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111 甲州征伐 ➁寝返った方が幸せ?

前回までの話で一部の方から個別で質問があったので回答させて頂きます。


木曾義昌の木曾は木曽ではないか?という意見がありましたが私は木曾を使わせて頂きます。木曽義昌とネットで検索するとほとんどのサイト(ウィキペディア含め)では木曾義昌と表記されています。木曽と言うのは主に地名で使われるケースが多いようです。(木曽路、木曽谷など)対する木曾は人名(と旧日本海軍の巡洋艦)で使用されることが多かったので木曾義昌は木曾とさせていただきました。

二月六日


~下条信氏視点~


いよいよ織田軍の侵攻が始まった。わしらが守っている滝沢にももうすぐやってくるらしい。


「…ここで交戦すればわしらは滝沢の地を失うことはほぼ確定じゃの。」

「そうですな。」

「御館様、ご覧あれ。わしの最後の戦をお見せいたしましょうぞ。」

「…兄上は本当にそれでよいのですか?」


そう話すのは弟の九兵衛尉氏長だ。


「…正直本望ではないがこれが勝頼様、そして武田のためになるのであればな。」

「某は反対でございまする。既に木曾の義昌は織田に降伏を申し入れこれを受け入れられております。今、降伏すれば織田様も悪いようにはしないでしょう。」

「…木曾は木曾。下条は下条だ。全ての家が許されるとは限らないぞ。」

「下条が降れば松尾の小笠原も降りましょう。そうなれば逆に織田様に重宝されるのでは?」

「…それでも武田を裏切るなんぞわしには―」

「勝頼様だったら自分の命を最優先しろと言うのではないですか?」

「…!」


そうじゃのう。あの方は不思議な御方じゃ。自分の命よりも家臣の命を大事にする。わしには到底できんわい。


「…わしが裏切れば木曾への集中攻撃が分散され義昌にも織田にも良い状態で戦闘を迎えることができる、か。」

「それだけではございませぬ。武田家臣も木曾・下条と寝返ることでさらに織田に寝返るものが出て来るやもしれませぬな。」


どうするべきか。最後まで戦うべきか、降伏するべきか。む?この足音、聞き覚えがないな。…つまり織田軍が攻めてきたと言うことか。そろそろ覚悟を決める時か。


「あの旗は河尻の旗か。…勝頼様、申し訳ございませぬ。」


そう言ってわしは織田陣営に向け、馬を走らせた。



下条信氏はその日のうちに河尻秀隆に降伏を申し入れた。河尻は降伏を受け入れた後、さらに飯田方面へ北上した。下条家の降伏の報を聞いた松尾城主、小笠原信嶺も二月十四日に織田家に降伏した。


一方、二月十二日に信忠率いる織田本隊と一益率いる滝川隊はそれぞれ岐阜城と長島城を出陣し、十四日、岩村城に到着した。



~孫四郎視点~


「さて、孫四郎。ここからどうやって信濃に侵攻しようか。」


え、僕が決めていいんですか?隣の一益様の目を見てもお前が決めろというような目をしてくる。…ええと、情報によると飯田や平谷、阿智の辺りは既に織田領となったらしい。とすると中津川から阿智へ抜け飯田方面に向かえばいいかな?


