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16.魔法使いの城

 翌週、エルヴィラはユーサーに招待され、初めて城に出向いた。


「ようこそ!エルヴィラが来てくれると聞いて、侍従長がとても珍しいお茶を用意してくれたんだ!プルトゥゲザの大使からハポンとカタイのお茶を頂いていてね。面白い味だから楽しみにしていて!」

 何時も以上にテンションの高いユーサーに迎えられ、エルヴィラは少し慄いた。


「お招きありがとうございます。珍しいお茶が飲めるなんて嬉しいわ」

「こちらこそ、素敵なお土産をありがとう。それにいつにも増して美しい顔を見れてとても幸せだよ。今日はゆっくりとしていってくれ給え」


 息を吐くようにお世辞を述べるユーサーにさすがマーリンの末裔だとエルヴィラは妙な感心をしてしまった。マーリンは女好きで知られ、それで何度もトラブルを起こしていたとの伝説がある。


 まずエルヴィラの前に小さな茶器が用意されて、緑のお茶と茶色のお茶がそれぞれに注がれた。

 緑のお茶は甘く爽やかな味がし、茶色のお茶は芳醇で濃厚だった。


「どっちもカメリアの一種の同じ木の葉から作ってるそうだけど、味わいも香りも全然違うよね。ハポンは蒸しててカタイは発酵させてるそうだけど、カタイの方は薬としても服用されてるそうだよ」

「ああ、薬……。確かにこの独特の香りは薬っぽいわね。どんな効用があるのかしら?」

「血流を促進したり、解毒作用があるようだよ。もう一つ変わったお茶も用意したんだ。ああ来たね」


 扉を見やるとガラスのポットが置かれたカートを自動人形が押して入って来た。

ポットの横には草の団子のようなものがある。到底食べ物には見えなかった。


「見ててごらん」

 それを合図に自動人形はその団子をガラスポットに入れてお湯を注いだ。ガラスの中で大きな花が徐々に開いていく。


「まあ、素敵!」

「これは菊花茶というハーブティーの一種だ。花を丸めて固めて乾燥させたものだよ。香りも良いし、味も飲みやすいんだ。入れる時の様子も楽しくて良いお茶だよね。先生が持ってるカタイの薬草誌にも載っているものだけど、本物はやはり興味深いね」

 ユーサーは感動して目をキラキラとさせてそう言った。その顔は普段よりも幼く、でも魅力的に見えてエルヴィラの鼓動を刺激した。


 やはりガラスの器に注がれた菊花茶は淡い黄色味を帯び、香りはほのかだが、味はまろやかな甘味があった。


「……美味しいわね」

 エルヴィラはその優しい味を堪能して、ほっと息を吐いた。

 その幸せそうな顔を見て、ユーサーも笑顔になった。


「さあエルヴィラ、旅行の話を聞かせておくれよ。どんな素敵なものに巡り合えたんだい?」

 ユーサーの問いにエルヴィラは上機嫌で話し始めた。


「ところでエルヴィラはサマイン祭はどう過ごすの?」

 サマイン祭は十月の末日から三日間行われる祭のことだ。収穫を祝う意味と、死者の魂を鎮める意味があり、最終日は死者の日と呼ばれて、亡くなった親族を弔う日でもある。


「死者の日は王国に帰って母のお墓に行く予定よ。伯父様の家で会食もあるの。でもそれ以外は特に予定はないわ」

 カレドニアのサマイン祭は篝火が焚かれ街中がお祭りになると言う。生憎ルクロドが城の祭祀に参加する予定があり、エルヴィラはこのままなら精々昼間にマヘスと街を巡るぐらいだろう。


「先生は祭祀に参加予定だものね。じゃあ、僕達と夜に祭りに行こう。先生にちゃんとお願いするから」

「僕達?テオと?」

「そうだよ。それとも二人きりの方が良いかな?」

 ユーサーはそう言って誘うような笑みを浮かべた。

 エルヴィラはいつもの揶揄いだと思って、笑って首を振った。


「大丈夫よ。多い方が楽しそうだから、皆で行きましょう。マヘスも一緒で良いかしら?」

 前回、街を回った時はマヘスは一緒にはいなかった。しかし、お祭りというなら「友達」のマヘスとも一緒に楽しみたいと思った。


「もちろんだよ!ちゃんとエスコートするから楽しみにしてて!」

「ありがとう!とても楽しみだわ!」

 エルヴィラは思い掛けないお誘いに破顔した。

 それはユーサーにとっていつも以上に魅力的に見えた。




 夕食時にルクロドにその話をすると既にユーサーから申し入れがあったと言われ驚くことになった。あまりの行動の速さに舌を巻く。


「ユーサーは抜け目ないからな。実は今朝にはサマイン祭に誘いたいと申し入れられていた。あいつ一人では心許ないから、テオフラストと一緒ならと許可したんだ」

「そうなのね。マヘスも一緒に四人で回ろうと思うの。夜だし、少し怖いから」

 サマイン祭は元々人を生贄を捧げるような古代の儀式だったという。今でも子供を脅す言葉に「サマインのお化けに差し出すぞ!」という決まり文句があるほど、おどろおどろしいイメージが付き纏う。


 それに令嬢だったエルヴィラにとって夜の外出は初めての事で少し緊張を伴うものだった。

 でもマヘスが一緒なら怖くもないし、とても楽しいものになりそうな気がした。


 ルクロドはエルヴィラの言葉に頷いた。

「それが良い。サマイン祭は魔神や精霊も浮き足立つ。マヘスがいれば良くないものは近付けないから安心して行ってくると良い」

「ええ!ああ、凄い!私の初めての夜のお出かけになるのよ。どんなに素敵かしら!」

 エルヴィラは逸る気持ちを抑えきれず、自然に声を明るく発した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めての夜のお出かけ、しかも友達とだなんてドキドキ物ですね。 2人の友人との距離も縮まるんだろうなぁ~。 肉が獣臭いのは血抜きがちゃんとされて無いからだし、肉が固いのは焼き過ぎなんでしょう…
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