113 甲州征伐 ➃友よ
2,000字位で書いたと思ったのに4000字位になっているの、なーぜなーぜ?
時は少し遡る。三月一日、武田一族である穴山梅雪(出家前は信君)が家康を通じ織田方へ寝返った。穴山が寝返ったことで駿河の国衆たちは動揺し、瞬く間に徳川軍は駿河を制圧した。
三月三日
~孫四郎視点~
家康殿が駿河制圧か。残る武田領は北信濃と甲斐。かつての武田の恐ろしさはどこに行ったのやら…。
「…それで、この諏訪大社はどうしようか?」
あ、そうでした。今、僕らは諏訪大社の上社の手前ぐらいまで来ているんだけどここの御坊様がどうやら勝頼と繋がりがあるらしくここで何かしらの対策を練っておかないと後方から攻撃を受ける可能性等が出てくるらしい。
「…燃やしますか?」
それ、いつもなら僕の台詞ですよ、一益様。
「御坊様を強制退却させた後、燃やしてしまうという手もありますが…私は反対です。上様が大将ならともかく、此度の大将は信忠様です。信忠様に汚名を着せるわけにはいきません。」
「…別に私に汚名を着せるのは構わないが、確かに焼き払うのは反対だ。近くに諏訪湖があるから消火はすぐかもしれないが燃え広がったらと考えるとな…。」
「…もう一ついい方法がありますよ。一益様、爆薬を持ってきていますか?」
「…あるぞ。わかった。すぐに準備しよう。」
悪い顔しちゃって…。でも今の僕の顔も一益様と同じような顔だろう。…って!
「まだ信忠様の許可を得てませんよ!」
「あ、そうでした。よろしいでしょうか?」
「…其方らが怖く見える。」
これ、完全に引かれてますよね?大丈夫ですよ。誰も殺しませんし何も焼きませんから。
その夜
「準備は出来ましたか?一益様。」
「もちろんだ。…面白いものも用意してあるぞ。」
面白いもの?
「…着火だ!」
ヒュー
え、この音って。
ドーン!
「…花火か。懐かしいな。あの頃は久秀殿も一緒で…。」
「…そうだな。久秀殿、俺たちにだけはよくしてくれて…。」
パパパパン!
「こんないい時に爆薬発射ですか…。久秀殿が私を思い出すな!って怒っているのかもしれないですね。」
「ハハッ。そんなことはないと思うが…。」
「に、逃げろ!裏門から逃げるぞ!」
よし。目標達成だ。諏訪大社にも逃げられたと勝頼が知ったら果たしてどんな反応をするかな。木曾殿も深志城を攻略しようとしてくれてるらしいし…そろそろ甲斐攻めに入るのかな。
同日
~勝頼視点~
五郎が死んだ。高遠城が落ちた。…何故逃げなかった。
「勝頼様、勝頼様。」
「五郎…何故、何故…。」
「しっかりされよ、勝頼様!貴方のために今までどれだけの者が命を落としたか!」
「…!」
「昌幸、言いすぎだ。…申し訳ございません、勝頼様。後で若造に説教を―」
「黙れ、信茂。…すまぬ、昌幸。そうだったな。昌景、信房、昌豊、昌次、信綱、昌輝、元信、そして盛信。あの者たちの分まで生きねばならぬのに。」
何故、今まで忘れてた?そうだ。俺はこんなところで死んではならぬ。…皆で生きよう。
「織田はあと4日ぐらいで甲斐に侵攻するだろう。だがこの新府城じゃ耐えることが出来ぬ。」
「でしたら、岩櫃城で籠城することをお勧めします。あの地は上野国の山奥にあるので織田も簡単には攻められませぬ。」
「反対です、勝頼様。私は岩殿城がいいと考えます。上野までですと奥方様やご子息の足が耐えられるとは到底思えませぬ。」
珍しく信茂の提案も一理ある。だが、俺は知っている。それが罠だということに。
「…昌幸、岩櫃に逃げてもいいがそうすると真田が生き残ることが極めて困難になるぞ。それでもいいのか?」
「え?」
「長篠で昌輝が言っていたことを思い出せ。真田のことは任せた。そう言っていただろう?」
「…ですが!」
「多分、昌次がここにいれば俺と同じことを言うぞ?まずは自分の家を守ることから考える。次が他人だ。とな。」
「…言っていましたね。だから昌次は昌恒を残して突撃していった。本当は2人で貴方様を守りたかったのに…。」
「毒のある言い方だな…。」
「そんなつもりはなかったのですが…。」
「で、どうするんだ?」
「…選べませんよ。勝頼様と家族。私にとってはどちらも大切な存在です…。」
「ではやはり私の―」
「黙れ、信茂!…皆、四半刻ほど退室してくれないか?俺は昌幸と2人で話をしたい。」
「畏まりました。…行きますぞ、信茂殿。」
「な、長坂殿!手を離さんか!か、勝頼様~!」
これで邪魔者が消えた。ありがとう、光堅。
「…俺がいなくても真田は生き残れる。だろ?」
「そうは言いましても…。」
「昌幸、俺はお前と会えて本当に良かったよ。いつも―」
「勝頼様が死んだら、私はどうすればよいのですか!」
急にどうしたんだ?
