14 小姓としての生活
今回は孫四郎の小姓生活2日目を投稿することにしました。
多分他の作者様だと幕間で使用される部分だと思います。
おまけとはまた違う長さですので今日は1本しか投稿しません。予めご了承ください。
目が覚めた。前世で言う朝4時ぐらいだろうか。周りの部屋はまだ明かりがついていない。とりあえず厠に行きますか。
部屋を出た途端声をかけられた。
「おはよう。孫四郎さん。」
昨日から上司になった久太郎さんだ。もう起きているんだ。早いですね。うちでは父上でさえそんな早くには起きていなかったはずです。
「おはようございます。久太郎さん。朝早いですね。」
「いやいや。孫四郎さんも早いですよ。こんなに早く起きるのは僕を除けば君だけです。」
「…話しづらいです。」
「え?」
つい本音が出てしまった。うっかり言っちゃったんだ。…こうなったらしょうがない。嘘を言うよりは正直な今の気持ちを言おう。
「後輩にはもうちょっと柔らかい話し方にした方がいいと思います。そうじゃないと私が逆に話をしづらくなってしまいます。」
「僕だって話そうと思ったら話せるんですよ。ですが一度それでやらかしてしまって。」
「やらかし?」
「切り替えが難しいのです。昔はあの部屋にいる子たちにも柔らかめで話していたんですが話している途中にお偉い方々が話に入ってくるとどうやって話せばいいのかわからなくなってしまって。」
あれま。なんとなくわかる気がする。わかりやすい例えとしては学校で同級生や後輩と楽しく話しているのに途中で先生や先輩が乱入してきてどんな言葉を使って話せばいいかわからなくなってしまう状態と同じだと思う。
「私…僕もサポ…その問題の解決を手伝います。このままでは人生楽しくないですよ。」
英語を使いそうになった。流石に英語を伝えたら異国との歴史も変えかねない。いや、いいのか。僕が来た時点で既に歴史は変わっているんだ。
「孫四郎さん…。」
「人生の長さで言ったら僕の方が長いですから。」
「…人生の先輩は孫四郎さん。か…。」
こっちは22+3で27年、久太郎さんは16年だからね。
「…僕は一旦部屋に戻るね。」
あれ?使い方上手いじゃん。
「あ、はい。ではこちらは厠へ向かいます。」
早くしないと漏れそうだ。
1時間半後ぐらいに信長様も起きた。他の人は全然起きない。怒られるのでは…。
「おはよう久太郎。それから孫四郎。皆はどうした?」
「誰も起きてきません。」
久太郎さんが代表して答える。
「そうか。お前たちは稲葉の下へ向かえ。俺はあいつらを叩き起こしてくる。」
稲葉?あ、この間秀吉様が調略したあの人か。顔は知らないけど。…叩き起こす?やっぱり織田信長って恐ろしい人なんだね。
久太郎さんについて行った先の部屋にはこの時代にしては年を取っているおじさんがいた。これが稲葉様という人かな。
「おはようございます。稲葉様。」
「ん?おはよう久太郎。それとその子は?」
「昨日から信長様の小姓になりました前田犬千代と申します。皆様からは孫四郎と呼ばれていますので稲葉様もそうお呼びください。」
いっそのこと前田孫四郎と名乗りたい。
「随分しっかりしているな。一体幾つなんだ?」
「7つにございます。」
「何?まだ7じゃと?流石は半兵衛じゃ。ここまで育てるとは思わなんだ。まだ来ていない奴らにも見習ってほしい物よ。あ、わしは稲葉良通という。これから其方が成長するまで毎朝ここで学問を修めてもらうぞ。よろしく頼む。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
このおじいさん優しそうだな。どんなことを教えてもらえるのかな。
「遅れてすみません!稲葉様!」
げ、そ、そんなにたんこぶが出来るほど叩かれたの?可哀想だ。
「おやおや。そんなにボロボロになってどうしたのじゃ?」
「寝坊した結果です。」
やばい。こんな身になりたくない。これからも朝早く起きよう。
「そこの子は其方らよりもだいぶ早くここに来ておったぞ。確か孫四郎じゃったかの?」
覚えてもらえたらしい。とりあえず頷いておこう。顔を上げたら皆は「こんな小さな子が?」「マジで?」などなどと口々にした。早起きは得意なんですよ。前世から4時起床、11時就寝が当たり前でしたから。
「では始めるぞ。今日は論語を皆で読もう。」
半兵衛先生とたくさん読んだやつだ。皆は明らかに不満を抱えているけど僕にとっては復習程度なので全然良い。
「師曰く。」
「「師曰く。」」
「学びて時にこれを習う。」
「「学びて時にこれを習う。」」
こんな感じで読みあっていった。何人かは寝ていて全然ついて行けてなかったけど。本当にこの人たち小姓?
