121 さらば、信長 前編 ~本能寺前夜~
ここまで来ました…。
最初は楽しそうな話ですが段々…。
五月二十九日
~久太郎視点~
「秀吉様、援軍として駆け付けました。」
「おおっ、菊!それから吉継もよく来てくれたな。」
僕らはようやく備中高松の秀吉様の下へたどり着いた。
「それにしてもすごいですね。もう城兵は場外に逃げることは許されないですね。」
「へへっ。これ、誰が考えたと思う?」
「…官兵衛様ですか?」
「いいや?」
「じゃあ秀長様―」
「吉継、わざとだろ。」
「…いきなり秀吉様ですよね?なんて言ったら調子乗りそうだったから…。」
「そこが秀吉様のいい所じゃん。…あの旗は小早川の?」
「そうだな。…よし、2人には隆景殿に会って来てもらおうか。」
え、ええっ⁉何で、僕らが…。
「実はな、隆景殿と官兵衛がここ数日、ずっと話し合いを続けていてな。」
「わかりました。…行きましょう、久太郎様。」
え、いきなりですか?…大丈夫かな。もしかして寝返ろうとしてるんじゃ…。
隆景殿の陣に行ってみたら意外とあっさり通された。
「ハハハ。そんなことを元就は言っていたのですか。」
「はい。…おや、見覚えのある子だ。」
「お久しぶりです、隆景殿。堀久太郎です。」
「久太郎殿でしたか。随分大きくなりましたね。…そこの子は?」
「前田孫四郎の家臣の大谷吉継です。」
「孫四郎殿も家臣が付きましたか。…孫四郎殿は?」
「本日は安土で休養を取っています。」
「そうですか。…もうすぐ信長は死ぬという話をしていたのですが。」
「ああ、その話ですか。…なるほど、秀吉様は鈍感だな。」
「…一体どういうことでしょうか。」
「あ、吉継は気にしないで。」
「は、はあ。」
「…おっと、次郎兄がやってくるみたいです。一旦離れた方がよろしいかと。」
「そうですか。では、また明日。」
一体何の話をしていたんだ?これ、絶対来た意味なかったよね?
妙覚寺
~信忠視点~
父上…まさか、自分の死期がわかっていたなんて…。
『明日から富士遊覧ですか。私も行きたかったですが…処理が終わっていないので無理ですね。』
『別に来ても良いぞ?』
『…いえ、私たちがこうしている間にも権六や秀吉は私たちが望む世のために戦ってくれています。ここで私まで休んだら彼らに申し訳が立ちません。』
『…俺はもうじき十兵衛に裏切られて死ぬ。お前も巻き込むかもしれない。だから、最後に思い出を作らないか?』
『え?』
『…大声を出すな。十兵衛に聞かれたらどうする。』
『しかし、十兵衛は父上の―』
『一番の重臣が裏切ることも多々あるだろ?高師直、陶晴賢、足利尊氏…奴らは全員主君に信頼されていたのに寝返った。』
『…父上は死にたいのですか?』
『それはどうでもよい。それより其方だ。お前はどうしたい?』
『私は…。』
考えた結果、父上と同じ道を歩むことになった。…本当に来るのだろうか。父上の話によると明後日とのことだが―
「信忠様、来客です。」
「こんな時にいったい誰が…孫四郎。」
「…こんな夜遅くに来てしまい申し訳ありません。光秀にばれずに会うにはこの時間しかないかなと思いまして。」
「…其方も知っているのか。」
「はい。…信忠様、今からでも遅くないです。岐阜に戻りませんか?今、戻れば光秀にばれずに戻ることが可能ですが―」
「それはならぬ。私と父上、そして十兵衛がいなくなれば父上より早く天下統一に導く者が現れるのだろう?だったら―」
「…信長様と変わらないですね。きっと僕が何を言っても意思は変わりませんか。」
「すまないな。…兄者も死ぬのか?」
「一応そうはならないように上様は丹羽様に書状を送りましたが…助かるかもしれないし助からないかもしれないです。全ては信孝様と丹羽様次第です。」
