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いつかゲームになる日まで  作者: 白藤あさぎ
7/32

    -File 4-

更新ド低速ですみません…




   −File 4 断罪ゲーム−




【まず最初に宣言させていただきます

ゲームマスターの言葉はすべて真実であり 絶対です】


はっきりした声でそう告げた後で、彼は先程の胡散臭い笑顔を浮かべた。


【ご理解いただいた上で この船の説明をさせていただきます】


彼のいる部屋はどこかの制御室なのか、背後に機械のランプが点滅しているのが見えた。青灰色に染まった画面が彼の黒をさらに深く見せる。青白い顔だけが浮いていた。


【あなた方のもといた船と この場所は既に切り離され

制御は全て 事前にプログラムされた通りに働いています】

「…は…?」「…」


数秒遅れて、誰かがかろうじて反応した。

機械的な言葉は想像力を奪うようで、彼の言う全てを理解できなかった。わかる言語で話されていると言うのに、何一つ情報が入ってこない。


【そのプログラムによれば この船は 一週間以内に沈みます】


淡々と、台本を読み上げるように彼は淀みなく告げた。


【脱出するための出口は 最上階にのみ存在します

二階に設備されたエレベーターで移動できます

ゲームに勝ち残った人だけが その出口にたどり着き

賞金を得ることができます】


こちらの反応を完全に無視して、間髪入れずに話し続ける。誰もがこの異様な状況について行けていなかった。


【この船には 他にゲーム用のフロアが存在します

最上階には デッキへの出口があり

脱出用にプログラムされたヘリに搭乗することができます】


そこで一度、画面の中の彼の視線が動いた。


【頑張ってゲームに勝ち残り 沈む前に脱出して 賞金を得られるよう

私はここからご健闘をお祈りしています】


僕らを順番にゆっくりと見回したあとで、口元に片手をやって声にならない笑いを立てていた。無機質にも思える彼の、初めて見せる表情。

唖然とした僕らを嘲笑うかのような不愉快な仕草だった。


【それでは ゲームの説明に入ります】


情報を整理する間もなければ、この異様な状況に自分が置かれていることさえも何かの間違いだと思えてくる。

そんな現実逃避をしている場合ではないと言うのに、この頭は今使い物にならなかった。


【まず ゲームマスターの指示は絶対 これを理解いただきますよう】


言いながら、モニターの下部分、もとの絵のネームプレートがあったあたりに小さな穴が開いて、そこから封筒が数枚吐き出された。

床に散らばったそれらに僕らは怪訝そうに視線をやっただけで、誰1人手を伸ばしはしなかった。


【それにはゲームについての詳細を記してあります

これから口頭でも説明いたしますが まずはお一人ずつお持ちください】


一番近くにいたクルーの青年が一枚を取り、続いて各々が躊躇いながらも封筒をとっていった。

全員が受け取ったのを確認したところで、彼はまた言った。


【それでは 私からの最初の指示です

お互いコードネームで呼び合うこと】


そこで画面が切り替わり、ゲームマスターが写っていたところにここに集められた人たちの顔写真が並べられた。その下には英単語でコードネームが示されている。


メガネの男性はMouth。

女性はEar。

初老の男性はNose。

クルーの青年はHand。

アイさんはEye。

僕らはBrain。


体の一部が当てはめられている。すぐに気づいたのはそんな法則性くらいだった。


【お互いを改めて認識したところで ゲームの詳細を説明します】


再び画面が戻ったところで、彼は話し始めた。


【ゲームは 第一から順に 私の宣言によって開始と終了がなされます

日没後から夜明けまでの間に行います

各ゲームの前に 私から指示書をコードネームごとにお渡しします

そこにはそのゲームでの各人の役割が書かれています


ゲームは「犯人」「執行人」「探偵」「陪審員」に分かれて行います


「犯人」は各ゲームに必ず1人 悪事を働き罪を背負う存在

「探偵」に罪を暴かれてはいけない


「執行人」は各ゲームに必ず1人 罪人を処刑する存在

開始前の指示書により「犯人」を認知しています

死刑執行するタイミングを常に伺っています

ただし他の参加者に役割がバレてはいけない


「探偵」は 各ゲームに必ず1人

私からの「謎かけ」を解き 「犯人」の罪を暴く存在

「謎かけ」の答えを 二階のエレベーター前の機械に入力してください

解答の機会は一度きり 失敗してはいけない 無回答により時間切れになってはいけない


「陪審員」は上記以外 基本的に誰からも脅かされません

なお「執行人」が紛れ込んでいます

ゲームルールを犯さない限り どうに動いていただいても構いません


二階のエレベーターですが さきほども申し上げた通り

上階が存在します そのフロアにはいくつか施錠された扉があり

ゲーム進行ごとに 私の権限で解錠されます

「謎かけ」の答えを導き出すための手がかりを各部屋に置きますので

解錠されましたらどうぞご自由に 有効にお使いください


ただしそのフロアから手がかりを移動することは禁止します


これ以降 上階への移動が可能です】


一度言葉が切れたところで、Mouthが口を開いた。


