146 やりたいことをまとめる
天正十二年に入った。今年はのんびり、正月を迎えることが出来た。
「やっぱり正月はこたつで寝転ぶのが一番だよね~。」
「そうですよね~。でも、永は眠くなってきました。」
「…僕も眠くなってきた。もう、このまま寝ようかな。」
「そろそろ生活習慣を元通りに戻しましょうよ、孫四郎様。」
「そうですよ!永姫様も、そんなだらだらしてたら太りますよ!」
初と梅に怒られちゃった。…そうだね、そろそろ活動再開しますか。
「父上、熊さん。」
…五六八、僕を指差しながらそんなこと言わないでよ。あと、熊はもっと怖いよ。って、皆、笑わないでよ。せっかくやる気が出てきたのに、もう!
「…皆、おはようございます。」
遅っ!江は今、起きてきたの?…正月とはいえ、流石に遅い。
「江姉も熊さんだ。」
「…熊?それに、私もって…あはは、孫四郎様もか。」
「…あれ?徳姫様は?」
「徳姉様は、朝早くに初日の出を見て、もう一回寝ていましたよ。」
初日の出?そんな早起きしたの?僕でさえ、六時ぐらいに起きたんだけど。…まあ、今日は正月だし寝させてあげますか。
「そうか。…よし、今年も一年、頑張りますか!」
そう言ってこたつから勢いよく飛び出す。…とその時!
ドン!
「「痛ったーい!」」
「さ、桜⁉ごめんね、急に出てきちゃって。」
「私こそごめんなさい。五六八を捜すのに夢中で。」
「母上?」
「…やっぱりここにいたのね。」
「父上は熊さん。」
「…それはいいから。」
「熊?」
「…もう、そんなに聞かないでって。」
桜と五六八が部屋に戻ってから、今年、やりたいことを紙にまとめてみる。
きっと今年は戦が終わるまで内政にあまり集中できない。だから、その下準備を八割完成させることが今年の目標になりそうだ。
例えば、農業改革。北陸は米どころなんだけど、新潟や富山が生産量も品質も強い。でも、石川と福井のお米はあまり有名じゃないんだよね。出来れば、ブランド化を目指したいんだけど、どうすれば出来るだろうか。今度、なつに手紙で聞いてみよう。何か知っているかもしれない。
それから年貢制の廃止。この時代では年貢は当たり前のことだけど、凶作の時に年貢を取った結果、農民の食べる物が野草や草鞋しかなくなった国が出てきたって何かの資料で見た覚えがある。民が死んだら、米は出来ない。そうなったら、僕らが食べる物もなくなってしまう。だったら、必要な分は家で保存しておいて、必要じゃない分を、金を出して買った方がお互いに良い。でも、すぐにやるわけにはいかないから家臣と一緒にこれでよいか確認し、試行錯誤した後、始めると父上は言っていた。皆、納得してくれるかな?刀狩りとセットで話は進んでいるらしいけど…。
また、鉄道業を新たに始めたい。金沢から福井を経由して敦賀まで結ぶ路線。そう、北陸本線だ。でも、これも色々難しいことが多い。車両制作、線路、電線…絶対に1年や2年では完成できない。目標は1600年の関ヶ原の戦いまでに完成できたらいいなって思ってるぐらいでまだ、優先度は低い。まずは民の信用を得てからじゃないとこういう事業は進められないと僕は思っている。
後は金をたくさん貯めたい。石鹸を他国に適正価格で売りたいけど…まあ、しばらくは無理か。一通り、戦が終わったら考えることにしよう。
…こう考えてみると今すぐできることは案外少ないな。最優先は末森城の戦いだ。秀吉様、父上、そして僕のためにも絶対に負けられない戦い。勝つために自分に何ができるか、今度はそれを考えよう。
ん?足音が聞こえる。
「若様!明けましておめでとうございます!」
吉継が久しぶりに金沢にやってきた。今は新たに築いた敦賀城を守ってもらっている。…そう、この城を建てたのも金が減っている原因だ。
「明けましておめでとう、吉継。…敦賀では石鹸売れてる?」
「そうですね、よく落ち、形も珍しい花石鹸ですから人が通るたびに売れています。桜様となつ様に感謝ですね。」
「そんなに売れてるんだ。…在庫は?」
「…実はもう、あと少ししかないです。」
これも課題の一つだ。今までは石鹸作りは他国に作り方がばれないように現状、桜となつと新九郎しか制作者がいない。勿論、僕もやろうと思えばできるけど最近は中々休む時間が取れなくて唯一休める正月も家族でのんびり過ごしているから全然、生産が間に合わないんだよね。だから、そろそろ情報解禁してもいい頃だと思う。
「…強制労働が一番かな?」
「強制労働?」
「はい。給料は高めで、衣食住を保証、休みは7日に2日取らせる代わりに1日四刻、石鹸作りに手を尽くしてもらう。」
…ほぼ前世の労働三法の内容に等しいじゃん。でも、ありだな。
「絶対に残業をさせないこと。わざと妨害などをする人が出てきたら絶対にクビにすること。そして、工場創業前に新九郎に環境確認を行ってもらうこと。これを守ってくれるならその案でいいと思うよ。」
「わかりました。では、新九郎殿と一緒に考えてみます。」
そう言って、吉継は部屋を出ていった。…久しぶりに話したかったな。
「孫四郎様、私にもお役目下さい!」
蘭丸に仕事か。…そろそろ小牧長久手の戦いが起きるんだよな。そうすると、長可殿が…決めた。
「今から長可殿に明けましておめでとうの手紙を書くから届けてくれる?」
「…何かあるので?」
察しがいいね。きっと本能寺の時にわかったんだろう。僕が普通のことをするときは何かある時だって。
「…いいや?何もないよ。」
「怪しいですね。」
流石にお兄さんが死ぬからそれを防ぐためとは言えないよね…。
「書けたよ。じゃあ、お願いします。」
「わかりました!」
さて、もうちょっと働きたいけど…また目眩が来たら大変だ。今日は梅に膝枕をしてもらいながら昼寝をしますか。
11日間連続投稿ありがとうございました。
次は2月1日に投稿します。
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