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いつかゲームになる日まで  作者: 白藤あさぎ
17/32

    -File 3-

第1章-File 4- ゲームルールの表記に追加しました。

【Brainはひとりとして数えます その上で人数の表記をさせていただきます】


引き続きよろしくお願いいたします。




 −File 3 2日目:昼−




Handに言われて、僕らは再びMouthの事件の舞台だった部屋に戻ってきた。

入ってすぐのオフィスのテーブルに、アンティーク風の凝ったデザインをした鍵があった。光沢の押さえられたいぶし銀色で、不思議な植物の模様が彫られた持ち手の部分に、少しだけ赤黒い何かがこびりついている。

鍵のそばにはおそらくHandが書いたであろうメモが置かれていた。


Mouthが吊るされていた天井の穴で発見したことと、もう一つ。


:死体はなくなっていた


文字の羅列で見るそれは、おそらく人伝に聞くよりもずっと肝が冷えた。


死んだ彼が動き出すことはまずありえない。“アレ”が、人形な訳あるはずがない。死体に触った時も、確かに死後硬直があったし独特の冷たさだった。使い古されたトリックで仮死状態だったなんてこともないはずだ。


だとすれば誰かが処理したと考えるべきだ。

ゲストの中の誰かか…


単純に考えて、僕らに死体を動かすメリットがあるとは思えない。可能かどうかで考えれば、男性2人には隙を見ればできなくもないだろう。客観的に見れば双子である僕らにも可能ではある。だが自分に置き換えてみてもメリットは見当たらなかった。僕らじゃないとすれば…可能性としてはもう一つ。


この船に誰かいる。


急に背筋が爪先で撫でられたような薄ら寒さを感じた。

一体誰が、いつ、なんのために。


ゲームマスター側の人間…?

フロア自体の複雑な構造のせいで死角の多いこの3階なら、廊下をうまく利用してやり過ごすことはできなくないし、なんならまだ解放されてない部屋に隠れている可能性もある。


死体が移動した原因を考えてみても、自分も人の死体に触れたことなどなかったし、誰も正確な検死をしたわけではない。この思考はただの現実逃避でしかなく、Mouthが本当はどこかで生きていたら…?


どっちにしろ何かおかしな状況になってきていることだけは確かだ。


「…タチが悪いな。こんな訳のわからないところさっさと出ないと、精神やられるぞ…」


さすがにシュウも不気味だと思ったのか、顔色が悪かった。

得体の知れない何かがずっと自分たちの後ろを漂っているような感覚。


鍵を持ってあの開けた空間のオフィスに向かう間も、薄暗い廊下が気味悪くてしかたなかった。

奥の暗がりから、何かが腕を伸ばして手招きしているような。


その直後だった。


僕らが曲がり角を曲がる手前、赤い影がふらっと視界をよぎった。それは一度や二度じゃなく、あらゆる方向に曲がって踊っているように振り回されていた、女性の腕らしきもの。