「…頼む、兄者だけでも。」
「これまでの感じからすると信澄様が生き残った場合、歴史が大きく変わりそうなので恐らく助かる可能性は…信忠様?」
私は涙を流していた。何故だ、何故…。
「歴史は変えられない。そう言いたいのでしょうか?」
「な…。」
「僕も思うのですよ。光秀…十兵衛様の計画を事前に知っているのに何であなたたちはその定めを受け入れてしまうのか。だって…僕は皆でこの日ノ本を統一したいんですよ…。」
…孫四郎。
「私には信忠様の考えも信長様の考えもわかりません。それでも、それでも私は2人を守りたい。その気持ちが何故か出てきてしまうのですよ…。」
「…。」
「…今までありがとうございました。信忠様の優しさはいつも僕の支えになっていました。…だから僕は信忠様が好きだとあの時言ったのですよ。」
「…そうだろうな。孫四郎が男色にはまるわけないしな。」
「そうですよ。…後は僕らに任せてください。きっとお2人の理想の世を築いて見せます。」
その瞬間、孫四郎が輝いて見えた。…なるほど。だから勝頼は孫四郎に後の世を任せたのか。
「…兄者にこう伝えておいてくれ。『私の意志を継げ。』とな。」
「…?一体どういう。」
「そろそろ夜明けだ。戻らないと十兵衛の密使が動き始めるぞ。」
「…そこも似ているのか。やっぱりお2人は親子ですね。」
父上と似ている、か。…嬉しいような、寂しいような。
六月一日
~光秀視点~
とうとう時が来たのだ。信長様…いや、織田信長!
「十兵衛様、このまままっすぐ行くと上様が泊まっている本能寺に―」
「これから上様に閲兵をするよう言われている。」
「…そうですか。」
…うっ。何だ、この胸騒ぎは。
『なあ、十兵衛。お前はどんな世を作りたい?』
黙れ、信長。今、お前なんぞに―
『天下布武。これは俺にしか出来ないことなんだ。…いや、違うな。俺たちじゃないとできないんだ。』
黙れと言っている!
『十兵衛様のおかげで僕は助かることが出来ました。ありがとうございました!』
…孫四郎はどうでもいい。
『十兵衛、父上はわざとやっているのだ。…だから、もう少し耐えてくれ。きっとお前の理想の世はその先にある。』
わかってますよ、信忠様。貴方の言うことが正しいって。ですが…。
『ハハハ!燃えろ、燃えろ!坊主ども、焼け死んでしまえ!』
そうだ、これが許せないのだ!
「奴を殺せ!」
「じゅ、十兵衛様、あの瓜を作る民をですか?」
え、いや、そういうわけじゃ―
「十兵衛様の命令じゃ!あ奴らを殺せ!」
「やめろ!そんなこと―」
「おりゃあ!死ね!」
…またか。私はやってしまった。…これも全て信長のせいだ!
「やめろと言っているだろうが!…義父上、申し訳ございませぬ。」
「…よい。行くぞ。」
「…はっ。」
左馬助に妙な目をされておるな。
「…十兵衛様、私はわかっております。信長様を討つのでしょう?」
「伝吾、何故それを―」
「殿は顔に出やすいですからな。…利三は最後まで貴方様と一緒ですぞ。」
「…皆にはまだ言うな。ここでばらして逃げられたら計画が全て狂う。」
そう、今しか奴を倒せる機会はない!
桂川
…とうとう時が来たようだな。
「敵は、本能寺にあり!」
「…!おおっ!」
さらばじゃ、織田信長。
最後の台詞は史実では言われていなかった可能性が高いと言われていますが、この世界の光秀だったらきっと言うだろうなと思い、そのまま書きました。
個人的には真ん中あたりの信忠と孫四郎の別れの方が悲しかったですね。前回も心を込めて書いたのですが…何故、未来を知っても死のうとするのでしょうね。
次回、いよいよ第4章最大の山場を迎えます!信長と信忠の運命はどうなるのか。11/1までお待ちください!