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「ゾーイ」
私の姿を見ると殿下は嬉しそうに目を細めた。
「やはりよく似合っている」
「ありがとうございます」
笑顔で返して差し出された手を取る。
「殿下も素敵ですわ」
いつもはふんわりとした猫っ毛を、丁寧に撫でつけ額を出した殿下は黒いテールコート姿とも相まっていつもの柔らかな印象は少なく、大人びて見える。
殿下のエスコートで会場内に入ると私達の姿を認めた生徒の間からどよめきが起きた。
「みんなゾーイが綺麗だから見とれているね」
「まあ…見とれているのは殿下にですわ」
うふふと効果音が付きそうな笑みを浮かべて答える。
お互いに褒め合うとかちょっとバカップルぽい気もするけれど。
殿下は私が倒れた原因という不名誉な噂を立てられてしまったので、こうやって仲の良い所を見せるのも大事なのだ。
全員が集まり、生徒会長である殿下の挨拶が終わるとあとは自由時間だ。
長い夏季休暇の間は領地へ帰る者も多く、友人と別れを惜しんだり意中の相手をダンスや会話に誘ったりと駆け引きも繰り広げられる。
婚約者のいない者にとって学園は大事な出会いの場でもあり、普段男女別の教室で授業を受けているためこういったパーティーは貴重な時間なのだ。
私は殿下と二曲踊った後、休憩するために壁際へと向かった。
途中まで殿下も一緒だったのだが、ダンスを踊ってもらおうとする女生徒達に囲まれてあっという間に引き離されてしまった。
仕方なく一人歩いていると、目の前にすっとグラスが差し出された。
「…クリフォード様」
「飲み物はいかがですか」
「ありがとう…ちょうど喉が渇いたと思っていましたの」
私へグラスを渡すと、クリフォード様は背後を見た。
「殿下は相変わらず女子に囲まれていますね」
「ええ」
「よろしいのですか?」
「せっかくの機会ですもの、邪魔をするような無粋な事はいたしませんわ」
卒業してしまえば王太子は雲の上の人。
間近に接する事ができるのは学生の間だけなのだ。
彼女達にとって殿下と会話をしたり踊る事は一生の思い出となるだろう。
それが分かっているから殿下も彼女達を無下にはできない。
だがあれだけの数からダンスのパートナーを選び出すのも難しい。
だから結局、去年と同じように殿下は誰とも踊れずに言葉を交わすだけで終わってしまうのだろう。
優しすぎるのも罪なのよね。
そんな事を考えていると、殿下を見ていたクリフォード様がこちらを向いた。
「ところで今日のドレスは殿下のお見立てですか」
「ええ」
「とても素敵ですね。———私としてはあの赤いドレスの方が似合うと思いますけれど」
あの?
それって…もしかしてゲームで着ていた…。
「ゾーイ嬢、少し内緒話をしたいのです」
私を見つめてクリフォード様は言った。