恐る恐る角から顔を出した瞬間。

おどろおどろしく長い髪を振り乱した影がぐわっと迫った。突然のことで声を出すこともできず、勢いのまま覆い被さってきた影を振り払うように押しこくった。


嫌に柔らかい髪が、触れた指にしとりと絡む。


「っ…Ear、さん?」

距離をとって初めてその人を認識できた。真っ赤なトップスが暗がりに浮かび上がる血溜まりみたいに、彼女の体を覆っている。


恐る恐る声をかけた。

ぐったりと折れた首を持ち上げて、彼女はゆるくウェーブのかかった髪の隙間からこっちを覗くと、その分厚い唇に笑みを浮かべた。


「あらァ…なあんだ、誰かと思ったらお坊ちゃんか」


ふらふらと覚束ない足取りで立ち上がって、重そうに前髪を掻き上げ言い放つ。枯れた息混じりの言葉に酒の匂いが漂っていた。


なんだ、って…

こっちは無駄に心臓を消費したっていうのに、ただの二日酔いか。

シュウもあからさまに顔を顰めて言う。


「はぁ…。んだよ、無駄にビビった…」

「あははぁ!ボクったら、怖がりなのねぇ」

「チッ…ここになんか用だったんですか」

「ん〜?あたしが部屋から出たらエレベーターが動いてたからァ…なーんか気になっちゃったのよぉ」


喉の焼けた声。目端を甘くとろけさせて、Earは僕らを見下ろした。


「あんたたちこそ何してたのぉ?まさか抜け駆け?」

「違いますよ。まだゲームも始まってないのに何を抜け駆けするんですか」


いかにも頭のまわってなさそうなこの人に説明するのも面倒だ。さっさと確認したいことをやって部屋に戻ろう。


Earは結局僕らについてきた。

広いオフィスの、一つだけ鍵がかかって開かない引き出し。今開かない場所といったらここしかない。

が、その鍵穴に差し込もうとしてもぐっと奥が詰まって、噛み合わなかった。


「…駄目か?」

「みたいだね…。じゃあどこの鍵なんだろ…」

「ソレ、なんなの?」


鍵を見てEarが問う。一応ルールを考慮して、僕は黙ってHandのメモを机に置いた。Earはそれを手に取って見る。一読した後で、目を見開いた。


「…どういうこと…?死体がなくなってた?…なんなの…ホントもういい加減にしてよ…!」


酒気が一気に身をひそめたのか、唇を震わせながらも力んだ声を発して、メモを持つ指先に紙皺が寄っていた。


「…はっきりしたことはわかりませんが、僕ら以外にこの船に誰かが潜んでいるのかもしれません」

「はあっ!?誰かって!?じゃあMouthは本当はそいつにやられたってこと!?」


ヒステリックな声が頭にギンギン響く。

そんなの僕にわかるわけない。聞いたって無駄なことくらい、少し考えればわかることなのに。どうもこの人は直情的に物事を捉えすぎる。


「落ち着いてくださいよ。Noseがやったのは確実だ。ゲームマスターの審議のとき、本人がいってたんだから」

「必要に怖がらなくても大丈夫です。ゲームの性質上、無作為に襲ってくることはないでしょうから」

「そんなのわかんないじゃない!なんであんたたちはそんなに落ち着いていられるの!?」


僕とシュウが宥めても、彼女は喚いた。

酒を飲んだところで、この船からも、自分がMouthのようになるかもしれない状況からも逃げられない。受け入れられなくてもそれが現実だ。


「っ、まさか…犯人だから…!?」

「落ち着けって言ってんだろ!そうやって疑心暗鬼になるのがあぶねーんだって!」

「ゲストの中に、死体を動かしてメリットのある人なんていません」


精神的な限界が近いのだろうか。Earはひどく取り乱して息切れもしていた。


「だったら証明しなさいよ!自分たちはやってないって!」

「そんなこと誰にもできませんよ。あなただってできないでしょ?」

「あたしがそんなことするハズないじゃない!」

「僕らだってそうです。動かされた真意がわからない以上、下手に疑ったり怖がったりしても意味がありません。ゲームマスターが単に…遺体を安置しただけなのかもしれませんし」


彼に聞けば何かしらの情報は得られるだろう。僕らがここでお互いを疑っても意味はない。


「大体、僕らが犯人だったらもう少し自分たちの振る舞いをうまくしますよ。冷静にしていたら真っ先に疑われるのなんて予想できるんですから、なんならあなたみたいに騒いでみたり、Handがしたように一応周知できるようにしたり、疑い始めたら誰だってキリがない」

