12(別視点)
「知らせてくれて良かった」
エイデンはそう言うと殿下を見た。
「殿下に言いたい事は色々とありますが、とりあえず…これは推測ですが、王女の行動は罠だったのでは?」
「罠…?」
「殿下との逢瀬をゾーイが目撃したとは、出来過ぎな気がします」
妹が修道院入りを望んでいると聞いたばかりだというのに、いやに冷静だな。
そう思ったが、三日前のゾーイも随分と落ち着いていたと思い出す。
———この兄妹は怒り過ぎると逆に冷静になるタイプなのだろう。
「それはその場にいたロザリー嬢も言っていましたね」
そう言うと殿下とエイデンがこちらを見た。
「ロザリー嬢も…この事を知っているのか」
「修道院入りの事は伏せていますが、事実確認に必要でしたので。あの時は音楽の授業の直後でしたが、王女は授業に出ていなかったそうです。それなのに音楽室から教室へと戻る途中で殿下と会っていた。本人なり級友なりに見せるのが目的であったのだろうと」
そこまで言って、私は殿下を見据えた。
「ゾーイ嬢が走り去った後、王女は笑っていたそうですよ」
次期国王ともあろう者がハニートラップにかかるのも情けないが…ゾーイの言う優柔不断な優しさにつけこまれたのだろう。
…こんなキャラ設定にした覚えはなかったのだが。
まあ、ここは私の作ったゲームの世界ではあるけれど、ゲーム通りに事が動く訳でもないから仕方ない。
「そんな…」
すっかり青ざめた殿下を横目にエイデンは立ち上がった。
「それでは私も帰ろう。…クリフォード、ゾーイの修道院入りを回避する方法はあるのか?」
「それは話し合い次第ですが、少なくとも殿下との婚約解消は必要ですね」
「———そうか」
ゾーイと同じ青い瞳が私を見る。
「お前は満足だろうな」
殿下には聞こえないくらいの声。
「何がでしょう」
「ゾーイを見る目に気付いていないと思ったか」
何だ…バレていたのか。
「…まあ、ゾーイが幸せになれるなら殿下でなくともいいが」
「ああ、それなら自信がありますね」
この世界に生まれたのは、ゾーイを幸せにするためと言っても過言ではないだろう。
初めて自分が責任者として関わったゲームの、一番思い入れのあるキャラであり、学生時代の友人から何度も話を聞かされ続けていた…気になっていた女の子なのだ。
「そうか」
苦笑するように口端を緩めたエイデンが生徒会室から出て行こうと、ドアを開けた向こうにユーディット王女が立っていた。
「———何かご用ですか」
途端にエイデンから放たれる冷気と冷たい眼差し。
…よく私の目は氷のように冷たいと言われるが、この男もなかなかだと思う。
「…ニコラス様をお見かけしたのでもうお仕事が終わられたかと思いましたの」
さすが王女というべきか。
エイデンの冷たい眼差しに一瞬ひるんだものの、すぐに持ち直して王女は答えた。
「それで?」
「アルバート様にお話がありますの…」
「…何だ」
王女は部屋に入ってくると殿下の前に立った。
「この間の事なんですけれど…」
俯き、手を胸の前で重ねる。
「あの時は…ああ言ったのですが…やっぱり諦められなくて…」
私とエイデンを気にする素振りを見せながらも、目を潤ませそう言う王女の姿は———正直、滑稽だ。
エイデンをちらと見ると、やはりひどく冷めた眼差しで王女を見ている。
「それで、あの…」
「私はもう二度とあなたの顔を見たくない」
「…え」
初めて聞くような殿下の冷たい声。
王女も驚いて顔を上げた。
「アルバート様…?」
「名前も呼んで欲しくない」
一度も王女と目を合わせる事なく殿下は部屋を出て行った。
「アルバート様!」
後を追おうとした王女の腕をエイデンが掴んだ。
「痛…何をしますのっ」
「それはこちらの台詞だ」
エイデンは王女を見据えた。
「王太子を誑かし我が妹を陥れた。とんだ奸婦だな」
「なっ…無礼だわ」
「無礼なのはどちらだ」
そう言うと掴んでいた王女の手を乱暴に振り離す。
「今回の件はアードルング王国に正式に抗議するからそのつもりでいろ」
そう言い捨てるとエイデンは部屋から出て行った。




