魔術的事象について調べてみた
「ねえきいた?天野さんとこのソウ君」
「あ、聞いたわ、その・・・引きこもりになちゃったとかって。」
「え、そうだったの?最近見かけないと思ってたけれど」
午後5時頃、今日の夕飯の買い物を終えた主婦たちは、茜色に染まる川沿いの公園で、買い物袋を片手に談笑する
子供たちは迎えに来た母親たちにそれぞれ連れていかれるが、それを良しとせず、泣きながら家に引っ張られていくのはよく見かける光景になっていた
毎日恒例のようになっていたこの集まりは、いつのも4人・・・いや、今は3人での集まりになっていた。
「あ、ほらなんだったかしら…オカルトっているの?そうゆうのにハマっちゃたみたいよ」
一人の主婦の言葉からオカルトという言葉が聞こえると、ほかの二人は明らかに嫌な顔をする
「オカルトって・・・あれでしょ?幽霊がどうとか、魔法がどうとか、とりあえず現実にありえないことのこっとを言うんじゃなかったかしら」
「なんでそんなのにはまっちゃたのかしらねえ、ソウ君中学のころまではよく家にきてヒロとキャンプだなんだと元気に遊んでくれてたんだけどねえ」
3人が天野ソウのことについて話をしていると、同じく買い物袋を持った髪の長い主婦が、まずいところに居合わせたような苦いかををして、主婦たちを横目に横切る
「あ、いまのってもしかして」
「天野さんだわ、聞かれちゃったかしらね」
「仕方ないわ、私たちも今後は触れないようにしましょ」
二人はうなずくと、その後、三人はいつものように長々と談笑した後、日が暗くなるころにそれぞれの家に帰宅する。
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「ソウ君、ちょっといいかしら」
4階建ての小さなアパート、少し大声をだせば隣の部屋に聞こえてしまうほどの薄い壁
部屋3部屋しかなく、居住区としては少し狭い部屋だといえる
ドアを軽くノックすると、ぼさぼさの髪に眠そうな目をした青年が顔を出す
「どうしたの母さん」
・・・ノックが聞こえたので、パソコンにくぎ付けになっていたのをいったんやめ、何日も外に出ていない体をゆっくりと起こし、ドアへ向かう
ドアを開けると、言いずらそうに眼を合わせずに母さん、ああ、またかと悟る
「そろそろまた高校に行ったら?・・・ほら、お友達もいるし、きっと楽しいわよ」
母さんはたまにこうして俺を高校に行かせたがる
しかし、その必要は全くないのである。
家の高校は珍しく単位制であり、卒業のための合格単位を取っておけば、その後学校に行く必要はないのである。まあ、それが目的でこの高校にしたんだけどね
何度も言ってきたこのことを母さんに伝えると、ひどく泣きそうな顔で下を向く
どうして母さんはそこまで俺を学校に行かせたいんだろう、あんなにまったく意味のないところに。
「それじゃ、俺まだ調べたいことあるから」
そう言ってドアを閉めようとすると、慌てて呼び止められる
「その!・・・またお化けとかのこと調べてるの?」
やっぱりだ、母たたまにこうして俺が何をしているかについて聞く
・・・どうやら俺の研究に相当興味があるらしい!
「違うよ母さん、お化けじゃなくて神話や魔術なんかについてだよ」
この分野は最近では、非現実的やオカルトなんていわれて、人が作り出した幻想や恐怖を具現化した幻といわれるが、全くそうではない。
確実にこの世界には魔術の痕跡がある。
明らかに現在の科学では証明できない事象が数多く存在する。
古代では考えられないほど正確に書かれたナスカの地上絵
一年に一度しか発生しない、科学的には全く証明できないオーロラ
知れば知るほど、疑問は確信に変わっていく、そういったスポットに、日本でなら何度も行ったこともある。
昔からファンタジーが大好きだった俺は、この非科学的といわれる事象に大いに興奮し、はまった。
母さんがそのことについて知りたいというのなら、存分に語ってあげるのが息子の役目だと思う!
俺はよくぞ聞いてくれましたとばかりに目を見開く
「今調べてるのはね、本能寺の変についてだよ、知ってるでしょ?織田信長あ家臣の明智光秀に裏切られるんだけど、そのとき本能寺をにいた信長は寺ごと燃やされて、周りは明智の兵に囲まれて、逃げ場は一切なかった。でもね、その後火が消えた後に中を探してみると、信長の死体はどこにもなかったんだ!」
実際に試された実験があったそうだ、本能寺の変での火災により信長は死に、死体ごと燃えたのかどうか。そして結果は、否。本能寺の変での火災によって人がチリになって消えるほどの火力はなかった。
つまり、信長の死体の消失はほかに明確な理由があるはずなのだ
そこに魔術的根拠を感じたのは勘だが、調べてみるには十分な事象だ。
それもこんなに家の近くにあったなんて!エジプトやほかの海外はさすがに簡単に行けるようなものではないしな
「それでね、今度本能寺があった場所に行ってみて・・・「ご、ごめんね」」
言葉の途中で母さんにさえぎられる
「か、母さんご飯作らないといけないからさ」
そういうと、そそくさと母さんは台所に逃げていく
まだ語りたいことがたくさんあったのだけど、まあ仕方ないな
しぶしぶと部屋に戻り、明日、本能寺跡に行くための準備をして、リビングで母と食事をし、お風呂に入って寝る。
明日は久々に外に出るのだ、さすがに寝ないと体力のない俺は倒れてしまうかもしれない
俺は明日への研究の発展を夢見て寝た
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翌日、久しぶりに外に出る俺に驚いて、嬉しそうな表情で気を付けていってらっしゃと言われ、お弁当まで作ってもらった、学校には全く行く気にはなれないが、母さんには感謝しないとな
外に出ると、かすかに雨のにおいがする、全く気付かなかったが、昨日は雨だったらしい。
よたよたと歩き駅に着く。電車で二駅のホームを下り、久々の電車の揺れに少し酔いを感じて歩いていると、遠くにお寺のようなものが見え始める
「あれだな・・・」
本能寺焼失後に建てられたお寺だ。
確かになにか強い力のようなものを感じる。まるでそこにひきつけられているみたいだ
お寺の入り口にゆっくりと歩いていく。
なんとなく、周りの景色が見えなくなってきているように感じた
近づくにつれ、大きな力を感じるようになる。俺は初めての感覚に興奮しながらも、なぜか走馬灯のようなものを見始めていた
だが、あーこんなことあったなーくらいの感覚だ。実際の走馬灯というのもこんなものかもしれないな、などと思ていると、寺の門の前まで来た
その時だ
まばゆい光とともに今まで門の奥に見えていた景色が一変する
なぜか見える景色がコロコロと変わるが一等していえること。それはまるで、異世界。
空には翼の生えたドラゴンらしきもの、地上では本を持った人々がものを宙に浮かしたり、水を作り出して桶に入れたりしている。
俺の体はゆっくりと門に近づいていく自分の意志ではなく、勝手に吸い寄せられていくことに、俺は一切の恐怖を感じなかった。
やがて体はすべて門の中へ入り、俺の体は完全にその場から消えた。