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166 天下人のおもてなし

三月二十七日 夕方


京から大坂は遠いようで近い。…ほう。これが大坂か。


「…天下の台所とでも言いましょうか。店がほぼ隙間なくズラッと並んでますね。」

「…藤吉は派手好きだからな。賑やかな街を作りたい!というのが伝わってくる。」

「…皆が笑って暮らせる世。大坂()()を見ていると、本当にそのように見えますね。」


…正直に話してしまった。だけど、父上はハハハと笑っている。


「本当にそうだな。…ん?あれは小一郎じゃないか?」

「利家殿、孫四郎。ようこそおいでになさいました。」

「お久しぶりです、秀長様。…今日からよろしくお願いします。」


本当は、別のところで泊まらせていただく予定だった。だけど、昨日、秀吉様の使者の方から、明日からは秀長様の屋敷に泊まってくださいって言われたので、急遽、変更することになった。



「こちら側の部屋を自由に使って下さい。」


そう、指差す方向には6つの部屋があった。…なるほど。


「父上と摩阿、豪が先に決めていいですよ。僕らは最後で大丈夫です。」

「んじゃ、遠慮なく。」


そう言いながら、父上は一番奥の部屋に向かっていった。


「本当にいいのですか?兄様が最後で。」

「うん。…お勧めは父上の隣の部屋だよ。」


もしかしたら、もう、父上と2人は会えないかもしれないからね…。


「…豪、どうする?」

「ね、姉様が先に決めていいですよ。」

「…じゃあ、父上の2つ隣の部屋にするね。」

「では、私は父上と豪の間の部屋にします。」


仲いいな。…何だか、申し訳なくなってくる。


「さて、残りの三部屋だけど…茶々たちは一部屋で大丈夫?」

「…よろしいのですか?」

「え、逆にいいの?」

「…三人で一緒に寝れるだけで幸せなので。」


この姉妹も仲が良い。…やっぱり2人には悪いことしちゃったかな。一緒でもいいんだよって言ってあげればよかった。


「梅はどうする?残っているのは手前二つだけど。」

「…じゃんけんで決めませんか?」

「勝った方が先に選べるってことね。…じゃんけん、ポン。」

「…私の勝ちですね。では、一番手前の部屋にします。」

「…仲悪いの?」

「え、そういうわけじゃないですけど…こうすれば、皆で殿と一緒にいられるでしょ?」


ああ、なるほど。部屋の境目の襖を取れば皆一緒に過ごせるよねってことか。…それは、前田家独自ルールだけど秀長様、文句言わないかな。


「…仲良いのだな。皆。」

「…ありがとうございます。」


秀長様も長年の付き合いだもんね。前田家は皆仲良いことは知っているよね。


結局、境目全ての襖を外して、寝る時以外は皆で過ごすことになった。



父上は疲れていたのかすぐに寝転がった。


「…父上、まだ食事が済んでいませんよ?」

「…孫四郎だったら先に風呂って言うだろ?」

「そうなのですか?兄様。」

「…ご飯前に風呂入った方がゆっくり食べられるでしょ?」

「でも、匂いが服に付いたら、落とすのが厄介ですよ?」


ああ、確かに。先ご飯派の主張もわからなくはない。


「…だったら、先風呂組が入った後に一緒にご飯を食べて、その後に後風呂組が入ればいいんじゃないか?」

「そうですね。…兄様は皆で入るんですか?」

「あ、当たり前でしょ…。家族なんだし。」

「何で照れてるんですか?」


妹たちはまだわかっていない…そんなわけはないね。からかっているのか。でも、風呂では厭らしいことしないよ。仲良く入りながら、一緒に雑談したりするだけであり、あんなことやこんなことはしていないと言い切れる。



