一緒に帰っちゃう系男女
というわけで、俺と彩夏は友達なので下駄箱付近で待ち合わせて一緒に帰ることにした。なんと、彩夏は俺と同じ電車のユーザーで、隣駅だったのだ!
「もうよくない? その独白」
まあ細かいことはいいじゃないか。それより早いところ帰ろう。結構遅くなっちゃったし。
「ごめん。文化祭の実行委員決めで時間かかっちゃって」
あー、そういうのは時間かかるよな。でも彩夏なら『能力を失うか、文化祭の実行委員をやるか、今すぐ選べ』って言えば誰でもやってくれそうじゃない?
「遼って人格破綻者だよね」
友達なのにそんなことを言うのか。やっぱり彩夏との友達観はーー
「その話はもういいって。水掛け論だから。それにしても本当に友達として一緒に帰ることになるとは思わなかった」
そうか? 俺弱み握られているし当然じゃない?
「う〜ん。まあ、そうよね」
不服か?
「ちょっとね」
何が不服なんだ。
「別にいいじゃない」
何だよ。友達なんだから言っちゃいなよ。
「友達という関係性を都合よく使わないで」
おっと、これはまた友達観論争か?
「一人でやって。ちょっと待って。あれ見て!」
彩夏が指差す方を見ると、腰が少し曲がったおじいさんと、オールバックにサングラス、ポケットに手を突っ込んだ時代錯誤どころかタイムスリップしてきた感満載な不良が口論していた。いや口論というより不良の方が一方的に騒いでいるようだった。
「悠長に独白している場合じゃないでしょ! しかも不良側に描写のシーソ傾きすぎじゃん」
しょうがないだろ。心の声ってこういうもんなんだから。
「おい! お前ら、何見てんだ!」
うわ、やば! 彩夏が指差すから見つかったぞ!
「いいのよ。最初から助けるつもりだったんだから」
彩夏はグイグイと勇ましく歩き、不良と対面した。俺も渋々付いていく。
「何だお前? 女のくせにやろうってのか?」
「女のくせに? 遼、やっぱりこいつ過去からやってきたようね」
そうだな。こいつの時代にはまだジェンダー的な概念がなかったんだろう。
「ああ? そんなこと言ったらお前らだって見た目だけで俺が悪いみたいに決めつけるのはおかしいだろ。しかもどうしていつのまに過去から来たことになってんだよ」
やべ。聞こえてた。
「じゃあ何? このおじいさんが悪いってわけ?」
「そうだ。このジジイがぶつかってきたんだよ」
「腰が悪くてあまり前が向けんもので……。目も霞んでよく見えんし、すまんのう」
「やっぱり見た目通り不良の方が悪いんじゃん」
おいおい……あまり挑発するなって……。どうせ話のわかるやつじゃないんだから。
「そこのブツブツ野郎が一番悪口言ってるぞ。聞こえてねえっと思ってんのか?」
「まあ聞こえてもいいと思ってるんじゃないかしら」
「ムカつくやつらだ」
その不良は両手をこちらに向けーー
「独白、気が散るからやめて」
すんません。そういう性分なもので。
そしてバチッと音が鳴った。
「ど、どういうことだ? 確かに電撃を放ったはず……」
「私の能力はすべてを無効化するの。無駄だから」
「なら、ぶん殴ってわからせてやる!」
「やめといた方がいいわ。私に触れたらあんたのその自慢の能力もなくなるわよ」
「やってみなきゃわかんねえだろ!」
【前言撤回】
「あれ? なんで俺はここにいるんだ?」
「はて? わしは一体何をしていたんじゃ……」
よし、これにて一件落着……。
「全然一件落着じゃないわよ! この不良には自分が悪いことをしたって教えることができなかったし、なぜかおじいさんも巻き添え食らって記憶を失っているし、非人道的でその場しのぎな解決方法じゃない!」
でも俺が止めなかったら殴られていたんだぞ。
「そんなわけない! 私の能力にビビって殴ってこなかったはず!」
まだわからないのか!? 危ないから言ってんだ! 怪我したらどうすんだよ!
「え? あ、あの……ごめんなさい……」
い、いや、こっちもつい強く言い過ぎた。ごめん。
そして気まずい沈黙が流れた。
「だから心の声漏れているんだって。それじゃ沈黙じゃないじゃん。もういい、帰るよ!」
ほ〜い。
でも本当、怪我しなくてよかったな。
「ん? 何か言った?」
いや何でもないよ。早く帰ろう。