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173 秀吉と家康

注意:史実では大政所が送り返されるのは11月12日ですが、本作では、上洛と同時に大坂に帰ります。なので史実と全然違うとかあり得ないという報告をしないでいただけると幸いでございます。

十月二十四日


今日も大坂城に呼ばれた。と言っても、秀吉様に呼ばれたわけではない。ねね様にだ。


「孫四郎、この間会った時は全然話せなかったでしょ?」

「ああ、そういえばそうでしたね。…何年ぶりでしょうか、こうやって話すのは。」

「十年ぐらい話していなかった気がするね。…まつさんは元気?」

「元気ですよ。二日前にも手紙が届いて、五六八…私の娘と一緒に双六をして楽しかったと書いてありました。」

「…お前様には子供ができるかしら。」

「…史実では、茶々との間に2人の子を儲けていますが、私と結婚してしまったのでどうなるかわかりませんね。」

「この間の時も、話せるぐらいまではよくなったけど、それでもお前様のことを良く思っていなそうだったからね…。孫四郎に任せて本当に良かったわ。」

「…摩阿は元気ですか?」

「元気だけど…最近は、利家殿とあまり会えていないからか少し寂しそうにしているよ。」

「そうですか…。今度、何か玩具でも買ってあげようかな。」

「それをお前様がやってくれればいいんだけどね。」


秀吉様はこういうの鈍感だからね。でも、ねね様とは仲いいなって思うけど。


「…三成とも最近上手くやっているんでしょ?」

「あの時はビックリしましたよ。あの三成が古い考えは嫌いだって言ったのですから。政は常に新しくなり続けなければならないって…意外に僕らは似ているのかなって思ったら、別に嫌う理由はないなって。」

「だけど、市松とは仲良くなれない?」

「悪い人ではないですよ。ただ…酒癖ですよね。彼の一番の問題は。」

「何度注意してもあれだけは直らないの。…色々心配だね。」

「そうですね。…そういえば、この間―」


この後、世間話を半刻もしてしまった。



城から出ようとしたら、怒鳴り声が聞こえた。何だ何だ?と思いながら近づいたら…ああ、なるほど、そういうことか。



話は四半刻前に遡る。


~井伊直政視点~


私は、関白秀吉殿の母、大政所様を大坂城に届けている。あの、狸め。また、私をこき使って…。でも、大政所様とはたった一ヶ月だけど仲良くなれたから別に良かったけど。


それにしても秀吉殿は殿を本当に、臣従させたいんだなって言うのがよく伝わってきた。大政所様もだけど朝日姫様を嫁がせるなんて…豪胆にもほどがあるでしょ。普通。


なんて思いながら、広間で秀吉殿と対面した。


「おお、お前が井伊直政か!孫四郎から聞いた通りの優しそうな顔だな。」

「は、初めまして、関白殿下。…この度は当家を―」

「堅苦しい挨拶はなしだ。お前がおっ母を届けてくれたんだろう?褒美として茶を用意する。ここで渡してもいいんだが…点てる様子を見ないと毒が入っているかもしれないと躊躇するだろう?今日は特別においらの茶室を案内する。」


よく、喋るな。この人。


「ありがとうございます。」

「じゃあ、行こうか。」



向かう間も秀吉殿はたくさん、話をしてくれた。殿との思い出話や、大政所様への感謝の気持ち、そして長年支えてくれている利家殿や孫四郎様の気持ち等…私が聞いていいのかわからない話まで聞かせてくれた。こういう人なりだから、家臣の皆は秀吉殿に付いて行くんだろうな。


「さあ、着いたぞ。お前の知り合いも呼んでいる。」

「知り合いですか?…あっ。」


その知り合いは会ってはいけない人、石川数正さ…数正だった。何で、何でここにいるんだ?