「負けの定義は分かったが、勝ちとなると、誰かが勝った場合それ以外は全員負けか?」


その疑問にゲームマスターはMouthに視線を動かして答えた。


【まずあなた方の絶対の負け条件としては

何もしないことと  私の指示に従わないこと

いついかなる時もこのルールは施行されています


その上で 「執行人」は役割を知られなければ勝ち残ります

「探偵」は正しい答えを導けば勝ち残ります

「犯人」は「探偵」がミスした場合 または夜明けとともに時間切れとなった場合に勝ち残ります

「陪審員」はルールを犯さない限り残ります】


「陪審員」を除いて、誰かが勝ち残るということは脱落者が必ず出るしくみ。少なくとも「犯人」と「探偵」は確実に敵同士という立ち位置だ。

そして「犯人」には「執行人」という監視役がいる。

一見「犯人」が不利なようにも思えるが、「執行人」のバレてはいけない立ち振る舞いの難しさや「探偵」の謎解きのタイムリミットを考えると、イーブンというところだろうか。

ルールが思ったよりも複雑で、あとできちんと落とし込まなければ、巧妙な言い回しに騙されている部分があるかもしれない。


この強引なゲームに信頼できる要素が一つもないことを決して忘れてはいけないと思った。

ゲームマスターは嘘は言わないと言ったが、全てを語るとは言っていない。

質問したところで、回答を拒否されることもあるかもしれない。


賞金をちらつかせてはいるが、実際のところ彼が僕らにさせたいことはこの『断罪ゲーム』。絶対に何か別の目的を企んでいる。


【ああ それから ゲームの賞金は人数分用意してあります

全員が勝ち残れば 当初の通り1億ずつ

脱落により 最終的な人数が減った場合は 山分けとさせていただきます】


にこやかに告げられた、ここにきての実質賞金アップ。これまで理不尽に集められたという認識が、そこで一気に逆行した。


まわりを見れば、Earは目に見えて興奮し、MouthとNoseは表情は変わらなかったが、口元がうっすらと笑んでいた。Handだけは大きく喜んでいる様子はなく、何かを憂慮した面持ちは拭いきれていなかった。


「でも、時間がくればこの船は沈むんでしょう?全員で出る方法を考えたほうが…」


賞金以前に、一週間以内…できるだけ早くこの船を抜け出さなければ、僕らは全員漏れなく海の底だ。個室や聖堂には出入りできる窓もなく、入り口も確かめなかったが恐らく閉じられている。

ゲームマスターが全員が勝ち残る可能性を言ったということは、その方法があるということだ。みんなそれに気づいてないのか、むしろ捨てるべき考えだと排除しているのか、僕の発言に全員の目がこちらを振り返った。


ぎょろりと転がりそうな、淀んで光のない目が八つ。

吐き出すようにEarが言った。


「はっ、あんた正気?脳のくせに、考える頭もないのね」


Earの言葉にキレかかったシュウを咄嗟に腕を引いて止めた。そんなような反応をされるのは予測していた。


1人で勝ち残れば7億もの大金を独り占め。

ここにいる全員の想像は一致しただろう。

この時、ただ一つ確信できたのは、協力してここから抜け出すという意識が完全に欠落したということ。先のゲームマスターの発言によって、他人を蹴落として何がなんでもゲームに勝ち残るということしか考えなくなってしまう。


「脳がないのはあんたの方だろ。協力すれば確実に1億は手に入る。どんなゲームかわかんないうちは、自分が勝ち残るなんて過信はやめた方がいい」


思わぬところから言葉がかかって、僕はMouthの方を見た。メガネの奥で、暗い眼光が揺れた。

それを擁護してくれたのだと思えなかったのは、言いながらも彼の口元がうずうずと高揚して見えたから。


「さすがMouth。口だけは繕うのがうめぇんだな。おめぇもそういいながら、誰を蹴落とそうか考えてるとこなんじゃねぇのかァ?」


吸っていた煙草を床に落として擦り消してから、Noseは毒づいた。彼の足元にはすでに5、6本は落ちている。話の間ずっと吸い続けていたのだろう。今になって部屋の澱みを視界と鼻で感じた。


揺蕩う煙に合わせて薄褪せた顔が歪んでいく。大人たちの言い合いを遠い耳で聞いていた。


この感覚、パーティの時も似たような感じだった。


「…他の奴らなんてどうでもいい。俺たちは俺たちで、この船から脱出することだけを考えようぜ」


彼らを見つめたままシュウは言った。その言葉に頷くしかできなかった。


本心では、知らない人と協力なんてこの状況下では難しいとわかってた。綺麗事を言ったつもりもない。ただ、最終的な目的は結局同じだというのに、そこを無視して利益に飛びつく姿は目に入れたくなかった。


そして多分、おかげで僕はこの場にいる全員を信用することはできない。



その”疑心”が、閉鎖的なこの空間ではどれほど恐ろしいものなのか、一石を投じた本人は画面の向こうでにんまりと口を裂いて見下ろしていた。




ゲームルールを練りに練ってたらなんか細かすぎてダメそう

今後の展開に矛盾とかルールの穴とか色々出てきそうで怖い


推理ものにできるかどうかかなり不安ですが、きちんと完結はさせますので(当たり前)

のんびりお付き合いいただければと思います…

よろしくお願いします

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