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本日2回目の更新です
「今日は闘技場で模擬戦の見学をしていただきます」
先生の言葉に教室内が興奮のざわめきに包まれた。
男子生徒には剣術や体術の授業があり、試合の時は女生徒に公開している。
何故授業の一環で見学などしなければならないのか謎だが、男子のやる気を出す為とか、誘拐など身の危険が及ぶ事のある女子も剣で闘う姿を見慣れておいた方がいいとか、色々理由があるらしい。
…単に見目の良い男子達の戦う姿が見られるというので女子には好評なのだが。
ちなみに前世の記憶を思い出す前の私は、楽しみよりも殿下や兄が怪我しないかという不安の方が大きくて見ていられなかった。
今は見るよりやる方に回りたいのだけれど。
家族にはまだ、剣を学びたいとは伝えられていない。
「ゾーイ様…大丈夫ですか?」
「———お気遣いありがとう、大丈夫ですわ」
心配するように集まってきた級友達に、私は笑みを向けた。
学園へ復帰してから十日経った。
食事も通常のものへと戻り、昨日から午後の授業も出ていいと許しも得た。
復帰の翌日から殿下は公務で視察に赴くため不在だった。
今日から学園へ来るらしい。
私が倒れたのは殿下のせいだという事は級友達の中で確定事項になってしまっているため、闘技場で私と殿下が顔を合わせる事を心配してくれているのだ。
公務に赴く前、殿下から大きな花束と手紙が届いた。
手紙には「体調が落ち着いたら話をしたい」と書かれてあった。
おそらく互いの噂に関する事だろう。
…殿下が私の事をどう思っているのか。
ヒロインとはどういう関係なのか。
それを知るのは…正直怖い。
強くならなければと思っているのに、いざ殿下と対面してしまうと弱いゾーイが出てきてしまいそうで、会うのが怖い。
闘技場に着くと男子生徒達は既に集まっていた。
本当はなるべく離れた所に座りたかったが、大丈夫と言った手前、いつもと違う場所に座るのはまずいかと観客席の中程にロザリー様と並んで腰を下ろした。
殿下がこちらを振り仰いだ。
離れているので表情までは読み取れないけれど、その視線は真っ直ぐ私に向けられている。
しばらくこちらを見つめていたが、先生に呼ばれると殿下は走って行った。
模擬戦は一対一で行われる。
八組目に兄と対戦相手のクリフォード様が登場すると、観客席から黄色い声が響いた。
攻略対象同士、黒髪の兄と銀髪のクリフォード様、美形の対戦に客席の温度が上がる。
将来は父の後を継いで宰相になるであろう兄と、司祭の道へ進むクリフォード様。
どちらも剣を持つ必要はないのだろうけれど、他の人達よりも上手い。
そして優等生的というか…教えられた事をきっちりと守っている感じだ。
だが…
どこか…クリフォード様の動きに違和感というか懐かしさを感じるのは、気のせいだろうか。
互角の戦いがしばらく続いたが、兄が相手の剣を落として勝利を収めた。
「ゾーイ様、今日はしっかり見ていますのね」
ロザリー様が話しかけてきた。
「いつもは怖くて見ていられないと仰るのに」
「…さすがにもう慣れましたわ」
一瞬動揺したのを悟られないように、私はそう答えて微笑んだ。
最後の対戦は殿下とニコラス様だ。
騎士団長の息子であるニコラス様と殿下は、騎士団の訓練にも参加する事があるので実力が飛び抜けている。
だからいつも最後にこの二人が戦うのが決まりとなっていた。
一際大きな歓声を浴びながら試合が始まった。
殿下の剣はとにかく速い。
無駄のない動きで剣を繰り出し相手を追い詰めていく。
対するニコラス様は力で押さえつけるタイプだ。
殿下の剣を受け止めてもブレる事はない…けれど。
ニコラス様の動きにかすかな違和感を感じた。
試合は一瞬の隙をついたニコラス様の勝利で終わった。