「ただひとつ言えることは、俺たち以外にも人間がいる可能性を考えてひとりで行動するべきじゃないってことだな」

「……。だったら…こんな死角だらけのところいたくない」


なんとかEarは落ち着かせられたようだ。死体がなくなったことを知らせなければ怪しまれただろうが、今後は情報共有のタイミングは気をつけた方がいいかもしれない。

下手すれば相手の猜疑心を煽って攻撃されかねない。*要素ー選択肢


いたくないといいつつも、彼女は結局僕らが動くまで動かなかった。

単独行動されるとこっちとしても困るので、一緒に動く気があるなら願ってもないことだ。


だが、全員が同じ場所に介していない以上、よからぬことを企むペアができれば厄介なことにもなる。


エレベーターに乗って階下に降りながら、僕は今ここに姿のないゲストたちを思い浮かべていた。



夕方までの時間は自室で過ごすことにした。不気味な雰囲気を肌の下に感じたまま、とにかく安らげる空間を求めて部屋の扉を潜ろうとした。

その時、隣のドアが音を立てて開くと、しっかり身なりを整えたアイさんが僕らに気づいて綺麗にお辞儀をした。


「こんにちは、アイさん」


声をかけたものの、どんな顔をしたらいいのか正直わからなかった。1日で色々なことが起こって、今朝彼女にしたことへの名ばかりの贖罪をして…。僕のぎこちなさに彼女はきっと気づいている。


「アイさん、ご飯は済ませた?」


シュウの問いにアイさんは頷いた。相変わらず無表情で喋らない。

関係がバレないように、なるべくここでは他人のふりを徹底しているから、つい一昨日まで生活をともにしていたとはいえ彼女が遠く感じた。

多分、お互いに、だ。

アイさんは、僕らの罪のことをどう考えているのだろう。表面化しづらいとはいえ、彼女も何かしら感じていることはあるはずだ。


…ここから出られたら。アイさんのこと、自分たちのこと、きっと今以上に分かり合えるのかもしれない。


そう考えてみたものの、なんだか途方もないことのような気がしてしまう。ゲームマスターの言う罪が、創造主の意を継いで殺人に限られているのなら、お互いにお互いを受け入れられるか難しい問題ではあるだろうし。


僕は…たとえアイさんが過去に誰かを殺めていたとしても…それにはきっと何かしら理由があって…。


理由……?

理由があれば、その罪は軽減する?


誰かにとって大事な誰かだったかもしれない。


理由だけじゃない。犯行に至る経緯があって、追い詰められた心がある。

普通は恐怖を抱くだろう。それすら亡くしてしまうほどの一連がわからない限り、僕には自分の持つ判断に当てはめられない。


盲目に彼女を受け入れることはできない。

彼女も、彼女の判断基準で僕らを糾弾するかもしれない。

どうなるかはわからないが、ここを出れば関係性は間違いなく変わる。


途方もなくて難しい。それでも…やっぱり、あたたかい方に向かいたいと縋ってしまう僕は、いい加減、どうしようもない人間なのだろう。



部屋に入ってから、やっぱりすることもないのでベッドに倒れ込んだ。次のゲームがまた始まる。また…誰かがいなくなる。


「あのさ…」


隣で同じようにベッドに突っ伏していたシュウが、顔をこちらに向けた。僕が視線だけ送ると、シュウは寂しそうに言った。


「アイさんのことなんだけど…」


そう前置きをしたまま、口をつぐんでしまう。なにか言いづらいことなのだろう。シュウは一度ゆっくり瞬きをした後で、重く言葉を置いた。


「なんで、告発しようと思ったんだろうってずっと考えてた」


昨日のことを思い出す。

誰かがするかもしれないとは思っていたが、僕もそれがアイさんだとは微塵も思ってなくて…。

シュウは言葉を続ける。


「証拠はなかったし、俺らが知る限りじゃ死体を見ても無いだろ?それに…」

「…アイさんが積極的にそうするとは思ってなかった…?」


僕が続けた言葉にシュウは眉根を寄せて頷く。何よりも意外だと思ったのは、その一点。告発が成功しようが失敗しようが、誰かが死ぬことになった。


『ここじゃぁ目に見えてるもんほどあてになんねぇものはねぇかもなァ』


そのとき、Noseが言った言葉が耳を撫でた。


僕らが関わってきたアイさんと、ここで知ったアイさん。全くの別人だとは思わないけれど、思っている通りの人かどうかもわからない。


他人の目ほど、都合のいい認識をするものはない。全ては自分の都合のいいように理解し、つくる。

何よりアイさんの場合、知るための情報が明らかに足りない。


何も、話さないから。


ゲームマスターのように血塗れの展開を望んでいるようには見えなかったけれど、Noseを排除しようとしたのは間違いない。


「…殺人者だとわかってる人と行動を共にするのは僕も嫌だよ。その気持ちから、じゃないのかな…」


とはいえ、やっぱりHandのように目の前で人が死ぬのを見るのは嫌だ。同じ価値観だから、Handの行動が正しく思えたけど、そう考えると殺人を犯した人物を生かしたままにしておくこともおかしな話かもしれない。