朝食は各々の部屋で食べた。栄養バランスも文句がなかった。しいて言うならカルシウムがもうちょっと欲しいなって思うぐらい。この食事だったら何年でも小姓でいいや。と感じるほど美味しかった。
食べた後は信長様の仕事のお手伝いをした。僕が命じられたのは算盤を使った計算をすることだった。何の計算かはわからないけどきっと大事なことなのだろう。父上にそろばん習っといてよかった。でも不思議だ。実際に役目を与えられているのは僕と久太郎さんだけで残りの皆は鍛錬に行くとか言って勝手に城を出て行ってしまった。何でだろう?
お昼休み。夜、朝と1人で食べても寂しいだけだったので隣の部屋の久太郎さんを誘って一緒に食べることにした。
「大体作業の内容わかった?」
「はい。…私の隣の部屋の人って本当に小姓なんですか?勝手な行動ばかりとっていますが。」
「あ~。それ伝えてなかったね。あの子たちは人質なんだよ。」
え。人質?
「信長様は人質も家族同様に扱っていてね。朝の学習の時は小姓と一緒に勉強させるんだよ。で、その後は立派な武将になるために武道を極めさせているんだって。」
「なるほど。人質は全員一緒の部屋で小姓が1人部屋なんですね。」
「そうそう。これが小姓と人質の差だね。」
意外に奥が深いな、織田家。僕はまだまだ幸せだ。1人部屋は自分の好きな物を置きまくれるから落ち着ける。そういえば午後の話は何も聞いてなかった。今聞こうかな。
「午後は何をするんでしたっけ?」
「殿の書類の印を代わりに押す作業をやってもらうはずだよ。」
単純作業じゃん。そんなの誰だって出来ると思うよ。
「わかりました。ちなみに久太郎さんはいつも何をしているんですか?」
「僕はいつもは奉行様とかに連絡を伝えに行っているね。」
「ということは柴田勝家様とかにも会っているのでは?」
「うん。でも柴田様には名前すら覚えてもらってないけどね。」
もったいないな、柴田様。久太郎さんの名前を覚えておくって大事だと思うけどね。
昼飯の後は信長様が認めた書類にどんどんハンコを押していく手伝いをしている。ハンコには天下布武と書いてある。この頃から使っているんですね。とうっかり言いそうになったけど流石に昨晩、今朝の過ちの三の舞は踏まないために言わないように我慢したけど。
その後は散歩に行くからついてこいと言われたのでついて行ったらお金を渡してもらった。1文?
「そのお金で何でも買っていいぞ。」
久太郎さんは喜んでいるけどこれがどれぐらいの価値なのかわからない。先に久太郎さんに買ってもらおう。
久太郎さんが向かった先はお煎餅屋さんだ。あれ?この時代から煎餅ってあるんだ。
「煎餅下さい。」
「はい。1文ちょうどお預かりしました。焼きたてのうちにどうぞ。」
煎餅一個当たり前世では120円だったから大体それぐらいかな。お腹が空いているし僕も煎餅にしようか。
「僕も下さい。」
「あいよ。おっとお客さん見かけない顔だね。特別に2枚にしてあげるよ。」
優しい。…味も文句なしで旨い。久しぶりにこんな美味しいおやつ食べたかな。
「帰るぞ。」
早いですよ信長様。まだ煎餅を食べている途中ですよ。
その後は弓の練習をやらされて労働は終わった。弓は向いていないのに…。やってみたけど力が入らずに終わったので明日からは槍な、なんて言ってきた。家臣の得意分野ぐらいわかってくださいよ。
そしてお風呂に入った後晩飯を食べる。最後に日記に今日何があったかを記録して前田家にいたころに作った自家製歯ブラシを使って磨いたら寝る。これで一日は終わる。これが毎日続くなんて…。正直辛いけど頑張ろう。
お煎餅の始まりも諸説ありますよね。一番有力なのは江戸時代に草加の『おせん』という御婆さんがお侍さんに団子を平らに焼いたらどうか?という提案から始まった説ですよね。ですが今回の話に関してはあくまで私の空想物語なのでそんなにストーリーには関わらないとみてこの時代には売られていたという設定にしました。
久太郎もいい人ですよね。従わなくていい後輩の意見を簡単に受け入れるなんて私だったら嫌だなって思いますけど。しばらくの久太郎の性格は真面目で優しいほんわかした性格になると思います。
稲葉さんはどれぐらい出て来れるかはわかりませんが出来る限り孫四郎たちと共演させてあげたいなって考えてます。果たしてどうなることやら…。
次回からはいよいよ信長上洛戦に入っていきます。但し事前にお伝えした通り孫四郎主役ではないのであまり正確な戦法ではないことが多いです。その点はご了承ください。