【Summer Pockets】紬 After
Summer Pockets紬ヴェンダース√後の小話です。
「おかえりなさい」
頬を撫でる様な優しい声に目を向ける。
「あぁ...ただいま。本当に紬なんだよな...」
「はい...ツムギちゃんのおかげで帰ってくることが出来ました」
涙が溢れてくる。紬が、紬がいる。
「あの、ハイリさん...あっ」
もう離さないように強く、強く紬を抱きしめた。
「紬、これからやりたいことはあるか?」
涙を拭いて紬に聞く。
「やりたいこと...ですか。むぎぎ...困りました。私のやりたいことはあの1週間に全て詰め込んでしまいました」
「ならまたやりたいことを探そう。今度は1週間なんかじゃない、ずっと一緒にいれる。時間ならいくらでもあるんだ」
「むぎゅ〜...でも私のやりたいことはもう叶ってしまっています」
照れたよう言う紬にキョトンとしてしまう。
「もう叶ったってどういうことだ?」
「だって、私のやりたいことはハイリさんとずっと一緒にいることなのでもう叶ってしまってるんです」
まずい、今すごい顔をしているのが自分でもわかる。紬が愛しい。
「俺もだよ。俺も、紬と一緒にいられるだけで幸せだ」
「......むぎゅ...あ、あの、ハイリさん...」
お互いに何を言うでもなく見つめ合っていると紬が不意に目を閉じた。心做しか唇を尖らせているように見える。これは、そういうことなのか?俺から行くべきなのか...!?
「つ、紬っ!」
紬の肩に手をやる、が紬は動かない。つまりはそういうことなんだろう。俺も意を決して顔を近づける。
「はぁ...はぁっ......」
頭がどうにかなりそうだ。紬の綺麗な顔が眼前に広がっている。そして唇までの距離が4cm...3...2...1...。
「あらあら2人とも、熱々ね〜」
「むぎーーー!?」
「はぅあっ!?し、しし静久!?」
唇が触れ合う瞬間、聞き慣れた声に邪魔をされた。
「あら、お邪魔だったわね。私に構わず続けてもらって構わないわよ」
「むぎぎぎぎぎぎ......」
威嚇する猫のように怒る紬と笑う俺に静久は安心したように微笑んだ。
「久しぶりに3人で会えたから少しからかってみたくなったの。ごめんね紬」
「むぎぎぎ...そういうことなら仕方ないです。では久しぶりのお客さんを灯台へ案内しましょう」
「あら、ならお言葉に甘えようかしら。久しぶりだから助かるわ〜」
「あぁ。俺も頼もうかな」
機嫌を直した紬が案内してくれると言うので邪魔はしないでおこう。キスのチャンスなんていくらでもある。もう俺たちを縛るものなんてないんだ。
「ハイリさん、静久、今日は何をしましょう」
「そうね〜。私は紬とパイリくんがやりたいことならなんでもいいんだけど」
「俺は2人のやりたいことならなんでもいいよ」
「むぎぎ...それでは何も決まらないです」
「「「あははは」」」
蝉の声に迎えられながら俺たちは灯台へ向かう。
俺たちの夏は、まだ始まったばかりだ。
ご覧いただきありがとうございました。
二次創作、オリジナルを投稿していくつもりですのでまたご覧いただけると幸いです。