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17 鶴千代

タイトルから「あっ。あいつが出るな。」と思った方もいるかと思います。多分皆様が考えている人物で正しいはずですよ。

~蒲生鶴千代視点~


それはあっという間の出来事だった。観音寺城が織田軍に囲まれてから一日で落ちた。


「鶴。そんなところにいたら討たれるぞ。」

「しっ!黙っていろ。」


俺は友達の永田孫次郎とこの戦の様子を観察していた。見ていて感じたこと。それは六角軍は織田に数で押されて負けたこと。これからは織田が天下に一番近づくということだ。ん?あそこにいるのはさっきまでかかれかかれと言いながら先頭を切って戦っていた武将だ。名はなんというのだろうか。


「鶴。そろそろ帰ることを勧める。今の話聞こえたろ?もう残っている城はお前の父上が守る日野城だけだぞ。」


いや、そんな話聞こえなかったぞ。お前、どんだけ耳がいいんだ?って何だって?日野以外の城は皆降伏してしまったのか。


「このままではまずい。孫次郎、元気でな。俺は父上を説得させてくる。」

「ああ。またいつか会おう。」


急がねば。この数を相手にするなんて到底できない。



日野城


城に入って早々俺は父上を説得させることにした。


「父上。織田と戦うのはやめてくだされ。」

「鶴千代よ。それは主君を見放すということだぞ。」


わかっていますよ。でも駄目なのです。ここで戦っても我らは無駄死にするだけです。


「…義治様は甲賀に逃げました。我らだけが孤立しても味方が助けに来るとは思えませぬ。」

「それでも主君を信じるのだ。それに此度の作戦は私が進言したものだ。責任は私が取らねばならぬ。」


父上が言うこともよくわかる。でもここで父上が死んでも誰の得にもならない。どうすれば父上を織田軍に降伏させられるんだ?


「…今戦っても我らは無駄死にするだけです。早めに降伏しましょうよ、父上。」

「…。」


父上が何も喋らない時は何かを考えている時の癖だ。


「賢秀様、神戸具盛殿がお見えです。」

「通せ。…そろそろ覚悟を決めるべきか。」


覚悟を決める?まさか、父上…。



具盛殿は父上の義弟、つまり俺の叔父にあたる人だ。確か少し前に織田家臣になっていたはず。


「義兄上!降伏して下され!某には義兄上と戦うことなぞ到底できませぬ。」

「しかしまだ―」

「信長様は義兄上を高く評価している。絶対に蒲生を粗末に扱うことはないでしょう。…お願いします。どうか、どうか、降伏して下され!」


叔父上の必死さがよくわかる。さっきまではびくともしなかった父上も頭を下げて必死にお願いしてきた叔父上には敵わなかったのか考え直し始めた。



しばらくした後、父上は、


「…そこまで言われたら…。」


と言葉を濁しながら喋りだした。つまり俺は織田の人質となるのか。叔父上に場所を聞くか。


「信長様はどこにおられるのですか?」

「確か観音寺城にまだいるぞ。」


さっきまで見学していた場所だ。行く準備は一応出来ている。いつか六角は無くなるだろうと思っていたから。


「では父上。織田様の下に行ってまいります。」

「鶴!何を言って―」

「降伏するには人質が必要。それをわかって鶴はやっているのであろう?」

「流石は父上。俺が行けば蒲生はきっと生き残ることができる。そうですよね、叔父上?」

「…この2人の考えは言われないと気づけぬ。わかった。護衛には某が付こう。」


助かります。俺の武術は全く通用しませんから。


「達者でな。」


父上に声をかけられた。


「はい、父上もお元気で。」


俺が行けば蒲生を易々と滅ぼそうとはしないだろう。俺の身がどうなってもいい。蒲生が無事であるならば。



観音寺城


城に着いたらいきなり大広間に通された。両端には老若様々な織田家の重臣様たちがいた。大広間に入ってすぐに頭を下げた。きっと目の前にはあの男がいるだろうから。


「面を上げよ。」

「はっ。」


顔を上げて見るとまだ若そうな男の人がいた。これが織田信長という男か。噂よりは怖くなさそうだ。


「其方、名は何と申す。」

「はっ。蒲生鶴千代と申します。」


じっと見てくる。何かやらかしただろうか。


「…まずは問う。此度の戦、なぜ我らが勝てたと思う?」


いきなり質問か。返答していいんだよな?


「…数です。六角勢は圧倒的な数に飲み込まれて行きました。それと指揮官が自ら先頭を切ることによって士気をあげていたのも勝った理由の一つかと。」


これでどうだろうか?相手のことを悪く言うのではなく私はあなたたちのことをこういう目で見ていますよと言うのが正解かなって思ったんだけど。


「そうだ。…これからの時代は戦術が新しくなる。それについていける者を探しているのだが…」


なるほど。織田家は段々最新技術を取り入れた戦いをしたいのか。俺、そういうの興味あるぞ。


「とりあえずお前は岐阜に送る。そこで似たような奴がいるはずだからそいつの言うことを聞くように。具盛は引き続き護衛を頼む。」

「はっ。お任せあれ。」


岐阜か。どんな町なんだろう。そして俺はどんな風に扱われるんだろう。



~孫四郎視点~


信長様から書状が来た。曰く『人質を1人送るから部屋作っておいて。』とのことだ。え、人質に部屋?どうしたんだろう?よっぽどすごい人が来るのかな?とりあえず空き部屋の確保と清掃をしますかね。



数日後


いよいよその人質の人が来るらしい。誰だろう?