先入る組の、僕らと父上の入浴後、食事を頂く。


「お、始まってるな。おいらも混ぜてくれ!」


…何で、予告なしに来るんですか?茶々たちはビクンとした。


「あ、兄上。来る前に、私に声をかけてからとあれほど言ったのに…。」

「ん、どうかした…失礼しました。食事が済んでからもう一回来ます。」


間一髪セーフ。部屋に入る前に秀吉様は空気を察し、一度、戻っていった。横を見ると茶々たちもほっとしているように見える。


「…実はな、その食材を選んだのは兄上なのだ。」

「え、秀吉様が?」

「…ほとんど、お前と利家殿の好きな物ばかりだろう?」

「言われてみたら、確かに…。」

「兄上も本当は皆で笑いたいのだと私は思う。だけど…。」

「…それ以上は言わなくても大丈夫ですよ。皆、わかってますから。ね、父上。」

「俺に聞くか。…過去は変えられないが未来は変えられる。藤吉(あいつ)もそう思って、少しでも罪を償おうと努力しているのかもな。」


今の言葉、名言集に残りそうな言葉ですよ。


「…私たちも、もう少し、慣れた方がいいのでしょうか?」

「いや、無理して慣れなくてはいいと思うけど…。」

「…でも、私たちのせいで旦那様と猿…秀吉の仲が悪いってなったら―」

「大丈夫。そんなことには僕が絶対させないから。」

「「「…!」」」


そんなジーって見られても困るよ。梅はクスクス笑っている。摩阿と豪は何が起こっているのかわかっていないみたい。父上は…普通に汁物を飲んでいる。


「ゴホッ。」

「…父上、勢いよく飲み過ぎです。急がなくても汁は逃げませんよ?」

「「アハハハハ!」」

「お、おう。…わ、笑わなくてもいいだろ?後で、覚えておけよ?」


楽しそうで何よりです。



食後、妻4人を先に部屋に戻し、秀吉様を迎え入れる。


「すまなかったな。俺の配慮が欠けてた。」

「…近衛様から聞きましたよ。被害状況の確認で虚偽の報告をしたと。僕、送りましたよね?加賀・能登・越中・越前の状況についての報告書を。なのに、どうして―」

「朝廷には俺を認めない奴らがたくさんいる。そいつらに、あの地震でこれだけの犠牲者が出たなんて言ったら俺のことをさらに見くびるだろうなと思った。だから…どうしても真実を伝えることが出来なかった。」

「…正直に話さないといけないこともあるだろ?」

「本当にその通りだ。…帝は何か言っていたか?」

「『信長とは違い、あの者は天下を取ることしか考えていない。皆が笑って暮らせる世を作る?どこか出来ているのじゃ。京でも多くの民が苦しんで居る。それを救えずにして、何が天下人じゃ。』と。」

「…帝にも嫌われたか。」

「…本当に、迷惑な奴だな、藤吉は。少しは孫四郎(こいつ)を見習え。こいつは馬鹿正直だから、何でも素直に口にするぞ。そのせいで、多少の迷惑をかけることはあるけど。」


あれは、僕にとっては多少ではなく重大な出来事です。


「…俺、最初はお前と仲直りしようと思ってきたんだ。だけど、それ以上の問題を生んじまった。」

「え、私は前、会った時に仲直りした認識でしたよ?…だから、帝には秀吉様はそんなに悪い人じゃないですよって伝えておきました。」

「ほ、本当か⁉じゃあ、あんな料理、用意してもらわなくて良かったのか⁉」

「関係的にはそうですね。…ですが、美味しかったですよ。また、ご馳走してもらいたいです。」

「…な、こいつは何でも素直に口にするだろ?」


しまった。…でも、これはそんな悪いようには聞こえないけどな。


「…また、今度、2人で飲むか?」

「是非、ご一緒させてください。…って本題から逸れてますよ。」

「…お前は何か策があるのか?」

「あるにはありますよ。…先ほどの約束を守ってくれるなら、話してもいいですけど。」

「あれぐらいたやすいことだ。…で、何だ?」

「…京の民に炊き出しを提供すること。これが、秀吉様の性に一番合っているやり方だと思います。」

「…お前、いいのか。それはお前がやりたかったことじゃ―」

「いいのです、父上。誰が助けようと、民を助けたことに結果は変わりませんから。…秀吉様、四国攻めでたくさん儲かりましたよね?」

「…ああ。四国からたくさんの財宝を奪い―」

「その財宝を、軍費や自分のために使うのではなく、京の民のために使って下さい。…そうすれば少しは公家の方も貴方を見直すと思いますよ。勿論、帝も。」

「…京だけじゃない、全ての民に―」

「現実的に無理です。…まずは、京から。全ての民は天下を取ってからまた考えましょう。」

「…半兵衛殿そっくりだ。」


急に先生の名前を出してきて…でも、確かに先生もこう言いそうだ。


「わかった。お前の言う通りにする。…今度、来る時までには、絶対に京の民を笑顔にして見せる。だから、おいらのことをこれからは、見捨てないでほしい。」

「何言ってるんですか?」


敢えて、意地悪な言い方をする。


「え?」

()()()()()でしょう?」

「…孫四郎~!」


ちょっ、急に抱き付いてこないでよ。…でも、これが本当の秀吉様だよね。


「そろそろ入っていいぞ。」


父上がそう言うと、摩阿と豪が隣の部屋から入ってくる。


「ほら、2人とも。藤吉おじさんに挨拶しな。」


藤吉おじさん…!笑わせに来てるよね。


「摩阿でございます。…これからよろしくお願いします。」

「豪です。…初めまして。」

「摩阿が前言ってたお前の側室にする娘で、豪は八郎のところに嫁がせる娘な。」

「…こんな、若い子でいいのか?俺、てっきり孫四郎ぐらいの年頃の子が来ると思ってたけど。」

「若い方がいいだろ。お前、まだ子供いないんだし。」

「…ありがとう、利家殿。こんな俺に、こんな可愛い子を嫁にくれて。」

「今日からは真面目に子作りに励めよ。…摩阿、大切にされなかったらすぐに俺かねねに言え。すぐに城に乗り込んで、こいつの頭をぶっ叩いてやるから。」

「承知いたしました。」

「お、おい、それは冗談じゃないからやめてくれ!」

「そうならないようにすればいいだけだろ?…八郎にはいつ会える?」

「いつでも会えるぞ。…明日、お前の旦那様に会わせてやるからな。」

「は、はい!よろしくお願いします!」


豪、そんなに緊張しなくて大丈夫だと思うよ。…とは言い切れないか。逆に摩阿は落ち着きすぎだと思う。この猿、何をするかわからないからね?ねね様が見てくれそうだから大丈夫だと思うけど。

風呂とご飯どっちが先かって結構分かれますよね。現代では下のリンクのような割合になっているそうですよ。


https://lidea.today/articles/003006


次回、また重要人物が出てきます。

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