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184 幸せに暮らせる世のために ⑥復興の象徴 金沢城

ちょっと長めです。(ここで回数を稼ぐことは避けたかったので)

五月十五日 越中国 魚津


「本当に、綺麗な道が続いている。…復興もほぼ完了したと言えるかな。」

「これも、皆で頑張ったからです。…殿が災害手当等を考えていたおかげで、すぐに日常生活に戻れた民も少なくないんですよ。」

「天正地震、戸次川の戦い、この二つのおかげで前田家はさらに強くなったと言えるかな…。」

「…泣きたいときは泣いてもいいんですよ、孫四郎様。」

「いや、まだ完全には終わってないから…。秋の収穫量はまだわからないし、金沢城もまだ再建していないから。」

「そう、ですね。」

「…金沢に帰ろうか。」


まだまだやることはいっぱいある。一つ一つ順番にクリアしていこう。



五月二十日 加賀国 金沢城仮拠点


今日は、復興報告と今後の予定について、皆と確認する。


「欠席の連絡があるのは吉継か。」

「連絡があるというか、孫四郎様が敦賀のことに集中しろと命じたから来れないのでしょう?」

「ま、まあそうだけど…。全員揃ったね。では、始めるよ。」


事前に配った資料と共に、地震の被害、復興の道のり、そして今の現状について説明した。


「…さて、まだ復興できていない場所が一か所、それも皆にとっては一番大事な場所なんだけど、わかる人?」


皆、かつて城があった方向を指差す。僕は頷いて続ける。


「…これが最後の復興建築になると思います。一孝殿、石垣は貴方に任せます。天守は堀家の久太郎さんに築いてもらいます。予定では秋の実りの時期と同じぐらいに完成する予定です。」

「僅か二年で復興できるとは…これも民からの信用を得た殿だから出来たこと―」

「それは違うよ、長頼さん。確かに我の政策は民に優しく…むしろ甘すぎたかもしれない。だけど、これを実行できたのは他でもない、皆のおかげだよ。…ここまで、付いてきてくれて本当にありがとう。」


そう言って、頭を深々と下げる。


「お、お止めください。お礼を言うべきなのは私たちの方です。殿のおかげで、私たちは今まで見ることが出来なかった世界を見せていただくことが出来ました。最初は正直疑っておりました。本当に皆が幸せに暮らせる世を作れるのかと。ですが、毎日皆のために頑張る殿を見てもしかしたら…いえ、必ず理想の世は来る。そう、感じることが出来ました。」

「…殿、照れてます?」

「いや、これは照れじゃなくて…その…恥ずかしいというか、嬉しいというか…今後の話に変えるね。」


これ以上、この空気が続くのが嫌だったから、話を変えることにした。


「蘭丸、農業関係はどんな感じ?」

「どんな感じって…順調ですよ。今は検地を行う準備をしている最中ですね。でも、許可を取ればあっという間に出来ると思うので検地だけに縛られず他のやりたいことも同時に初めて大丈夫だと思います。」

「…とすると、そろそろ品質改良にそろそろ手を入れた方がいいか。それが終われば工業に力を入れることが出来るし。」

「…それと、学び舎みたいなものを作りませんか?民も文字と簡単な計算は出来た方がいいと思います。」

「学校か。…民向けの学校と武士向けの学校を作ろうか。それぞれ、学ぶべき内容が違うから分けた方がいいと思う。将来的には身分の差をなくしたいけど今は難しいからね…。」

「ほっほっほ。学校づくりは某にお任せして頂けませんか?」


孫十郎殿は僕の家臣団でも最年長だから、戦の経験や金の大切さがよくわかっているはず。むしろ、僕がお願いしたいぐらいだ。


「わかりました。孫十郎殿に一任します。…後は、工業関係か。電気、作りたいけど中々時間がないからな…。」

「今年はたくさん時間がありますよ。私も検地が終わったら少し余裕が出来るので可能な限り、出来ることがあれば何でもお手伝いしますよ。」

「いや、蘭丸ばかりに無理をさせるわけにはいかないよ。…人手が足りないのも課題だね。」

「…学校が全てを変えそうな気がします。」


そう、話す青山殿。続けるように僕は促す。


「学校の成績優秀者は殿と一緒に新たなものを生み出す仕事に就け、頭を使うのが苦手な者は越前のように工場で働くことになったり、農業に力を入れることになるような気がするのですが…。」

「学校は表向きには学びを提供する場だけど、自分の得意不得意がわかる場所でもありますから。…皆が字の読み書きが出来て、簡単な計算が出来れば今以上に意思疎通が取りやすくなると思うな。」

「何も悪いことはなさそうですね。古い考えにこだわる人たちは頭がよくなって一揆を起こされたらどうするんだとか言ってきそうですが、殿のやり方に反対する者などこの国に現れるわけ―」

