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169 小六殿との別れ

前半は、孫四郎視点、後半は秀吉視点です。


後半が、タイトルの内容となっております。

四月七日


僕は梅と一緒に、金沢城(仮拠点)に一時帰宅出来た。


「只今戻りました。…あれ?意外に驚かないの?」

「いや、孫四郎様らしいなって…。梅さんもあまり疲れていなさそうですね。」

「旦那様が何度も休憩を取ってくれたおかげです。」

「…後で、私にもお願いしてもいいですか?」


これだけで察しないでよ、桜。恐らく、ご想像の通りです。


「後でね。…永は?」

「庭で、蘭丸殿と徳姫様と一緒にお話ししていますよ。」

「蘭丸も?…なるほど。そういうことか。」

「久太郎様が側にいたからか、いつもの勘が鋭い旦那様に戻っていますね。」

「久太郎さんがいると、しっかりしなきゃ、って思うんだけど、しばらく会っていないと全てが鈍感になるみたい。」


どういう身体だよと自分に突っ込みたい。



中庭


「夜桜で 出会った二人 末永く」

「それは、そのまま詠んだだけですよ。」

「えー?じゃあ、蘭丸が作ってよ。」

「わ、私⁉…雪解けて 桜が咲いたよ 卯月の宵」

「蘭丸も言えないじゃん。…お帰りなさい、旦那様。」


永も僕を見ただけで受け入れてくれた。…長く一緒にいると、変わり者の行動に驚かなくなるのか。


「ただいま。…歌を詠んでいるの?」

「はい。…孫四郎様は得意ですか?」

「全然。何なら、やったことさえないよ。」

「…じゃあ、この桜を見て、何か一句って言ったら?」


困ったな。こういうの苦手なんだけど…。


「桜舞い 福と幸を 知らせたり 永遠(とわ)の形よ 我に来たかな」


あれ?自分で言うのも何だけど、意外にいいのが出来た気がする。


「…公家の方に教えてもらったのですか?」

「いや、自分で考えて書いたんだけど…。」

「…桜姉様と永の名前も入れているところがいいと思います。」

「そ、そこ?」

「こんなに上手くできるなら、今後和歌集を作ったら―」

「たまたまだから、そんなの作っても売れないよ。」

「…あれ?茶々姉様たちは?」

「…気づいちゃったか。実は…。」



「…しょうがないですね。本当に孫四郎様は。」

「怒らないの?」

「話を聞く限り、茶々姉様たちを見捨てたわけではなさそうですし…それに、旦那様は本当に皆のことが好きなんだなってことがわかりましたから。」

「…!あ、当たり前でしょ。そんなの。」

「当たり前じゃないですよ。…永も大好きです。」

「ええと、今、言われても、困るな…。話の流れ的に違うでしょ。」

「…!そうでした。」

「とりあえず、一時帰国って形だから、赤ちゃんが生まれたらすぐに戻らなくちゃいけないんだ。梅も、何度も行き来させちゃってごめんね。」

「いえ、そんなに苦労しないので―」


これ以上話されると、桜に嫌な目をされそうなので無理やり、続きを言う。


「蘭丸、こっちにいる間は遠慮なく僕のことを使って構わないからね。次、九州に行ったら一年ぐらい帰れないから。」

「畏まりました。皆にもそう伝えます。」

「皆も、遠慮せずに使ってね。…あ、決してそういう意味では―」

「わかってますよ。…でも、早速今日からお願いしますね。」

「そ、それは構わないけど…ご飯にしましょう!ね、ね?」

「「「ハハハハハ。」」」


また、笑われた。だけど、流石に今日は分かるよ。何でみんなが笑ったか。



五月二十二日 大坂蜂須賀邸


~秀吉視点~


小六殿が危篤という報が来た。小一郎を連れて、急いで、蜂須賀邸に向かった。


「ああ、お前らか。…何泣いてんだ?お前、俺が死ぬと思ってんのか?」

「え、そうじゃないのか?」

「…ハハハ。お前はすぐに騙される。」

「小六殿…おいらでからかうのはやめてくれ。」

「今日からかわないでいつ、からかえばいいんだ?」

「…小六殿、三年前まではあんなに元気だったのに。何で―」

