第1話 俺を絶望から救ってくれたのは、幼馴染の女の子でした
「す、すすす好きです! 俺と付き合ってください!」
中学三年生の夏の放課後、俺——岡部廉也は屋上で一人の女子に告白をした。
俺はデブな上にブス、更に付け加えるとあまり身長も大きくない上に陰キャいう、イケメンから程遠い容姿をしていた。
そのせいで、俺は周りに馬鹿にされまくってきたけど、彼女だけは違った。
彼女は誰に対しても人当たりが良くて、俺のような人間に優しく接してくれた。
そんな彼女——西園寺愛羅に恋をするのは、それほど時間はかからなかった。
とはいえもう三年の夏。このままではすぐに卒業式が来てしまう。
この辺は山奥の田舎だから、基本はみんな同じ高校に行くけど、もし遠くの高校に行ってしまったら?
そう思い、勇気を振り絞って彼女に告白をしたのだが……。
「ぷっ……あはははは! 好きです? 付き合って? 冗談はその汚い見た目だけにしておきなさいよ!」
「え……?」
「アンタはアタシのおもちゃ。要は暇つぶしの道具。それにアタシ、彼氏がいるの。アンタと付き合うとかありえないわ! こうして話せるだけでも幸運と思いなさい」
綺麗に染まった金髪を耳にかけながら放たれた言葉と、見下すような目に、俺は愕然とした。
あんなに優しかった彼女が、実は俺を騙していた? しかもおもちゃだって?
信じられなかった。いや、信じたくなかった……。
俺は高笑いをする西園寺から逃げる様に駆け出した。
その日はベッドの中で一日泣いた。
****
あの告白から二週間経った——
俺の地獄はまだ終わってなかった。
何処からバレたのか、俺が彼女にフラれた事が広まった。その結果、周りの俺への扱いは更に酷いものになった。
好きな人に裏切られ、毎日のように馬鹿にされ、ストレス発散という名目でボコボコに殴られる。
しかもいじめの主犯は西園寺の彼氏という、まさに泣きっ面に蜂状態。教師も見て見ぬ振り。
誰も助けてくれない……もう……俺の心は疲れ切ってしまっていた。
「…………」
学校からの帰り道、静かに降る冷たい雨の中、今日もボコボコにされて痛みまくる体を引きずりながら、いつも通る踏切の前でボーっと立っていた。
カーンカーンカーン――
うるさい。お前も俺を馬鹿にするのか。
どいつもこいつも、俺が何をしたって言うんだ。
そうか、この踏切の中に入れば楽になれる。
このうるさいと思っていた踏切の音は、救いの道しるべだったんだな。
父さん、母さん……ごめん。俺はもう疲れたんだ。
俺は心の中で育ててくれた両親に謝罪を述べながら、傘を放って踏切の中に入った――はずだったのだが、俺の体は前に行かず、後ろへと持っていかれた。
しかも引っ張る勢いが強く、思い切り尻餅をついてしまった。
「いてて……誰だ、余計な事しやがって……」
悪態を付きながら振り向くと、そこにはセーラー服を身に纏い、ダサい黒ぶちの眼鏡をかけた女子が一人。
黒髪をおさげにしていて、いかにも地味と言うのがぴったりな女子だった。
そして、その姿には見覚えがあった。
「……こはる?」
櫻井こはる――俺の幼馴染の女の子だ。
彼女とは幼稚園の頃からの知り合いだ。幼い頃の俺は、彼女を色んな所に連れまわして一緒に遊んでいた。中学は少し遠い所に通っているため、最近は疎遠になっていた。
なんでこんなタイミングで居合わせるんだ……しかも俺の邪魔を……。
「どうしてここに……」
「学校の帰り道だから……れんくん、今何しようとしたの……!?」
「何って……別に……」
れんくんというのは、こはるが俺を呼ぶときに使う呼び方だ。これは幼い頃から変わらない。
今はそんな事どうでもいい。何とかこの場は適当にごまかさないと。
「ボーっとしてたら踏切が開く前だったみたいでさ。こはるのおかげで命拾いしたよ」
「……嘘」
「嘘じゃないって」
「嘘だよ! れんくん、嘘をつく時はいっつも左に視線を向けるもん!」
「え、マジで?」
俺ってそんな癖があるのか……知らなかった。
「やっぱり……れんくんにそんな癖ないよ。そんなボロボロの顔でとぼけるから、嘘か本当かの確認をしたの」
「…………」
くそっまんまとはめられてしまった。
「ねえ、何かあったんでしょ? じゃなきゃ踏切に入るなんて事、普通しないよね?」
「…………何もないよ」
「何でもないなんて事ないでしょ! 私がいなかったら死んじゃってたんだよ!!」
こはるは俺の肩を、震える小さな手で掴みながら、真正面から俺に怒鳴る。
幼い頃は大人しくて引っ込み思案な性格だったのに、こんな大声が出せるようになったとは思っていなかった。
「久しぶりに会えたのに、そんなボロボロで心配するなって方が無理だよ! 私で良かったら話、たくさん聞くから!」
「こはる……」
「だから……そんな悲しそうな顔をしないで……れんくんが死んじゃったら……私、悲しいよ……寂しいよ……ぐすっ」
涙目で訴えるこはるの顔を見た俺の心には様々な感情が巡る。
嬉しさ、悲しさ、寂しさ、辛さ――もう何がなんだかわからなくなった俺は、ひたすらこはるの胸の中で泣いた。
この感情を言葉にする力は俺には無い。かわりに全て涙に変えるのが精一杯の感情表現だったんだ。
散々泣いた後、こはるは俺を家まで送ってくれた。
両親は共働きでまだ帰ってきていなかった為、こはるはずっとそばにいてくれた。
そんなこはるに、俺は自分に降りかかった不幸を話した。
西園寺に告白して手酷くフラれた事。
西園寺の彼氏を筆頭に、みんなが俺を虐めてくる事。
周りの人間は誰も助けてくれない事。
そして……もう疲れて踏切に入ろうとした事。
全て伝えると、こはるは一人で頑張ったねと、俺の頭を撫でてくれた。
俺はこはるの気持ちが嬉しくて、また泣いた。
——俺は馬鹿だ。
目先にいた西園寺という仮初の優しさに溺れ、幼い頃から一緒だったこはるの優しさに気づけなかったなんて。
俺は自分の愚かさ、こはるの優しさを噛みしめながら、久しぶりにぐっすりと眠りについた――
ここまで読んでいただきありがとうございました。こちらのお話は全四話となっております。
次回は本日の21時半に投稿予定です。
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