「それは、わからないよ。そもそも加賀も越中も元は一向宗が長らく治めていた土地だし…。」

「…宗教と言えばキリスト教の布教が禁止されたようで。」

「バテレン追放令のことか。でも、あれは大名や代官等が民に強制的に改宗させちゃ駄目だよって言うだけだからあまり意味がないと思うけどね。」

「と言いますと?」

「…仮に宣教師が脅迫して改宗させたとして、それを民は代官たちに正直に言えるのかということ。このことを言ったら殺すとか、弱みを握られているとか―」

「「「…!」」」

「…だから、秀吉様は、甘いんだよ。やるなら徹底してやらないと…。」

「…殿はどうするおつもりで?」

「北陸は京や堺から遠いからあまり影響がないと思うけど…一応宣教師の入国禁止だけやっておくか。これで甘いって言われたら我も秀吉様と同じだけど。」

「良いと思います。民からも特に反対されないかと。」

「…そうかな。」

「そうですよ。多分。」

「多分って…。」

「殿、もっと自信を持ってください。私たちが誰も反対していないのですから、ここにいる全員、殿のやり方に賛成しているということですよ。」

「…永福さんの言う通りですね。もっと戦の時みたいに堂々と政を行えるように頑張ります。」

「…他にやりたいことはありますか?」

「…銭を稼ぎたいな。今度、建てる城は前までとは比べ物にならないぐらい立派で、かつ何があってもビクともしない城にしたいんだけど、それを建てるとなると貯金がほぼ無くなるから…酒と椎茸も新たに製造を開始するか。あと、輪島塗や九谷焼とかを京で売るとか…銭に関してはキリがないな。」

「…また、面白くなってきましたな。ここからまた、前田家は成長する。そんな気がします。」

「そんな気では終わらせませんよ。前田家は日々成長します。…いつか、天下を取りたい。最近、ようやくそう思えるようになったし。」

「私たちも皆見てみたいです。殿の…孫四郎様の日ノ本統一を。」

「孫四郎様が天下を取ったら日ノ本はどうなるのでしょうか。…楽しみがいっぱいだ。」

「その楽しみはまだ早いですよ。まずは、出来ることからですよ。」


でも、僕も楽しみだ。皆で作る国作り。将来、この国はどうなっているかな。



八月一日


父上と母上がいないから最近の夜は何とは言わないけど特に遠慮せずに過ごすことが出来ている。


「…さて、これで準備完了っと。」

「あとはこれを私が打ち上げるだけですね。」

「そうそう。でも驚いたな。まさか、蘭丸が大砲を使えるなんて。」

「信長様に昔教わったのです。私的には鉄砲よりも使いやすいと感じているのですが…。」

「あー確かに。人によっては大砲の方が簡単かもね。」

「孫四郎様、何を準備しているのですか?」


家から覗いていた桜が僕に声をかける。仮拠点に戻りながら、話を続ける。


「…なーいしょ。」

「まさか、こんな夜遅くに大砲を撃つ実験とか―」

「そんなことしないよ。御近所迷惑だし。…いや、近所迷惑だったら理由にならないか。」

「…離れた方がよさそうですね。」

「そうだね。…せっかくだし、今作っている天守の近くで見ようよ。少し登った方が綺麗に見えるし。」

「…なるほど。()()を打ち上げるのですね。」

「そういうこと。五六八と蒼空も連れて行こうか。あ、永たちは―」

「行きま―」

「ゴホン、ゴホン。最近咳が酷くて…私たち三人は留守番シテイマス。」

「梅も最近頭が痛くて…今日はお出かけできません。ゴメンナサイ。」

「…永も徳姉様も最近お腹が痛い気がするので今日は家でお留守番シテイマス。」


いや、絶対嘘だよね。…だけど、ありがとう。


「…じゃあ、四人で行こうか。」

「い、いいのですか?皆体調悪いのに。」


あれ?桜ってドッキリを仕掛けるのは上手いのに引っ掛かりやすいタイプ?


「い、いいんだよ。…遠回しに僕らだけで行っておいでって言われてるんだよ。」

「あ…。」

「…い、行くよ!早くしないと始まっちゃうよ。」

「…楽しみです。今日は何を見せてくれるのか…。」


きっと綺麗に打ちあがる…はず。



城の方へ向かうと久太郎さんとなつが建設中の城を見ながら話をしていた。


「…あれ、孫四郎さん。今日は皆でお出かけ?」

「そうです。…久しぶりだな、この四人が揃うなんて。」

「今では姉さんにも私にも子供が出来て中々会えないですからね…。」

「今日、揃っているのも奇跡だよね。」

「…そろそろ、打ち上げ始めますよ。」


そう言って、空を指差す。


ヒュー………ドン!