「半兵衛と同じだ。いつの間にか病魔に侵されてちまったのさ…。」

「…無理をしているのですね。」

「当たり前だろ。…大事な友に苦しい顔、見せられるかよ。」

「…嫌だよ。小六殿が死ぬなんて、嫌だよ。」

「…俺だって、お前の天下を見てみたかった。」

「…ううっ。小六殿。」

「…小一郎、初めて会った時に比べて、立派になったな。半兵衛が死んでからはより一層、な。」

「…私がしっかりしないと、兄上を止められる者は少ないですから。」

「…無理はするなよ。半兵衛みたいに早死にするからな。少しでも長生きしたかったら藤吉郎に楽させるな。こいつは、そんな簡単には死なないから、多少無茶をさせても大丈夫だぞ。」


それ、俺がいる前で言いますか…。でも、今日は、許します。


「はい。今までありがとうございました。…兄上と共に、天下統一を成し遂げます。成し遂げるまで…いえ、私たちが死ぬまで、半兵衛殿と二人で、天で見届けていて下さいね。」

「ああ。約束する。…さて、そろそろお迎えが来たみた―」


え、そんな急にお迎えが来ることあるのか?…俺、まだ遺言聞いてないよ。


「小六殿!何で、そんな、急に死んじまうんだよ!俺、まだ何も聞けてないぞ!」

「…大将がそんな器でどうするんだ?」

「小六殿!」

「全く。小一郎なんか、泣きながら笑ってるぞ。俺たちのやり取りが面白くて。」

「それ、自分で言いますか?…ハハハハハ。」

「…だが、お前を試したのは本当だぞ。でも、こういうのもお前らしいんだよな…。」

「何とでも言ってくれ。…覚えていますか?三人で最初に会って初めて共闘した墨俣での戦いを。」

「忘れるわけないだろ。…あの時に俺は感じたぜ。この三人なら、行けるなって。」

「さらに、半兵衛殿も加わって…おいらたちには怖いものなんて何もないってあの時は思ってた。」

「そうだな。…藤吉郎、お前は優しい。そして、本当は一人孤独なんだ。だけど、小一郎や官兵衛、孫四郎たちが支えてくれるおかげでお前は、ここまで来ることが出来た。そのこと、理解しているな。」


俺は頷く。


「…皆を信じて、この日ノ本を一つにする。お前なら、出来ないわけないだろ?」

「…当たり前でしょ。俺を誰だと思っているんですか?」

「…元を辿れば木下家のただの藤吉郎。その事、忘れるんじゃないぞ。」

「うん。絶対に、忘れない。」

「…本当に迎えが来たみたいだ。」

「ここまで付いてきてくれてありがとうございました。…俺たちはずっと友達ですからだから。あの世で会った時に俺のこと忘れてたらひっかきまわしますから!」

「…最後に泣かせてくれるじゃないか。お前たちと一緒に過ごして楽しかった。天で半兵衛と一緒に見届けてやる!


俺に夢を与えてくれて、あ、り、が、と、な…。」


そう言って、小六殿は長い眠りについた。


『小六殿~!いるなら返事をしてくだされ!』

『この声は藤吉郎か。元気か?』

『元気ですとも。ありゃりゃ。もう小六殿はお年ですかな?』

『そうそう。もう年で…って俺はまだ40だ!』


ああ、あの時が懐かしい。


「俺は止まりませんから。皆が笑って、()()に暮らせる世を作れるまでは。」


天正十四年五月二十二日 蜂須賀小六郎正勝、病に倒れる。享年六十一。

蜂須賀小六、退場。また、秀吉にとって大事な友達がまた一人、去りました…。


小六も、本作では大事な役を果たしていると言えると思います。最初に家を建ててくれたのは小六ですし、四人の中でも欠けるわけにはいかない、存在となりました。実は、当初は、この人物、第四章ぐらいで、違う意味で退場(死んでいないけど、気付いたらいなくなっていたように)させようと考えていたのですが、ストーリーが進むにつれ、そういうわけにはいかないなと思い、あえてほぼ1話丸々彼の最後に使うことにしました。一年前の自分はこうなるなんて考えてもいなかったと思います。


次回、いよいよ、孫四郎と永の子供が誕生します。

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