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「ゾーイ…すまなかった」
控え室に移動するなり殿下はそう言って頭を下げた。
「…何度も君を傷つける事をした。詫びたからといって傷が消える訳ではないが…本当に申し訳ない。君に直接謝りたかった」
「———頭を上げて下さい」
このまま土下座してしまうのではないかと思うくらい深く頭を下げる殿下に私は言った。
徐に頭を上げた殿下は…少し、泣きそうな顔をしていた。
殿下の顔を見たら動揺すると思っていた。
完全に嫌いになったのではないし…そうすぐに気持ちが切り替えられるものではないと、前世での経験で思ったからだ。
けれど今、私の心は不思議なくらい穏やかだった。
会場に殿下が入ってきた時も、挨拶をする殿下を見た時も…そして今、殿下を目の前にしても。
殿下を慕う気持ちが消えた訳ではない。
だけど…胸が苦しくなるような感情はなかった。
「もう過ぎた事です。婚約を解消した事で、終わった事ですから」
そう言った自分の言葉が胸にすとんと落ちた。
…ああ、そうか。
私は自らの手で殿下との縁を断ち切った。
それでもう、私の中では終わったのだ。
「———終わった事、か」
殿下は寂しげな微笑を浮かべた。
「そうか。…ゾーイにとって私はもう、過去なのだな」
「…申し訳ございません」
「いや謝らないでくれ。…そうさせたのは私なのだから」
「殿下」
私は殿下を見上げた。
「私はもう殿下の隣にはいられませんが。殿下の手助けとなれるよう、私は私に出来る事を務めさせて頂きます」
「…ああ」
殿下は何かを堪えるように、ぐっと手を握り締めた。
「私は…己の甘さのせいで…大切なものを失ってしまった。もう二度と…今回のような事は繰り返さない」
そこまで言って殿下は俯き、息を吐くと再び顔を上げた。
「心を改めると誓う」
「はい」
本当に、殿下には生まれ変わって欲しい。
頑張って欲しいとの願いを込めて笑顔を向けると殿下はぐっと息を呑んだように見えた。
「ゾーイ…それは逆効果ですから」
ふいにすぐ後ろからクリフォード様の声が聞こえると肩を掴まれ、くるりと身体を回転させられた。
「昔の男に笑いかけないで下さい」
笑みを浮かべているけれど目は笑っていない顔でクリフォード様は言った。
「昔の男って…」
言い方!
「…ゾーイと…クリフォードは」
掠れたような殿下の声。
「その…」
「今両家で話し合っておりまして。近く婚約する予定です」
兄が答えた。
「婚約…」
殿下の瞳が揺れた。
「そう、か…」
「ゾーイは私が責任を持って幸せにいたします。どうかご心配なく」
私の肩を抱いてクリフォード様が言った。
「…ああ…ゾーイを頼む」
「殿下。戻りましょう」
顔をこわばらせた殿下は兄に促されるまま、部屋を出ていった。
本日もう一話更新予定です。