「…わざとミスって自分が死ぬつもりだったとか…ねぇよな…?」


確かにあの時、はっきりとNoseを指そうとしたかは定かじゃない。Handが遮ったから、もしかしたらEarだったかもしれない。


「……アイさんが証拠の提示を求められたらどうするつもりだったのかわからないけど、その線もなくはないかも…」


たとえば正解を指していても、彼女が話さなければ告発として成立しない。けど…


「わざわざそれで殺されなくても死のうと思えば死ねる環境だし、可能性としては低いと思うけど…」

「…だよな。アイさんが俺らを置いて退場するわけないよな」

「………」


…いや…それとも。


Noseを…イノハナ ビワだと気づいていた…?


そんな考えがよぎったが、すぐにまさかと打ち消す。もしもそうだとしたら、なおさら告発する理由がわからない。僕らが船に乗り込んだ目的を知っていながら、それを無に帰すようなこと…


「…どした…?」

「……なんでもないよ」


黙った僕にシュウが不安そうに尋ねた。


明確に否定できなかった自分がいた。僕らが求めていることを知っていながら、父さんからの手紙を黙って隠していたくらいだ。イノハナだと気づいてもそれを言うとは思えないし、それこそ…妨害するようなこと…


…彼女は、何かを隠してる。そして、彼女が隠そうとすることは僕が求めているものの可能性が高い。


こんなことシュウには言えない。

僕だってほんとは考えたく無いけど…。


この先、ゲームの進行によってイノハナが殺されることになったら。父さんの手がかりがなくなってしまう。

それだけは…なんとしてでも防ぎたい。



それから夕方までの時間、僕らは部屋で特に何を話すでもなく、無作為に時間を潰していた。

いつもの週間で本を読もうと思ったが、部屋の本棚にはなぜか子供向けのものばかりがおかれていた。

目に入ったのは、嘘をつくと鼻が伸びる人形の話。ただそれは美しく書き替えられた綺麗なだけのお話。もちろん紆余曲折を経て教訓が含まれた内容ではあるけれど、ハッピーエンドを純粋に受け止めるにはここでの出来事が強烈すぎた。


結局何も手に取らず、時間だけが過ぎた。



やがて頭上からスピーカーを通したような、重苦しい時計の音が打ち鳴らされた。その音は空っぽになった頭によく響く。


閉じていた目をゆっくり開いて、壁の時計に目をやる。

二日目、夕方。第二のゲームが始まろうとしている。この時計が鳴ってしまったら、あとはもう覚悟を決めるだけだ。


シュウと一度目を合わせて、僕らは食堂に向かった。



【ごきげんよう 昨晩はゆっくり眠れましたか?】


わざとらしい笑み。わざと神経を逆撫でするようプログラムされてるんじゃないかと思いたくなるほど、いちいち彼の言動は気に触る。答えにさほど興味もないし、求めてもいないだろうに。


彼の目線が一度ゲストを舐めるように動かされる。

その沈黙があっても、誰も何も言わなかった。その反応にふっと息をついて、彼は続けた。


【まあいいでしょう さっそく 第二のゲームの指示書を

「その前に、あんたから話さなきゃいけないことがあるんじゃないの?」


ゲームマスターの言葉を遮ったのは、Earの唸るような声だった。彼女が何を聞きたいのかわからない、とでもいうように彼は首を傾げる。


【なんのことでしょうか 私からは 特に何も】

「Mouthの死体のことよ!あんたがどっかにやったんじゃないの!?」


Earの声が食堂に響いた。

恐怖と困惑が含まれている必死の言葉も意にも介さず、ゲームマスターは軽く肩を竦めて言った。


【知りませんよ 私は何もしていません】

あまりにもあっけなく告げられた真実に、大袈裟なまでに絶望した顔でEarは言葉に詰まった。


「…っ、嘘よ!じゃあMouthはひとりでに動いて消えたっていうの?!」

【あなたがたの誰かがなにかしたんじゃありませんか?】


にこりと微笑む。彼がそういうなら、Mouthの遺体について彼は関与していないということになる。

だったら、一体誰が…?