「…父上、これは何ですか?」

「これはね、打ち上げ花火って言うんだよ。」

「打ち上げ花火?」

「うん。昔さ、手持ち花火をやったの覚えてる?いや、あの時は二歳だったから覚えて―」

「覚えてますよ。皆で遊んだ花火、あれも綺麗でした。…あれと同じなのですか?」

「うーん。似ていると言えば似てるし違うと言えば違うし…。ほら、今度は桃色の花火が上がったよ。」

「本当だ!綺麗!」

「…父親としての孫四郎さんは初めて見たかも。」

「そうかな。でもあの時は桜に任せっきりだったから…そうかもね。」

「…城もあと少しで完成するよ。でも、これを城と言えるかはわからないけど。」

「…今日は花火をゆっくり見ましょ。そういう話は終わってからでも話せますから。」

「…そうだね。」

「母上と同じ桜色の花火だ!」

「確かに、さっきの桃色より若干薄い…気がするね。まさか、孫四郎様?」

「た、たまたまだよ。決して桜が好きで桜色が出る火薬を作ったとかそういうわけじゃないから。」


そう言ったら、僕の肩にピッタリ桜の頬がくっついてきた。


「…ありがとうございます。何年たっても私は孫四郎様のことが大好きです。」

「…この先何があっても僕らはずっと一緒だよ。」

「来年からは父上と母上から離れて暮らすのか…。」


五六八が静かに呟く。僕らは一瞬顔を見合わせてすぐに五六八に声をかける。


「大丈夫だよ。遠く離れていても僕らの心はずっと其方の傍にあるから。それに、三法師殿はきっと其方を大切にしてくれる。」

「そうですよ。…それに、私も殿も幼い頃に親から離れて生活していたのですから…五六八もきっと出来ますよ。」

「本当に?」

「本当だよ。僕は数えで七つ、桜は十歳の時には親元を離れて生活を始めたんだよ。しかも桜は、なつと二人だけで五年ぐらい生活していたんだよ。」

「…!二人とも苦労したから今の人生を送れているのですね。」

「…困った時はいつでも手紙を出していいからね。いつでも返事を書いてあげるから。…緑の花火。やっぱりこの色が好きだな…。」

「緑と桜色。二つ合わせて桜餅の色ですね。」

「桜餅?」


五六八がキョトンとしている。なつ、この時代は桜餅ないよ。…たまには僕が説明するか。


「ええと、塩漬けにした葉っぱをお餅に巻いた和菓子で―」

「美味しそうです!今度食べてみたいです。」

「桜は今咲いてないからね…。来年、作ってみるか。」


また、一つ仕事が増えちゃった。別に悪い仕事じゃないからいいけど。



十一月二十七日


今日、金沢城のお披露目が行われる。


「…これが新たな金沢城か。真っ白な瓦、避雷針代わりの銅色の(しゃちほこ)、そして前とは比べ物にならないぐらい高く、広くなった。…この城なら、仮に敵に攻められたとしても相手の兵糧が尽きるまで戦えそうですね。」

「本当に苦労したよ。孫四郎さん、無茶苦茶なことしか要求してこないんだもん。…福井城の約三倍お金がかかっているからね。間違えても敵に取られないようにしてよ?」

「わかってますよ。…ん?敵って?」

「…上杉がもし攻めてきたら?」

「ああ、そういうことか。…魚津城等も改築した方がいいということですね。」

「西側は敦賀城と福井城があるから簡単には金沢まで来れないけど東の魚津城や富山城とかは旧式の城だから攻められたらあっという間に落城するよ。今まではそんなわけないって思えたかもしれないけど、もし、君が作った武器が敵に漏れたら…ね。」

「忠告ありがとうございます、久太郎さん。というわけで、次は富山城―」

「僕はやらないよ。これからは越前の発展に力を尽くしたいし。」

「冗談ですよ。…ちなみに、何で僕が白色の瓦でお願いした理由、わかります?」

「…白にはたくさんの意味がある。その中の一つに平和があった気がするけど…合ってる?」


僕は頷いてから続ける。


「緑や青も平和を意味しますが青は難しく、緑は後々あの鯱が錆びれば緑になると思ったので、瓦は白がいいなって。」

「…平和ね。僕が生きている間に戦がない世を見ることが出来るかな?」

「見させますよ。久太郎さんを簡単には死なせませんから。…絶対に私の傍を離れないで下さいね。」

「…?」


久太郎さんにはまだ話していないんだよね。あと三年で死ぬかもしれないことを。…だけど、話さなくても未来を変えられるかもしれない。前田家は小田原攻めの時は上野から攻め始めるってなつが前に言っていた。そして、今の堀家は前田家の与力…。秀吉様を説得すれば流行り病にかかって死ぬ運命を変えられるかもしれない。

次回、天正十五年最後の回です。

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