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5.魔法使いの街

 翌日、エルヴィラはリボンのついたブラウスとロングスカート、ロングブーツを身に付けルクロドと共に街に出かけた。

 公国の首都、カレドニアの街はペンドラゴンのものとは一線を画していた。


 整然とした石畳の両側に白壁に黒いスレート屋根の建物が並んでいる。一階はほとんどが商店や食堂になっており、二階が住居のようだ

 そこまではエルヴィラが馬車から見たペンドラゴンの王都とあまり変わらない。

 しかし、この街では歩行者の横を時折「馬のいない荷車」が颯爽と走り去っていく。辻馬車のように相乗りできるものもあるようだ。


 昨日ルクロドから聞いてはいたが、実際に見るとやっぱり驚きを禁じ得ない。


「俺は魔法で転移ができるから使わないが、魔力が少ない者の間では自動車が広く使われている。魔石で足りない魔力を補えるしな」

「そうなのね。一度乗ってみたいわ。どんな乗り心地なのかしら?」

「自分で運転できるものもあるから、今度一つ用意しようか。お前なら魔石がなくても動かせるだろうし」

「楽しみにしてるわ!」

「転移ができるようになるには魔法陣魔法を覚える必要があるからな。移動手段として自動車を持った方が良いだろう」

 ルクロドは頷いて何か思案した。


「時間が余ったら自動車屋も見よう。とりあえず、まずは杖屋だ」

「杖屋?」

「ああ、魔法を扱い易くする補助具だ。無くても使えるが、あった方がより正確に使えるようになる。俺も使ってただろう?」

 確かに母国からカールマン屋敷に転移した時も、ルクロドの部屋でお茶をいただいた時も、ルクロドが杖を振るったのを見た。エルヴィラは、なるほどと独り言ちた。


 ルクロドとエルヴィラは一つの通りに入った。通りの名前は「杖屋通り」となっていた。名前の通り、杖屋が多く立ち並んでいる。


 エルヴィラは物珍しく思い、それぞれの店の窓を覗き込んだ。王笏のような豪華なものばかり取り扱っている店もあれば、曲がりくねった木でできた素朴な杖を扱った店もある。

 中には杖というより武器のように見える物騒なものもあったし、髑髏が飾られたおどろおどろしいものもあった。


 ルクロドはその中でも指揮棒の様な短めの杖を扱っている店に入った。ルクロドの杖とよく似たものが並んでいる。


「いらっしゃいませ。おや、ルクロドさん。お久しぶりですね。新しい生徒さんですか?」

 太っちょな、気の良さそうな主人が出迎えた。

「いや、養女を取った。エルヴィラと言う。これからよろしく頼む」

「エルヴィラと申します。お見知り置きを」

「おやまあ!養女さんですか。ご親戚ですか?何処と無く似ておられますね」

「まあその様なものだ。エルヴィラ、彼はオランド。俺はいつもこの店で杖を買っている。もちろん、お前が他の店が良いならそちらでもいいぞ」


 ルクロドがそう言うとオランドは目を丸くして言った。

「いえいえ、エルヴィラさん、申し遅れました。私はこの店の主人のオランドと申します。ルクロドさんにはいつもご愛顧いただいております。どうかエルヴィラさんも見捨てずにご愛用ください!」

 慌ててそう言うオランドにルクロドは呆れたように言った。

「俺はエルヴィラに好きなようにさせたい。エルヴィラが嫌だと言ったら他の店に行く」

「そんな殺生な!大魔導師御用達という看板を外したらうちの商売は上がったりですよ!ただでさえマーリン仕様の長杖が人気なのに」

 オランドの情けない顔を見て、エルヴィラはクスクスと笑った。あまりにも大袈裟でどこまで本気か分からない。


「ルクロド、この店の杖が良いわ。短い方が使いやすそうだし、デザインも素敵だわ」

 エルヴィラは助け舟を出した。実際、並んでいる杖は水晶と黒檀を組み合わせた品の良いものが多い。


 オランドはその言葉を受けて満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!ではとっておきの物をお見せしましょう!」

