124 逃げる勝三、約束を守る権六
薄塩味ぐらいの濃さです。
たまには濃すぎない回もないと私が倒れそうなので…。
六月三日
~長可視点~
上様と信忠様が討たれただと…。光秀め、絶対許さん!
「すぐに京に戻るぞ!急げ!」
何も考えずに俺はそう命じてしまった。
「…残念だが、わしらはお前さんなんかに味方するつもりはないわい!」
「信長ならともかく、若い其方には到底…。」
「お、おい…皆…。」
完全にやらかした。いきなりそんなこと言っても皆、俺についてくるわけないよな。
「すまない!俺が全て悪かった!…其方らの身の安全を保障する。だから、せめて、信濃を抜けるまではついてきてくれないか?」
「…頭をあげてくれ、大将。」
「…さっきは悪かったな。ついかっとしてああ言ってしまったが其方に恩がないわけでもない。…領土の保証をしてくれたのは其方だったしな。」
「送るだけだぞ。…京へはどうしてもいけない。我らも家族がいるのだから。」
「かたじけない。」
急げ、急げばきっと光秀の首を…。
魚津城
~勝家視点~
とうとう、魚津城を落とせた。…いよいよ越後に入る。上様、信忠様、もう、天下統一は間近でございます。
「…伝令!今日の本能寺にて明智光秀殿がご謀反!」
な、何じゃと…。
「上様は、上様は無事なのか!」
「それが…信忠様と共に…。」
何ということだ…。信長様…信忠様…。
「なあ、俺たちはどうすればいいんだ?」
「上様も信忠様もいないんじゃもう…。」
…光秀の仇を取りに撤退するしかあるまい。今すぐ…待て待て。わしは信長様からついこの間もらった手紙にどんな状況になったとしても上杉と和睦を結んでから帰って来いと書いてあったな。
「静まれい!…すぐに上杉と和議を結ぶ。それからすぐに上様の仇取りだ。」
「…流石は親父様。俺は光秀の首を取ることしか考えられませんでした。」
いつもなら成政のお世辞に突っ込むが今日はそういうわけにはいかない。
「上杉に使者を出せ。」
「畏まりました。」
絶対に過ちは犯さない。
四日
~直江兼続視点~
柴田から和睦をしたいという書状が届いた。
「…どうして柴田は急に我らと和睦をしたいと思ったのでしょうか?」
「きっと上方で何かあったのだろう。だが、これで飲まねばいよいよ春日山城に…。」
「…それに今は新発田重家も我らに敵対しています。…飲みましょう。悔しいですがここで飲まねばいよいよ越後が…。」
「交渉は全て其方に任せるぞ、兼続。ある程度の相手の条件は飲め。そして我らは二度と越中を攻めないことも―」
「わかってますよ、景勝様。…では、行って参ります。」
六日
~勝家視点~
「上杉家家臣、直江兼続と申します。」
「柴田勝家じゃ。…いきなりだが、本題に入ってもよろしいか?」
「はい。…本来、当家は既に滅んでいてもおかしくないのでこちらからの要望は特にございませぬ。」
滅んでいてもおかしくない?…なるほどな。
「こちらからは2つ。1つ目は越中より西を織田家の所領として認めること。2つ目は今後、織田家は越後に侵攻しない。…この2点のみで構わぬ。」
「本当によろしいのですか?正直、当家としては臣従もやむなしと考えていたのですが…。」
「構わぬ。」
「…わかりました。ではそのように…まさか、信長は既に―」
この者、勘がいいな。だが、これでうんと言ったら全てが台無しだ。
「いや、それはまだわしにもわからぬ。だが、わしから言えることとしては京で明智が上様に謀反を起こしたこと。それだけは言える。」
「…ほう。つまり、互いに危険な状態だと。」
「まあそういうことじゃ。…だが、其方が賢くて助かった。この恩は絶対忘れぬ。」
「…?」
「…と、とにかく、今後、我らは二度と越後には入らぬ!」
「…畏まりました。景勝様にもそのように伝えておきましょう。」
最後は少し危なかったがこれで大丈夫だろうか?…さて、行くか。上様の仇を取りに。
~長可視点~
ようやく、木曽福島まで来ることが出来た。もう少しで美濃、そして京に辿り着ける。
「しかし、森殿は大胆ですな。人質も取らずに逃げるとは…。」
「正直、悩みました。皆のことを信用していいのかと。ですが、ここで人質を取ったら俺が皆を信用していないという風に解釈されてしまうかなって…。」
「…美濃の遠山殿は森殿のことをよく思っていないそうです。」
「ああ、友忠か。ぶつかったら面倒だな。…木曾殿、頼みがあります。」
「遠山殿との交渉ですな。」
「それもそうだが…千太郎殿を預かっても良いか。大井に着くまで。」
「…言いたいことはわかります。我が息子がいれば遠山殿はきっと攻撃してこないと。ですが…。」
「無理なら交渉だけでも―」
「…岩松丸も連れていってください。遠山殿はきっと幼子までは襲わないはずです。」
「…!本当に良いのか?最悪の場合、木曾殿の大事な子を2人も―」
「私にとって森殿は亡き信忠様と同じぐらい大事な御方なのです。上様に所領安堵を促したのも森殿だと聞いております。」
「ですがそれとこれは話が別―」
「お互い生きましょう。既に穴山殿や河尻殿は一揆勢に襲われて亡くなったと聞いております。…仮に私が死んでも戦に強い森殿でしたらきっと息子たちを守ってくれるでしょうし。」
…俺が人を守る、か。
「…お互い、生きよう。木曾殿。」
「森殿も。」
久しぶりに木曾義昌が出てきました。この人物、まだまだ大事な場面があるのでしばらくは定期的に出てくると思います。
長可は史実よりだいぶ楽に帰ることが出来ています。対する勝家は多少時間をかけてでもまずは上杉と和睦をしてから帰る道を選びました。…なぜ、上杉は1日で情報を仕入れることが出来たのでしょうね?まだ、謎が多い家です。
次回は中国大返しです。秀吉・久太郎・吉継は無事に帰ることが出来るでしょうか…。