「孫四郎殿、どうやら来たようですよ。」


普段信長様の側で仕えている人が教えてくれた。名前はわからないけど信長様の側にいるのだからきっと優秀な人なんだろう。


「わかりました。ではお出迎えに行ってきます。」


どんな人だろう?怖い人は嫌だな。



城門まで出てみると2人の男の人がいた。


「孫四郎殿ですかな?信長様から護衛を命じられた神戸具盛です。今日は我が甥を人質として連れてきましてな。」


何で僕の通称を知っているの?あ、信長様が教えたのか。ええと神戸って誰ですか?僕は聞いたことすらないよ。…まず人質の子について聞かないと。


「ええとその人質の子と言うのは…」

「私でございます。」


ほう。これは高身長ですな。


「名前は何というのですか?」

「蒲生鶴千代でございます。」


蒲生…蒲生…あ、蒲生氏郷かな?前世で聞いたことがある。信長・秀吉の時代に活躍した人であの徳川家康でさえ恐れていた武将って聞いたことがあるんだけど…。本当にこの人だろうか?とりあえず自己紹介をしますかね。


「私は前田犬千代と申します。皆様からは孫四郎と呼ばれているので孫四郎とお呼びください。神戸様はここまでご苦労様でした。後で信長様に到着したことを手紙で伝えておきますね。鶴千代さんは私についてきてくださいね。」


この人の目線からして絶対に仲違いしてはいけない人だ。人形を扱う訳じゃないけどそれと同じぐらいに丁寧に扱うべきだね。



先日僕が掃除した部屋に鶴千代さんを案内する。


「ここがあなたの部屋です。」

「こ、こんな部屋に住んでいいのですか?」

「大丈夫です。厠がこの突き当たりでお風呂は厠の手前の分岐点を右に曲がった場所にございます。他に知りたい部屋はありますか?」

「大体大丈夫です。」

「では次に一日の過ごし方について説明しますね。」


という感じで次々と説明をこなしていった。疲れる!久太郎さんとは違って僕は説明が下手なんだ。久太郎さん、早く帰ってきて下さい。あなたがいないと僕は駄目みたいです。



「ハアッ。これでいいですか?」

「はい。ありがとうございます。あの、大丈夫ですか?」


疲れている様子を察されてしまった。


「慣れていないんですよ。いつもは先輩がいて代わりに説明してくれるんですけどね。残っている小姓が私だけしかいなくて。」

「私より年下ですよね?すごいと思います。先日信長様にお会いしたのですが今までお会いした方の中で一番覇気があった印象があります。そんな方の小姓になるなんて孫四郎殿はすごいのですね。」


絶対におかしい。身分では僕の方が上かもだけど年齢で言えば6つ年上なのに丁寧に喋ってくれるなんて。


「あの、僕の方が年下だからもうちょっと言葉を柔らかめにしてもいいですよ。じゃないとこっちが話しづらいです。」

「いいんですか?人質なのに。」

「織田家ではそんな風な差別はしません。実力主義ですから。」

「なるほど。…なんて呼べばいい?」


急に性格変わったね。これが本性だろう。


「孫四郎で。」

「俺のことは鶴って呼んでくれ。」

「流石に呼び捨ては失礼ですので私は鶴さんと呼びますね。」


案外話しやすいじゃん。しばらくはまた楽しい生活になりそうだぞ。話を聞いていると将棋もできるそうだ。暇つぶしの相手に最適だ。よかった、よかった。



~久太郎視点~


信長様はさらに西へと向かった。途中で三好三人衆の岩成友通が降伏したり細川某と三好長逸、篠原長房が四国へ逃走したりなど畿内の情勢も変わっていった。残るのは池田勝正のみだったがしばらくして降伏した。これにより足利義昭様が京に安心して入ることができた。後は手続きをして帰るだけだ。早く孫四郎さんと将棋をしたいよ。なんて思っていたら信長様に呼び出された。


「お呼びでございますか?」

「お前を本圀寺の普請奉行とする。」

「は、はい⁉」


何でですか?もっといい人いますよね?


「不服か?」

「い、いや、そういう訳ではないですが…。」

「俺が命じたのだ。失敗しても文句は言わん。」


僕が何を言いたいのか察したようだ。それなら失敗してもいいのかな。いや、駄目だけど…。逆らったらこの人怖いし…。


「…出来る範囲で頑張ります。」


早く帰りたいよ。けどお仕事も頑張らないと。待っていてよ孫四郎さん。僕はもうしばらくは帰れないそうだ。

主人公の想像通りこの鶴千代少年が後の蒲生氏郷となります。氏郷は堀秀政と同じぐらい重要な人物となる予定です。


久太郎も大変ですね。気まぐれな信長様にあれやれこれやれと引っ張られて。私が久太郎の立場だったら辞退してクビになっていますね、きっと。


久しぶりに出てきた孫四郎ですがしばらくは久太郎・鶴千代メインの回が続きます。孫四郎、いつになったら真の主役になれますかね…。

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