友達って何だろう系男女
次の日。俺はまた昼休みに自販機へと向かった。
というのも友達になったあの子。名前を聞くの忘れ、クラスもわからず、友達になった割に会いようがなかった。自販機に来ればまたいるかと思い、こうしてやってきたわけである。
「一人でブツブツ言ってどうしたの? やばくない?」
振り返るとそこには昨日の金髪の子が立っていた。
「そりゃいるでしょ。私が話しかけてんだから。てかまた心の声もれていますけどー」
心の声はもう仕方ない。諦めた。
それよりも会えてよかった。昨日会ったここならいるかなと思って来たわけよ。友達になっておきながら名前もクラスもわからなかったからさ。
「あら、意外と律儀なのね」
いや俺の真実をバラされたら嫌だからさ。
「ふーん。その調子だと心の声のせいで自分でバラしていそうだけどね」
え? マジで? ちょっと今から全員の記憶を消してくる。
「そんな物騒なことやめなさいよ。あくまでも推測なんだし。ってかもしバレていたら、あんたに近づく人なんていなくなるんじゃないの?」
なぜ?
「誰だって自分の記憶消されたくないでしょ?」
確かに。でももし皆が自分の能力を知って距離を置こうとしたら、それこそ自分の能力に関する記憶を消せばいいよな。
「あんた危険思想すぎ」
大丈夫。バレなきゃそんな思想持っていないのと同じだから。
「やべえやつだわ」
おい、友達にそんなこと言うな。
「あーそういえば友達なんだった。忘れるところだったわ。あんたの能力のせいかも」
そんなわけないだろ。能力効かないんだから。
「ふん、まあいいわ。そんなことより今日学校終わったら一緒に帰らない?」
どうして?
「そりゃ友達だからよ」
なるほどね。友達なら友達らしいことすべきだよな。でも友達らしいって何だ?
「それは……。私にはわからない」
何だよそれ。友達が何かもわからないのに『友達になろう』なんて言ったのか? おかしなやつだな。
「じゃああんたはわかるの?」
もちろん。友達ってのはな……。
「友達ってのは?」
友達ってのは……。何だろ?
「あんたもわかんないんじゃない。今更だけど友達なのに名前も知らないなんて、それこそおかしな話ね」
言われてみればそうだ。
「ってかあんたも名前聞いてなかったとか思わなかったの?」
そういえば思わなかったな〜。思えばクラスメイトの名前もよく知らない。
「自分自身に能力使ってんじゃないの?」
自分の記憶を消すやつがいるかよ。
「そう? 嫌なことなら忘れたいんじゃない?」
確かに。
「あんた反応薄いよね」
まあね。だからいつもこの能力使って会話をやり直してる。
「めんどくさそうね。なんで名前も覚えていないようなやつらとそんな面倒なことまでして会話しようとするの?」
いやだって、浮いたら嫌じゃん?
「それ私に言っちゃう?」
なんで? 言っちゃ悪いか?
あ、わかった。いつも浮いているからこそ、友達になってくれって俺に言ったのか。
「失礼ね。その心の防音性どうにかならないの? 全部ダダ漏れなんだって。それともそれがあんたの喋り方なの?」
悪かったな。
「そうやって心の声が突き抜けだから、表面上の付き合いしかできないのよ」
うるせ。ぼっちよりマシだわ。ってか、なんでさっきからニヤニヤしているんだ?
「え!? ウソ!?」
笑いながら怒る? 怒りながら笑う? どっちでもいいけど気味悪い。
「うるさい!」
おい! やめろ! 君の蹴りが当たったら俺の能力なくなるんだぞ!
「そんな能力なくなれば!?」
うわ、友達とは思えない発言だ。まあでも名前も知らないし友達でもないのかも。
「じゃあ私は2年8組の佐々木彩夏」
じゃあ、って何だよ。
「だって名前知らないと友達じゃないかも、って言ったから……」
なんだかんだ俺の言ったこと気にしてんじゃん。じゃあ俺は2年4組の高木遼。
「遼ね。ってか『じゃあ』って真似しないで。」
え? いきなり下の名前で呼ぶの?
「友達ってそういうものじゃないの?」
俺の友達観は最初苗字で徐々に下の名前へ移っていくって感じだったから強烈な違和感。
「徐々に、って、その境目は何よ?」
それはその……徐々に、だよ。
「何よそれ。答えになってないじゃない」
徐々に、が答えだよ。本当、彩夏の友達観がわからない。
「彩夏って下の名前で呼んでいますけど」
あ。
「あ。じゃないわよ。まあこれで私の友達観の勝ちということで」
俺は彼女に勝ちを譲ってやった。それは俺が大人だからである。
「遼。独白に逃げて自分のことを良く言おうとするんじゃない」
はい。申し訳ございませんでした。
「何その心のこもっていない言い方?」
こもっているだろ? 心の声なんだから。
「心の声なら心がこもっているものなの?」
いやまあ『心』という言葉つながりでいけるかなって。
「勢いでごまかそうとしたわけね」
そうだよ。ってか友達なんだからそんな細かいところ突っ込まないで流してくれよ。
「いやいやむしろ友達なんだから、悪いことをしたらしっかり謝りなさいよ」
いやいやいや友達なんだから、独白に逃げるくらい良いでしょ。
「いやそれは友達以前に人としてまずくない?」
確かに。それもそうだ。
「はぁ……。それにしても遼の友達観がわからないわ」
こっちこそ彩夏の友達観がわからないな。
「友達って何だろう」
友達って何だろう。