04
私が学園へ戻ったのは、倒れてから二十日後だった。
さすがにこれ以上は休みすぎだと家族に抗議したのだが、見た目が戻らない内はダメだと言う。
ならば元に戻るよう食事の量を元に戻して欲しいと言えば、身体が弱っているのだからダメだと言われる。
私自身はもう健康だと思っているし、部屋でこっそり身体も鍛えているが何ともない。
それなのに過保護な家族がごちゃごちゃ言うのでいい加減キレてしまった。
初めて私が声を荒らげて抗議したのが、父にはよほどショックだったらしく、午前中だけならばとようやく学園へ行く許しを手に入れたのだ。
「ゾーイ!」
兄と共に教室へ向かっていると背後から声が聞こえた。
「殿下…」
「良かった…もう大丈夫なのか」
目の前へ駆け寄ってきた殿下が私を見てその整った眉根を寄せた。
「……随分と痩せてしまったのではないか?」
そっと殿下の手が私へと伸びる。
その手が頬へ届く前に、私はすっと後ろへ下がった。
「ゾーイ…?」
「ご心配をおかけいたしました」
私はスカートの裾をつまみ、頭を下げた。
「お妃教育も長期間お休みしてしまい、申し訳ございません」
「…いや…そんな事はどうでもいい…顔を上げてくれないか」
頭を下げたままそう言った私に殿下は戸惑っているようだった。
顔を上げると殿下と視線があった。
久しぶりの麗しいお顔…
その瞳が不安そうに揺れている。
「ゾーイ…」
「アルバート様!」
殿下の声を遮るように高い声が響いた。
「おはようございます!」
パタパタと音を立てて廊下を走ってきた…桃色の髪のヒロイン、キャロル・アシュビーは私の姿を認めるとその足を止めた。
「あ…」
「失礼いたします、殿下」
そんな彼女を無視して私はもう一度殿下に頭を下げた。
———記憶が戻る前だったら廊下を走るなんてとか、殿下の名前を呼ぶなんてとか…きっと彼女に苦言を言っただろう。
だけどもう決めたのだ。
私はゲームを降りる。
ヒロインとは関わらない。
「ゾーイ!」
背を向けようとした私の腕を殿下が掴んだ。
「待ってくれ…」
「…何か?」
首を傾げると、困惑したようにその瞳が揺れる。
「あ、その…今日の昼食は一緒に食べないか」
「申し訳ございません、しばらく午前中で帰るよう父と約束しておりますので」
「だが…昼食くらいいいだろう」
殿下の手に力がこもる。
ふいに引き寄せられ…ふらついた身体を、反対側から伸びてきた腕が抱きとめた。
「殿下。ゾーイはまだ体調が戻っていないのです」
そう言って私を抱き寄せた兄は殿下の手をやんわりと払った。
「まだ食事も通常に戻っておりません。申し訳ございませんが、しばらく殿下のお相手は控えさせてください」
兄の言葉に殿下の目が見開かれた。
「それは…」
「行こうゾーイ。失礼いたします」
私の肩を抱いたまま、兄は歩き出した。
殿下の隣から強い視線がこちらを睨み続けるのを、私は背中で感じていた。