「昌次が死んで、勝頼様までいなくなってしまったら私は一体誰を信じればいいのですか!」
「…別に死のうとは思っていないよ。ただ、逃げ続けるにせよ、一生会えないかもしれないだろ?」
「…それもいなくなるですよ。…本当にいいのですか?勝頼様は一人になっても―」
「それしかないんじゃないか?お互いに生きるには。」
「…勝頼様、例え織田の総攻撃を喰らおうとも私は構いません。…待ってますよ、岩櫃で。」
「ま、昌幸!待て!」
昌幸は俺の呼びかけに応じずそのまま岩櫃に向かって行った。
…いいのだろうか。本当に昌幸まで巻き込んで。いや、本当の友なら巻き込むわけにはいかぬな。
「父上!」
「…太郎、岩殿城の信茂の下へ向かうぞ。」
「…え、本当によろしいのですか?」
「ああ。…俺とお前の死はほぼ確定している。巻き込んですまんな。」
「それは別に構わぬのですが…義母上だけは守ってあげてほしいです。梅様は何も悪いことをしておりませぬ。織田殿もきっと―」
「わかっておる。それだけはわかっておるよ。…皆を集めよ。」
勝頼は一族・家臣と共に岩殿城に逃亡を開始した。しかし、小山田信茂は城で迎える準備があると言い、鶴瀬で一行を待機させたまま岩殿城へ向かった。この間にも武田軍の兵数は減っていき、出発時は1000人いた兵士は200人を切っていた。
四日には、徳川軍が穴山梅雪を案内役として甲斐国に侵攻を開始した。五日、信長本隊も安土を出立し、六日、揖斐川まで軍を進めた。
~久太郎視点~
「こちらが仁科…失礼しました。武田五郎殿の首でございます。」
「武田?何故、武田と言い直した?」
「信忠様からの指示です。それ以上は某にはわかりませぬ。」
そう言って使者の人は信忠様の下へ戻っていった。上様は報告を聞いた後、仁科信盛の首をジロジロ観察している。
「…五郎左、この首、長良川に晒せ。」
「承知しました。」
晒し首か。可哀想に。…あれ?もしかしてこの首の切り方、孫四郎さんがやった?いや、まさかね…。
「久太郎様、あの首、若様が切ったんじゃないですよね?」
「え、吉継もそう感じるの?」
「…あの綺麗な切り方は若様にしかできない技です。」
「…俺もそう感じます。」
「賦秀も?…いつもなら僕らの誰かが孫四郎さんの近くにいるから真相がすぐわかるのに今回は誰もいないから知りたくても本人に聞くしかないよね。」
「それか勝三に聞くか、ですね。」
うーん。真相は気になるけど別にそれほど大事なことじゃないからいいか。
「面白そうな話をしてますね。与一郎も混ぜてくださいな。」
「…ええと、どちら様でしたっけ?」
「え、孫四郎様から何も聞いてないのですか?私は長岡与一郎忠興と申します。与一郎とお呼び下さい。…堀久太郎様ですよね?」
「う、うん。そうだけど…。」
「そして隣の方が蒲生忠三郎様。」
「…ああ。」
「…あなたは?」
「あ、私は大谷吉継と申します。普段は前田孫四郎様に仕えているのですが此度の戦では訳があって久太郎様と共に行動しています。」
「あ、孫四郎様が言ってた賢い子か。…あれ?もう一人の家事ができる子は?」
「新九郎殿のことですか?あの方は本当に家事専門なので若様の許可を得て家で掃除をしたり、奥方様の手伝いをしたり―」
「え、そんな仕え方もあるのですか?武士なのに…。」
「若様は武士なのに、農民だから…という考えは嫌いな御方ですからね。逆に与一郎様は孫四郎様の考えが理解できないような表情をしていますが…。」
すごいね、吉継。初対面の人をこんなにおどおどさせるなんて。孫四郎さん、この子はきっと…やっぱ何でもないかな。
「い、いや⁉私も理解できますよ⁉」
「本当ですか~?」
「も、もちろん!」
何なんだ、この2人。変わっているね。さて、今頃、孫四郎さんたちはどうしているかな?
三月七日
~孫四郎視点~
僕らは躑躅ヶ崎館までやってきた。勝頼は既に甲府から逃走を始めているらしい。でも、武田家臣が全員逃げたとは限らない。だから…
「信忠様、今日は武田家臣がこの地にいないか捜索した方がよろしいかと。」
「私もそう考えていた。皆に命じよ。武田の者がいないか徹底的に探せ。」
「はっ。」
三刻後
「は、離せ!無礼者!」
「某はまだ、生きねばならぬのじゃ!」
まさか6時間も捜索にかかるとは思わなかった。でも、収穫は豊作だった。
「この者が武田信廉殿、勝頼の叔父に当たる者でございます。」
そう話すのは長可殿だ。最後に見つかったのがこの武田信廉だった。てっきり勝頼と一緒に逃走していると思っていたからこれは意外だった。
「…まさかこんな早々に捕まるとは、予想外だったわ。」
「勝三、この者の処刑を任せても良いか?」
「はっ、お任せあれ。」
「…勝頼様を、勝頼様を許してやってくだされ。全ての咎めは私めが―」
「なりませぬ。…これも乱世の定め故。」
「…勝頼様、時間稼ぎにもなれず、申し訳ございませぬ。」
そう言い残し、信廉は処刑場に運ばれていった。
三月九日
~勝頼視点~
「小山田信茂様、寝返り!」
やはりな。…こうなっては仕方ない。天目山に向かおう。
「天目山に向かう!…最後の悪足掻き、見せてくれん!」
「…勝頼様は全て理解していた眼をしていますね。」
「昌恒こそ、全部わかってたんじゃないのか?」
「私にはわかりませんよ。…兄上ならわかっていたかもしれませんが。」
「…昌恒も逃げなくていいのか?今からでも遅くないが。」
「いいえ。私は逃げませぬ。逃げたらあの世で兄上に勝頼様を見捨てたことについて叱責されますから。」
「…本当は?」
「本当はって…勝頼様を見捨てられないからに決まってるじゃないですか…。」
…本当にいい家臣しか武田にはいない。小山田信茂を除いてな。
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次回もお楽しみにです!