 そう言って、いそいそと奥に入り、すぐに一つの箱を持って出て来た。


「水晶に繊細な彫刻を施して、滑りにくく、持ちやすくした逸品です!見た目も美しいでしょう?」

 その杖は持ち手の水晶に柔らかな螺旋状の彫刻が施されており確かに手に馴染んだ。見た目も非常に美しい。


「……素敵」

「じゃあこれにするか。エルヴィラ、少し魔力を流してごらん」

 言う通りにすると、杖の先から眩しい光が発せられた。

「魔力伝導も集約も良いな」

 ルクロドも感心した様に呟いた。

「そうでしょう!これはうちの店でも一番お薦めの品です!特にエルヴィラさんの様な美しいお嬢さんにピッタリです!」

 オランドが調子良く語る。エルヴィラは美しいなどとお世辞を言われて落ち着かなかったが、この杖は気に入っていた。


「ルクロド、私これが良いわ」

「じゃあ、そうしよう。オランド、貰っていくぞ。いくらだ?」

 ルクロドはオランドの言い値をその場で支払った。

 エルヴィラは貨幣価値がよく分からなかったので、大人しく見ていた。


「じゃあエルヴィラ、杖の仕舞い方を教えよう。杖を右手に持って、杖先を左手に当てて」

 エルヴィラは言う通りにした。

「杖に魔力を流して、『仕舞え』と念じろ」

 エルヴィラは魔力を流し、左手の平に熱を感じた。

言われた通りに念じると、左手の中に杖が吸い込まれた。

 エルヴィラは自分の手を見つめたがおかしな所は一切ない。もちろん痛みもなかった。


「取り出す時は、左手の平に右手の人差し指を添えて魔力を込めて『出ろ』と念じろ」

 言う通りにすると一瞬で右手に杖が戻った。

 エルヴィラは何度か仕舞う、出すを繰り返し、自由に取り出せることを確認した。


「これでその杖はお前にしか使えない。どこかに置き忘れても、左手の平からいつでも取り出せるから安心しろ。ただし折れてしまえばもう出し入れできないので、その時は新しいものを買おう」

 エルヴィラは頷き、二人は次の店に向かった。


 次は服を買おうと服屋に入った。カレドニアの女性たちの服装は多種多様だ。男性の様にズボンを履いている者もいれば、さらにその上にスカートを履いている者もいる。

 スカートの丈も様々で、エルヴィラの様に踝丈の者もいれば、膝上の短いスカートに分厚いタイツを合わせている者もいる。

 多くの女性は膝下丈の動きやすそうなフレアスカートかキュロットを履き、ロングブーツを合わせている。

 エルヴィラも膝下丈のワンピース、スカート、キュロットを買った。パフスリーブの短めの袖のブラウスも流行とのことでデザインと色違いをいくつか買ってみた。

 買ったうちの一揃えを店の奥で着せてもらうと、今まで着ていたものと段違いで着やすく、動きやすかった。


「良く似合っている。じゃあ、どこかの店で昼食を食べよう。パブに入ったことはあるか?」

 当然エルヴィラにそんな経験はない。そもそも街で食事など摂ったことはないのだ。

 パブは街中にある立ち飲み屋のことだが、昼間は食事処として人気がある。白身魚の揚げ物とルタバガ(かぶ)が名物だということはエルヴィラも知っていた。


 ルクロドはエルヴィラを連れて一軒のパブに入った。中は大勢の人で賑わっていた。

 空いてる席に着くと自動人形と思われる店員が寄ってくる。


「ご注文は?」

「昼の定食を二つ。それからエールとリモーネの果実水を一つずつ」

「かしこまりました」

 そう言って戻った店員はすぐに注文の品を持って来た。

 

 白身魚の揚げ物とルタバガの素揚げ、グリンピースが一皿に乗っている。どれも新鮮な様で味も良かった。

 リモーネの果実水も初めて飲んだがとても美味しい。エルヴィラは初めての外食を堪能した。

 

「じゃあ次は自動人形を見に行こうか」

 ルクロドは口元を拭いていたナプキンを皿の上に置くと立ち上がった。





皆様お読みくださりありがとうございます!


誤字報告助かります。

評価も励みになります。


なるべく完結まで毎日更新できるよう頑張りますのでお付き合いくださいm(_ _)m

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