表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

第1話 俺を絶望から救ってくれたのは、幼馴染の女の子でした

「す、すすす好きです! 俺と付き合ってください!」


 中学三年生の夏の放課後、俺——岡部廉也おかべれんやは屋上で一人の女子に告白をした。


 俺はデブな上にブス、更に付け加えるとあまり身長も大きくない上に陰キャいう、イケメンから程遠い容姿をしていた。

 そのせいで、俺は周りに馬鹿にされまくってきたけど、彼女だけは違った。

 彼女は誰に対しても人当たりが良くて、俺のような人間に優しく接してくれた。


 そんな彼女——西園寺さいおんじ愛羅あいらに恋をするのは、それほど時間はかからなかった。


 とはいえもう三年の夏。このままではすぐに卒業式が来てしまう。

 この辺は山奥の田舎だから、基本はみんな同じ高校に行くけど、もし遠くの高校に行ってしまったら?

 そう思い、勇気を振り絞って彼女に告白をしたのだが……。


「ぷっ……あはははは! 好きです? 付き合って? 冗談はその汚い見た目だけにしておきなさいよ!」

「え……?」

「アンタはアタシのおもちゃ。要は暇つぶしの道具。それにアタシ、彼氏がいるの。アンタと付き合うとかありえないわ! こうして話せるだけでも幸運と思いなさい」


 綺麗に染まった金髪を耳にかけながら放たれた言葉と、見下すような目に、俺は愕然とした。

 あんなに優しかった彼女が、実は俺を騙していた? しかもおもちゃだって?


 信じられなかった。いや、信じたくなかった……。

 俺は高笑いをする西園寺から逃げる様に駆け出した。

 その日はベッドの中で一日泣いた。



 ****



 あの告白から二週間経った——


 俺の地獄はまだ終わってなかった。

 何処からバレたのか、俺が彼女にフラれた事が広まった。その結果、周りの俺への扱いは更に酷いものになった。


 好きな人に裏切られ、毎日のように馬鹿にされ、ストレス発散という名目でボコボコに殴られる。

 しかもいじめの主犯は西園寺の彼氏という、まさに泣きっ面に蜂状態。教師も見て見ぬ振り。


 誰も助けてくれない……もう……俺の心は疲れ切ってしまっていた。


「…………」


 学校からの帰り道、静かに降る冷たい雨の中、今日もボコボコにされて痛みまくる体を引きずりながら、いつも通る踏切の前でボーっと立っていた。


 カーンカーンカーン――


 うるさい。お前も俺を馬鹿にするのか。

 どいつもこいつも、俺が何をしたって言うんだ。


 そうか、この踏切の中に入れば楽になれる。

 このうるさいと思っていた踏切の音は、救いの道しるべだったんだな。


 父さん、母さん……ごめん。俺はもう疲れたんだ。


 俺は心の中で育ててくれた両親に謝罪を述べながら、傘を放って踏切の中に入った――はずだったのだが、俺の体は前に行かず、後ろへと持っていかれた。

 しかも引っ張る勢いが強く、思い切り尻餅をついてしまった。


「いてて……誰だ、余計な事しやがって……」


 悪態を付きながら振り向くと、そこにはセーラー服を身に纏い、ダサい黒ぶちの眼鏡をかけた女子が一人。

 黒髪をおさげにしていて、いかにも地味と言うのがぴったりな女子だった。

 そして、その姿には見覚えがあった。


「……こはる?」


 櫻井さくらいこはる――俺の幼馴染の女の子だ。

 彼女とは幼稚園の頃からの知り合いだ。幼い頃の俺は、彼女を色んな所に連れまわして一緒に遊んでいた。中学は少し遠い所に通っているため、最近は疎遠になっていた。


 なんでこんなタイミングで居合わせるんだ……しかも俺の邪魔を……。


「どうしてここに……」

「学校の帰り道だから……れんくん、今何しようとしたの……!?」

「何って……別に……」


 れんくんというのは、こはるが俺を呼ぶときに使う呼び方だ。これは幼い頃から変わらない。

 今はそんな事どうでもいい。何とかこの場は適当にごまかさないと。


「ボーっとしてたら踏切が開く前だったみたいでさ。こはるのおかげで命拾いしたよ」

「……嘘」

「嘘じゃないって」

「嘘だよ! れんくん、嘘をつく時はいっつも左に視線を向けるもん!」

「え、マジで?」


 俺ってそんな癖があるのか……知らなかった。


「やっぱり……れんくんにそんな癖ないよ。そんなボロボロの顔でとぼけるから、嘘か本当かの確認をしたの」

「…………」


 くそっまんまとはめられてしまった。


「ねえ、何かあったんでしょ? じゃなきゃ踏切に入るなんて事、普通しないよね?」

「…………何もないよ」

「何でもないなんて事ないでしょ! 私がいなかったら死んじゃってたんだよ!!」


 こはるは俺の肩を、震える小さな手で掴みながら、真正面から俺に怒鳴る。

 幼い頃は大人しくて引っ込み思案な性格だったのに、こんな大声が出せるようになったとは思っていなかった。


「久しぶりに会えたのに、そんなボロボロで心配するなって方が無理だよ! 私で良かったら話、たくさん聞くから!」

「こはる……」

「だから……そんな悲しそうな顔をしないで……れんくんが死んじゃったら……私、悲しいよ……寂しいよ……ぐすっ」


 涙目で訴えるこはるの顔を見た俺の心には様々な感情が巡る。

 嬉しさ、悲しさ、寂しさ、辛さ――もう何がなんだかわからなくなった俺は、ひたすらこはるの胸の中で泣いた。


 この感情を言葉にする力は俺には無い。かわりに全て涙に変えるのが精一杯の感情表現だったんだ。


 散々泣いた後、こはるは俺を家まで送ってくれた。

 両親は共働きでまだ帰ってきていなかった為、こはるはずっとそばにいてくれた。

 そんなこはるに、俺は自分に降りかかった不幸を話した。


 西園寺に告白して手酷くフラれた事。

 西園寺の彼氏を筆頭に、みんなが俺を虐めてくる事。

 周りの人間は誰も助けてくれない事。

 そして……もう疲れて踏切に入ろうとした事。


 全て伝えると、こはるは一人で頑張ったねと、俺の頭を撫でてくれた。

 俺はこはるの気持ちが嬉しくて、また泣いた。


 ——俺は馬鹿だ。


 目先にいた西園寺という仮初の優しさに溺れ、幼い頃から一緒だったこはるの優しさに気づけなかったなんて。


 俺は自分の愚かさ、こはるの優しさを噛みしめながら、久しぶりにぐっすりと眠りについた――

ここまで読んでいただきありがとうございました。こちらのお話は全四話となっております。


次回は本日の21時半に投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想を書いていただけると励みになります。


評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