「…?どうした?」

「秀吉殿、この方は先祖代々仕えてきた主君を背いて、貴方に従った臆病者です!この者と同席することは私には到底できません!」


心からそう叫んでしまった。そのまま、私は茶室を出て、殿が待つ、秀長殿の屋敷に向かおうとした。その時だった。服の首根っこを掴まれたのは。


「…だ、誰ですか?」



~孫四郎視点~


「僕です。孫四郎です。…今日はうちで飲みませんか?美味しいお酒をたくさん用意していますよ。」

「え、良いのですか?では、殿に許可を取ってから向かいますね。」


…現場の様子を見て、即座にこの判断をできてよかった。秀吉様も、状況を把握したからか、行けというような表情をした。


歩きながら、万千代改め直政さんは僕に話しかけてくる。


「孫四郎様と飲むなんて久しぶりだな~。…今日は酔い潰れないので、大丈夫ですよ?」

「どうかな?いつもの直政さんだったらすぐに潰れちゃいそうだけど。」

「私、変わりましたよ?前よりは飲めるかと。」

「…夕方、待ってますから。」

「はい!では、失礼します。」



夕刻 豊臣秀長邸


~秀吉視点~


「おや、兄上。いかがしましたか?」

「家康殿に会いに来た。…今、何してる?」

「酒井殿と半蔵殿と世間話をしているようです。」

「…家康殿の家臣には俺と会って気まずくなる者はいないよな?」

「それで言ったら全員ですが…兄上が思っている者は多分いないかと。」

「わかった。じゃあ、行ってくる。」



「…全ては、小牧・長久手で決まっていたのかもしれませんな。」

「いやいや、金ヶ崎のあの絶望的な状況で生き残れたのが全ての始まりかも…秀吉殿。」

「何話してたんですか、家康殿。さては、おいらの?」

「ええ。秀吉殿の場合、いつから運も実力のうちと言えるのかを忠次と話していました。」

「おいらの場合ですか。信長様に仕えた時…いや、松下加兵衛様に仕えた時からかな。…忠次殿、少し、外してもらってもいいか。半蔵は、家康殿の護衛のためにいてもいいけど、絶対においらたちの話を口外するなよ。」

「某はいてもいいのですか?」

「急に家康殿が倒れて、その瞬間をおいらしか見ていなかったせいで毒殺したとか言われたら嫌だからな。半蔵だったら仮に家康殿が急に病のせいで倒れたとしても嘘は言わないだろう?」

「ま、まあそうですが…。」

「半蔵が残るなら、私は下がりましょう。…ですが、我が主を殺めたらただじゃ―」

「わかってるって。忠次殿だけでも嫌なのに、平八郎や直政を相手にするなんて、俺、絶対死ぬから!」

「忠次、秀吉殿は人を殺めるのは好かぬ御方だ。絶対にそんなことはないから、安心して、今日は休め。」

「はっ。失礼いたします。」


そう言って、忠次は部屋へ戻っていった。


「…家康殿と初めて会ったのは、信長様との同盟のあの日でしたっけ?」

「あの日、秀吉殿は慌てて、周りを見ずに何かを探していて、たまたま信長様と一緒に歩いていた私とぶつかってしまったのでしたな。あの時の秀吉殿、面白かったですな。頭を思いっきり下げて、血を流して…あの時から、人づきあいの上手い人なんだなって感じましたよ。」

「家康殿が、あの時、すぐに止血をしてくださったおかげで俺は傷が残らずに済んだ。…俺はあの時から家康殿のことを、寛大な御方だなと感じました。」

「…不思議ですな。小牧長久手で戦ったのにこうやって仲良く話せるなんて。」

「それも家康殿が寛大だからこそ…ってもう一度言ったらおいらが家康殿のことを舐めているみたいに感じちゃうか。」

「…今日来た理由はこんな話をするためではないでしょう?」

「…勘付かれてたか。」

「秀吉殿の考えは簡単、そう思っておりますから。」

「…家康殿の知っての通り、俺は元々ただの足軽。そんな俺がここまで来れたのは間違いなく信長様のおかげだ。だけど、その信長様が死んでから、俺を守ってくれる強い人がいなくなった。柴田殿も、丹羽様も、俺のことを思いながら先に逝ってしまった。だから、最近、臣従した長宗我部の元親や上杉は心から俺の言うことを聞こうとは思っていない。


だけど、家康殿。貴方が俺に臣従してくれたら、少しは俺の見方を変える人も現れると思うんだ。だけど、ただ、臣従するだけだったら上杉と変わらない。だから…家康殿にお願いしたいことがあります。」

「…頭を下げよと。」


俺は頷く。


「諸大名にとって家康殿は特別だ。信長様と二十年も同盟を結んで一度も裏切らなかったんだから。あの信長様に認められた家康殿が公の場で頭を下げてくれたら、きっと、皆、おいらの見方を変えてくれる。いや、変わる。あの家康殿が下げるなら…ってね。…お願いします。明日、頭を下げてもらってもいいですか?」


そう言いながら、頭を床に着くまで思いっきり下げる。


「…わかりました。徳川家康、これからは秀吉殿の…いや、豊臣の天下のため、力を尽くしましょう。」

「本当か⁉…ありがとう、家康殿。」

「信長様と秀吉殿だけですよ。私が頭を下げるのは。」

「本当に良かった。嫌ですとか言われたら俺、泣いてたよ…。」

「…私からもお願いがあるのですが。」

「何でしょうか?」

「明日の謁見で私は―」



十月二十七日


「徳川三河守、大儀である!」

「ははっ!」


そう言って、家康殿は頭を下げる。家康殿はおいらの陣羽織を着ている。これは、俺に合戦の指揮を執るようなことはさせないという意味がある。…さて、次は島津だ。頼むぞ、権兵衛、孫四郎。

次回から戸次川の戦いに入ります。

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