「中津川、阿智を経由して飯田城に向かいましょう。河尻殿が先に向かっているとは思いますがもしかしたら下条殿同様、大軍を見て動揺するかもしれませんし。」

「木曽路経由で高遠城に向かうという手もあるがそっちの方がいいのか?」

「まあ、そっちの先鋒は長可殿ですし大丈夫でしょう。それに高遠城は飯田経由でも行くことが可能ですし。」

「孫四郎の案を採用しよう。では、早速―」


次の瞬間、急に大地が揺れだした。


「ゆ、揺れてる⁉」

「一旦、机の下に隠れましょう。上から降ってくるものをよけるために。」

「…孫四郎はいつも冷静だな。」

「そうでしょうか?信忠様も冷静だと思いますよ?一益様はいきなり『ゆ、揺れてる⁉』って大声をあげてましたから。」

「その言い方はないんじゃないか?孫四郎。…でも最近の若者には敵わないなと感じてますよ。早く隠居したいものです。」

「一益にはまだ支えてもらわねば困るぞ?其方のような文武両道の者は数少ないのだから。」

「…それより何故、地震が起こったのだ?」


そういえば何でだろう。…あれ?煙が見える。山火事?違う。噴火だ。この方向からして…


「浅間山が噴火した可能性があります。あの方向だと木曽か浅間山のどちらかだと思いますが木曽の山だったらもっとはっきり見えているはずです。」

「…浅間山が噴火?もしかして。」


え?何か悪いこと言いました?


「「東国の不吉の前兆」」


…どういうこと?山が噴火しただけで?


「これは、武田にとって痛手だぞ。」

「そうですね。…武田家中も動揺している可能性があります。」


よくわからないけど浅間山が噴火するとよくないことが起こるという解釈でいいのかな?


「…平谷経由に変更しましょう。少し遠回りして向かった方がいいかもしれませぬ。」


何を言っているんだ、僕。…でも、いいかもしれない。たまには急がば回れもいいかもね。


「孫四郎がそういうならそうするか。」

「…孫四郎は若いから怖いのか?」

「な、何にですか?」

「山火事。」

「山火事ではないですって!噴火ですよ!…でも噴火は怖いですよ。簡単に人を殺す気体を出してきますし。」

「…わかる。俺の仲間も昔、噴火で亡くしてるから。」

「…え?」


一益様の仲間もどこかで噴火に巻き込まれて亡くなったってことだよね?一体いつ―


「…い、一旦負傷者がいないか確かめようか。」

「そうですね。」


信忠様、ナイス切り替えです。…僕は見てしまった。一益様の目がウルウルしてたのを。



二月十六日


~木曾義昌視点~


ああ。時が来てしまったのだな。信豊様、あなたと戦う日が。


決戦の場所は鳥居峠。こちらの兵数は五百。対する武田軍は三千はいるだろう。…だが地の利の面ではこちらの方が強いと言える。この辺りは昔からよく遊んでいた場所だからな…。


「殿、下知を。」

「…うむ。まずは青木ヶ原に向かう。」

「…はっ。」


この地で木曾と武田は過去に二度戦っている。父上も木曽谷の地形を全て把握していたため一度、御館様の軍勢を撃退したことがある。だが御館様も二度は負けんと策を練った結果、我ら木曾は武田家に降ることになったのだ。だが御館様は外様の者にも優しかった。その遺志は勝頼様にも受け継がれたがあの方は優しすぎる結果、誰にも言うことを聞かれなくなってしまったのだ。


『武田を討つ。それが木曽のためになるのであれば真理は決してお前様を恨みませぬ。』


…もう悩みはない。木曾を守るためならば相手が武田軍であろうとも戦って見せる。



よし、青木ヶ原に敵を誘い込むことに成功した。


「…動けぬ!雪に足がはまって動けぬ!」


そう、今の時期の青木ヶ原は雪深く歩くのが困難。この地は我らのように歩き慣れていないと簡単に雪に足がはまって中々動くことが困難になってしまう。おまけに木曽谷の冬は常に寒い。普段は甲府で快適に過ごしている武田軍は厚着を重ねて戦いに来ているため体が重い。だから、ここで戦えば兵数も場数も関係ない。


「今だ!かかれ!」


父上、御館様、見ておられますか?あなたたちの策を受け継いだ私があの武田軍に一歩も引かず迎え撃つことが出来ました。…そんなことを御館様に言ったら説教されるだろうな。


戦況は常に我らが有利。相手は狼狽えるか身震いしか出来ていない。


「退くぞ!ここで足を取られてはならぬ!」


信豊様の声だ。…逃がしてはならぬ!