【何をそんなに慌てているんです? 消えたのは死体でしょう?

誰が動かそうと どこにいこうと どうでもいいじゃないですか

死体なのだから】


それとも、何か問題でも?


そう言いたげに彼は目を細める。


「どうでもよくないだろ。なんのためにそんなことする必要があるんだよ」


シュウが口を開いた。せめてどこに行ったのかくらいわかれば、明確な目的がわからなくてもまだいいのかもしれない。が、消えたとしかいいようがないから問題なんだ。


【それは動かした本人にしかわからないことです この私が死体であると

断言した以上 彼はすでに死んでいます 私が言えるのはそれだけです】


確かに、僕らが発見したときにアナウンスが流れた。Mouthがすでに亡くなっているのは確実。

…とはいえ…不可解な行動であることには変わりない。そしてゲームマスターは動かした人物に関して、主催側であることを否定していない。つまりゲスト以外の人物の存在は否定されてないということになる。


「ねえ、だったらあんたの口から言って。私たちが得体の知れないものに危害を加えられることは絶対ないって」

【それはまた… 無意味な宣言ですね この船に存在しているもので

得体の知れないものなど ありませんよ】

「屁理屈はいいから言いなさいよ!」


身の安全の保障。Earはそれを欲しがっている。

とりあえずの恐怖心が拭いされれば、彼女も少しは落ち着けるだろう。ゲームマスターも、拒否することでもないと思ったのか、小さくため息をついた後で言った。


【いいでしょう あなた方は 今ここにいるもの以外から危害を加えられることはありません】


明言されたことでEarはようやく溜飲が下がったらしい。ため息をついて黙った。


「つーかよぉ…ゲームを続ける意味ってあんのかァ?」


くたびれたズボンのポケットに手を突っ込んで、歯で煙草を加えたまま今度はNoseが声をあげた。一連のやりとりを聞いていただけの彼は少し遠くの椅子に座っていた。言いながら立ち上がり、こちらに向かってくる。

彼に視線をやって、ゲームマスターは言葉の先を促した。


「実際死人が出ちまった以上、もうこの場にいる全員で直接的に殺し合った方が速えだろ?」


隈で落ち窪んだ目元が不気味に歪められる。にぃっと開いた唇の間から、茶味がかった歯が覗いていた。


【…… ルールをお忘れですか?

ここから出られるのも 賞金を得られるのも ゲームの勝者のみ

たとえあなたの言う殺し合いで生き残ったところで

なんの意味もありませんよ】


ゲームによる生き残りだけが勝者。ゲームが行える人数がいなければ全ては成立しない。誰かに危害を加えることに利はないということだ。

そもそもここに連れてこられた意味を考えれば、さらに犯行を重ねることが愚かなことだというのはまともな価値観を持った人間ならわかるだろう。


この異常な状況に毒され始めているのだろうか。

それとも……。彼の場合はそれだけじゃない気がする。


【他に何もなければ 第二のゲームの指示書をお渡しします】


背後で小さく舌打ちが聞こえたが、誰も何も言わなくなった。


前回と同じようにモニターの下のネームプレートから紙が吐き出された。自分のコードネームが書かれた封筒を取り、それを開く。


【それでは日没後 ゲームの開始を宣言します】


僕はその紙に釘付けになった。


心臓が一度大きく沈む。

言葉にできない漠然とした感情が、そこから目を離すことを許さなかった。


:第二のゲーム コードネーム『Brain』


   あなたは『犯人』です:




今回長くなってしまいました…!


PVの構成を考え中なのですが、公開はいつになることやら。

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