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149 正四位上 前田加賀守利長

十一月十二日、信雄様は秀吉様と和睦した。和睦条件は伊賀と伊勢半分の割譲だったので伊賀は、脇坂安治殿に、松ヶ島十二万石は賦秀さんに与えられることになった。


また、家康殿も秀吉様と和睦を結んだ。条件として、家康殿の次男、於義丸殿を秀吉様の()()として送ることが決まった。戦では家康殿が勝ったのに和睦では秀吉様の方が有利になっているのが不思議だ。


成政様は末森での一件以来、特に動きがない。…また、皆で笑いあえる日が来るといいな。なんて思っても意味はないのだろうけど。



それと、秀吉様からの手紙で僕と久太郎さんに官位が貰えることが決まったそうだ。


「久太郎は従五位下、左衛門督に、お前は正四位上、参議、そして加賀守に任じられるらしい。…正四位上⁉」

「ええと、僕、官位には詳しくないんですけどそんなに偉い位なんですか?」

「偉いも何もその一個上が藤吉の従三位下、権大納言だから…何でうちの孫四郎がこんな位に?」


秀吉様の一個下⁉そ、そんな偉い位に就くことになったの⁉


「ちなみに父上は―」

「俺が貰えるわけないだろう?」

「…自分でもわからないです。何でそんな偉い位になったかなんて。」

「…しかもな、正四位上は本来、次の従三位下に就く者が一時的に任じられるだけの位なんだ。…官位ってもしかして価値がないのか?」

「…参議も本当は蔵人頭とか近衛中将とかを務めないと任じられないはずですよね?孫四郎さん、一体何をしたの?」

「そんな、何も悪いことしてないですよ⁉秀吉様に朝廷に金を払うから手伝えって言われたからその通りにやっただけで―」

「「それだ。」」


…つまり、金を払えば誰でも官位を手に入れられるってこと?


「…後は藤吉が朝廷にお世辞をペラペラしておけば何とでもなると考えれば…納得したくないが納得だな。」

「ちょっと安心したような、可哀想な…。」

「…とりあえず、価値のない、官位なんですね。じゃあ、辞退しておき―」

「せっかくだし、貰っておけ。…実朝公みたいに早死にするかもしれないがな。」

「ええ?結局どっちがいいんですか?」

「僕は貰うよ。一応、便利だし。」

「…じゃあ、私も貰います。」

「加賀宰相の誕生だな。」


…違う!これは罠だ。久太郎さんと父上の目を見て気づいてしまった。ああ、そういうことか。つまり、秀吉様は僕に―



大坂城


~秀吉視点~


「お久しゅうございます、秀吉殿。…いえ、権大納言様。」

「秀吉で構わんよ、賦秀。…今日はどうした?」

「松ヶ島への加増のお礼をしたく―」

「今頃、加増されてわざわざ直でお礼を言いに来るのはお前ぐらいよ。」

「…孫四郎が正四位上となったようで。」

「加賀宰相か。孫四郎はおいらをここまで連れてきてくれた陰の功労者だということは朝廷の誰もが知っていてな。案外、簡単に認めてもらえたぞ。」

「秀吉殿は孫四郎…加賀宰相のことを信用し過ぎではないですか?」

「そうかな。でも、あいつは俺のことを裏切らない…というか裏切れないぞ。利家殿と久太郎がいる限りはな。」

「…だとしてもですよ。八十八万石と言い、正四位と言い…皆に不審がられてもおかしくない状況が出来上がっていますよ。」

「…それがおいらの狙いだと言ったらどうする?」

「…まさか!」


気付くのが遅かったな、賦秀。もう、孫四郎は天下を取ることができないぞ。おいらが知らないとでも思ったか?…まあ、しばらくは知らないふりをしておくけど。



~孫四郎視点~


「…って秀吉様は2人に言ったんでしょ?」

「…もう、隠しても無駄みたいですね。どうします?利家殿。」

「目でばれるなんてな。…それでも貰うなんて、お前らしくないな。」

「敢えて騙されておけば秀吉様も引っ掛かった、と思うんじゃないかなって。」

「…本当は嫌だよ。秀吉様に協力するのは。だけど―」

「みなまで言わないで下さい。…父上、久太郎さん、今決めてください。貴方たちは秀吉様と僕、どっちの天下を望んでいるのですか?」

「というと?」

「皆が笑って暮らせる世か、皆が幸せに暮らせる世か。」

「そんなの―」

「はたまたどちらも叶えられるようにするか。」

「…孫四郎さんはどうしても立ち上がらないんだね。」

「だって、秀吉様と戦っても勝てる気がしないもん。…だったら、今は力を蓄えた方がいいでしょ?」

「…こいつが一番だな。」

「本当に。…欲はあるけど全ての民のこと、そしてこの先のことをしっかり考えているのは孫四郎さんだけですよね。」

「…これからは藤吉が嫌がらせをしてきても俺がどんな罠か教えてやる。」

「秀吉様に、どうなったか聞かれたら、官兵衛殿と一緒ですって答えておくね。」

「…それはまずいんじゃ―」

「あ、そうか。」


とりあえず、しばらくは騙されたふりをして秀吉様に従っておこう。でも、領内の開発は順次進めていきたいな…。どうしようかな?


ちなみに、この日から、僕は他家の人に加賀宰相と呼ばれるようになった。孫四郎呼びが減ったのは寂しいような、でも大人として認められて嬉しいような…。

秀吉と孫四郎は上司と後輩であり、ライバルでもあるという設定にしました。


お互い、騙しあっているんですよね。2人とも理想の世は似ているのに騙しあうなんて…。でも、孫四郎は秀吉の天下の後に取ればいいやと思っていますが秀吉は絶対に自分が先に天下を取ろうと思っている。これが本作での2人の思想の最大の違いです。


次回も大事な回です。

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