「武田典厩を討て!この好機、逃すでないぞ!」


俺も弓を放つか。


「…!義昌、見事なり。」


くっ、急所からは離れたか。…そろそろ退き時だな。


「勝鬨をあげよ!」

「「「エイエイオー!エイエイオー!エイエイオー!」」」


「殿!織田様の援軍が―」

「木曾殿!援軍に駆けつけましたぞ!…おや?その様子だと木曾殿だけで武田を撃破したように見えますが…。」

「はい。無事、こちらは一兵たりとも失わず撃破した次第にございます。…あなたは?」

「某、森勝三長可と申します。以後、お見知りおきを。」


森殿は見た目はいかつい感じがするが礼儀もしっかりしている良い人のような雰囲気を出している。この人なら信じてもいいのかもしれぬな。



二月十七日


~孫四郎視点~


さて、無事に飯田まで侵攻できたわけだけど飯田城の様子が何やらおかしい。


「…伝令!昨日、木曾殿と武田信豊が鳥居峠でぶつかりました!」


ぶつかりましたって…自動車事故じゃないんだから。ってそういうことじゃない。


「勝敗は―」

「木曾殿が僅か五百人で武田勢二千を撃退したとのこと!死者も武田勢百五十に対し木曾殿は誰一人死なずに勝利しました!」

「「「オオッ!」」」


木曾義昌殿は本当に裏切ったとみて間違いなさそうだ。…あれ?


「長可殿の名を聞いてない気がするのですが…。」

「森様は途中で数十名の兵士が腹痛を訴えたため進軍が少し遅れてしまった結果、戦に間に合わなかったとのことです。」


相変わらず優しいな、長可殿は。兵を誰一人見捨てないなんて。


「伝令!保科正直殿、飯田城を退却したとのこと!」


え?


「その情報は誠か?」

「はい。保科正直は戦わずして高遠方面へ逃げていったとのことでございます。」

「伝令!大島城主、武田信廉が退却しました!」


武田の崩壊か。浅間山の噴火、そして鳥居峠の勝利が影響しているのかな?


「…信忠様、高遠城に向かいましょう。あの城の城主は信玄公の五男、仁科五郎信盛殿が守っているそうです。そう簡単には降伏しない相手だと思います。ですが信忠様の軍勢を見たら降伏を申し出るかもしれませぬ。」

「孫四郎の申す通りです。勝三も合流させれば我らは三万の軍で向かうことが出来ます。…ですが、もし相手が徹底抗戦を望むのであれば策を練り直さねばなりませぬが。」

「…わかった。高遠城に行こう。」


長篠の時はすごい怖い相手だと思ったけどかつての重臣がいないとこうも弱くなるのか。…これは想像よりも早く戦が終わるかもしれない。



その頃、東海道側では徳川家康が駿河攻略のため、軍を動かし始めた。二月十八日、掛川城に入った家康は二十日には田中城の包囲を開始した。しかし田中城は固い城ということを家康は理解していたため一点張りしていたらいつまでも駿河を統一できないと判断した家康は二十一日、駿府城を攻撃することを決めた。


また、関東からは北条氏政が上野国の武田領を奪還するべく兵を動かしていた。


二月二十八日


~北条氏邦視点~


さて、どうやって武田から上野を奪い返そうか。…まずは厩橋だな。


「氏邦様、沼田の真田はどうしましょう?」

「真田か…憎たらしいが奴は侮ったらこちらは奴らの十倍は被害を喰らうと思わねばならぬからな。…しばらく放っておけ。織田殿が勝頼殿を討ったら降伏するだろう。」

「承知いたしました。」


真田は侮ってはならぬ。侮った結果、我らは沼田を失ったのだから。

次回は高遠城の戦いです。仁科盛信(信盛)が登場する予定です。

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