんだろう。




入ってきた男は三人いた。大男みたいな人、根は真面目そうな人、そして()()()()()明るく振舞っているけど、裏に何かありそうな人。恐らく彼が木下秀吉だろう。


「突然、押しかけて申し訳ございません。某、織田家家臣の木下藤吉郎秀吉と申します」

「貴方が、あの墨俣城を五十人で落としたと今、周囲で噂されている木下秀吉殿ですか。…竹中半兵衛重治と申します。半兵衛とお呼びください」

「そんな馴れ馴れしくは呼べません。半兵衛ど―」

「よろしくな、半兵衛!俺は蜂須賀小六郎正勝と名乗っている。小六と呼んでくれ!」

「ちょっと、小六殿。この方を誰だと思って―」

「稲葉山城を十六人で落とした奴だろ?でもな、だからと言って畏まられたらお互いぎこちないだろう?」

「それはそうかもですが……秀吉の弟の木下小一郎秀長と申します。ええと、困惑していますよね。いつもこんな感じで……って笑ってる!?」


私としたことが、ふと笑ってしまった。今のやり取りは恐らく事前に準備していない。むしろ準備していたらここまで円滑に話が進まないだろう。つまり、普段からこの三人は仲が良いのだろう。


「すみません。つい、可笑しくて笑ってしまいました。御三方は普段から仲が良いのですね」

「これがな、結成してまだ数週間しか経っていないんだ。意外に相性が良くて()()()自身も驚いている」


秀吉殿が苦笑しながらそう話す。これが、この方の素か?なるほど、少し話しただけでわかる。彼は人柄がよい。だから、小六殿も秀吉殿の墨俣城攻略に手を貸してくれたのだろう。


「さて、取り乱しましたな。実は今、某は西美濃三人衆の調略を信長様に命じられていまして」

「何と。では、私の義父にも」


私の義父は西美濃三人衆の一人、安藤守就だ。まさか、信長殿の手がもうそこまで伸びているとは。早すぎる。


「既に殿に直筆していただいた書状を送らせていただき返事も返ってきました。三人とも当家に降っていただけるとのこと。これにてお役目を終わってもよろしいのですが……ここで半兵衛殿にお願いがありまして」


きっと、私も織田家に仕えるようお願いするのだろう。簡単には仕えようと思ってないが、一応聞いてみよう。


「何でしょう?」

「稲葉山城が落ちるまで、浅井家の内情を調べてきてくれませぬか?」


…え?


「あ、兄上!?」

「お前、何を言っているんだ?てっきり俺は半兵衛を家臣にするのかと思っていたんだが」


小一郎殿と小六殿が驚いている。だが私はそれ以上に動揺していた。この男、最初から私が織田家につかえないことを知っていた?いや、そんな馬鹿な。


「大体、浅井家は織田と同盟を結んでいる相手じゃないか。何でそんなところを調べる必要があるんだ?」

「浅井は松平とは違って、信長様と昔から繋がりがあったわけじゃない。婚姻同盟だからと言って決して油断は出来ないと思うんだ」


そう言えば、浅井家は父の久政殿と子の長政殿の仲があまりよろしくないとか聞いたことがある。長政殿は信長殿のよき理解者だが、久政殿は古くからの付き合いである朝倉との縁を大事にしているとか。確かに、斎藤家みたいに親子で争いが起きたら、その婚姻は白紙となる。そうなると、信長殿は北近江攻めを止むを得ずせざるを得なくなる。美濃に十年近くかかったのだ。北近江も中々攻めずらい地形だから同じぐらいかかるだろう。そうなると今、天下に一番近い男が死ぬまでに天下統一が出来なくなる……それが秀吉殿の考えということか。


「半兵衛殿、俺は皆が笑って暮らせる世を作りたいと思っている。そのために、信長様に一生懸命仕えてきた。だが、俺一人じゃ出来ないことも沢山あった。この間の墨俣もそうだ。小一郎と小六殿の支えがあったからあんなことが出来たんだ。ただ、これからは尾張とか美濃ではなくもっと広い視点を持たなくちゃいけないと思うんだ。そうなるとまた人手が足りなくなる。ただ、人手にも限りある。そうなるとやりたいと思ったことが出来なくなる。もし出来ていたら……という後悔はしたくないんだ。だから、お願いします。織田家に仕えろとは言いません。もちろん、俺に使えろとも。その代わり」


一旦深呼吸して、秀吉殿は再び口を開く。


「おいらの頼もしい味方になってくれませんか?半兵衛殿は絶対にこの国に必要な御方だ。このままここで隠遁生活を送ってもらうには惜しいと俺は思う!お願いします!俺に力を貸してください!」


そう言って秀吉殿は頭を床にぶつける勢いで下げる。ここまで必要とされるなんて、あの時の道三様以来だ。私も深呼吸して、口を開く。


「わかりました。貴方の右腕として、これからは私の知略を使わせていただきます」


そう言いながら頭を下げる。


「ほ、本当か!ありがとう、半兵衛殿!半兵衛殿がおいらの味方になってくれた!」

「これからよろしくお願いします、半兵衛殿」

「よろしくな、半兵衛!」


秀吉殿の返事に続き、さっきまで黙っていた二人も笑顔になる。ああ、温かい。この人たちは何て温かいんだろう。


「というか、藤吉郎。これ、俺の時と同じ手を使っただろう?」

「い、今言わないで下さいよ!小六殿の馬鹿!」

「お前、次同じ手を使ったら相手が返事する前に言うからな?」

「半兵衛殿、こんな感じですが大丈夫そうですか?」

「だ、大丈夫だと思います。多分」


苦笑いしながら答えてしまった。だけど、秀吉殿は正直者だ。


彼にだったら私の夢を託せるかもしれないな。



★木下秀吉


家に帰ったら犬千代が待っていた。


「いかがでしたか?」

「上手く行ったよ。ただ、本当にこれでよかったのか?大体稲葉山城がすぐ落ちるかも―」

「西美濃三人衆が味方に付いたのです。斎藤家は大混乱していると思いますよ」

「それもそうだな。……ところでお前、本当に何者だ?」

「僕は普通の子供ですよ?あ、そろそろ帰りますね」


逃げるように犬千代は帰っていった。実は、作戦を考えるときにも犬千代が来ていたのだ。その時に呟いたことを聞き逃さなかったんだが、俺には思いつかないことを普通に言ってあの時も帰っていった。何度考えても何であの犬千代があんなに賢くなったのか理解できない。


まあ、悪影響はないししばらくは泳がしておくか。将来、役立つかもしれないし。……いやいや、道具に考えるのはよくないな。良く反省して、次の戦に備えるか。

書き直し前だと何で浅井に行ったのかがあまりにも不自然だったので、少しは自然に見えるように改善しました。(これでも不自然ですが)


それから、秀吉も何かには気づいている設定にしました。ただその何かには当然気づきません。


次の話ですが、最低で二話分まとめます。もしかしたら書き直し前の12話前半部分までまとまるかもしれません。あと、半兵衛の浅井家でも話も書き加えます。なのでまた期間が開いてしまいますが投稿までお待ちいただけますと幸いです。


沢山のいいねありがとうございます。今後も皆さんにいいねと思って頂ける作品を作れるよう頑張ります!

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