京都で舞妓体験
修学旅行の1日目は奈良東大寺などを見学し、2日目に京都に移動した。
『これからグループ毎の行動になります。くれぐれもマナーを守って他の学校の生徒とトラブルにならない様気を付けて下さい。なにかありましたら先生のところに連絡して下さい。』
このみたちはこれから直ぐに舞妓体験に向かう。
観たいところはたくさんあるが、このみの班のメンバーはみな観光より舞妓体験がメインに考えている。
その発端は加藤桃華だった。
『今井さん。』
このみと桃華は三年生になって初めて同じクラスになった事もあり会話自体初めてだった。
『今井さんって着物の勉強をしているんだよね?修学旅行で一緒に舞妓体験やってみない?』
桃華に言われるまでもなく舞妓体験はしてみたいとこのみも考えていたが、時間も予算も限られている修学旅行では難しいと思っていた。
『加藤さん、舞妓体験したいの?』
『うん。私、舞妓になりたくて。』
桃華はただ舞妓体験をしたいのではなく本気で舞妓になりたい様だ。
『今井さんって凄いよね。自分がこうなりたいって思う事に真っ直ぐ進んでいるし。』
『そんな事ないよ。私の場合、偶然が重なっただけだし。』
このみは謙遜するが、確かに運が良かったとは思う。
『今井さんと一緒にいたら私も夢が叶えられそうな気がするの。是非一緒に舞妓体験して下さい!』
桃華が本気で舞妓に憧れているのがこのみは私は分かった。
『加藤さん。先生の許可が必要だけど一緒にやろう。私も協力するよ。』
このみが桃華に協力をすると言った事で、小学校時代から仲の良い真理や服飾部で和装にも関心の高い実花が班に加わった。
京都駅からタクシーで舞妓体験の店に向かう。
『いかにも京都って街並みだよね。』
地元のF谷市も街道沿いに昔からの建物が残っているが京都はレベルが違う。
タクシーは鴨川を渡り、四条通りの東端である祇園に着いた。
『え?ここ?』
予約をした舞妓体験の店は昔からあるお茶屋そのものだ。
『あの、埼玉のF谷三中で予約をした者ですけど。』
『おいでやす。えろ遠いとこからようお越しなしたなー。』
玄関でおかみさんの様な女性から招かれた。
『宜しくお願いします。』
『裕美と申します。私が皆さまのメイクと着付けを担当させて戴きます。皆さまはどのような舞妓さんになりたいですか?』
担当の裕美からカウンセリングを受けるが、どのようなと言われても真理や実花はよく分からない。
『一口に舞妓と言っても新人ともうすぐ芸子になるベテランとじゃ全然違うんだよ。私は赤い襟が良いから新人の舞妓さんが良いです。』
『よくご存知ですね。メイクも可愛い感じに仕上げますね。』
育三郎から伝授されたうんちくが少し役に立った。
『私は大人っぽい方が良いかな?』
真理はベテラン、実花はその中間くらいの姿を希望した。
桃華はこのみと同じ新人だが着物とメイクで違う様に仕上げる事になった。
更衣室で下着に着替え、メイク室に向かう。
白塗りの顔になり、目尻に厄除けの赤と口に紅を入れる。
かつらは自毛を生かした半かつらだ。
『舞妓さんらしい顔だね。』
普段の和装とはメイクも髪型も全く違うので不思議な気分になる。
着付け室で着物を選び、帯を絞めて簪を付けると立派な舞妓の誕生だ。
このみは赤、桃華はピンク、実花は紫、真理は黒とイメージに合わせた着物を選んで、お座敷で撮影をする。
カメラマンから指導され舞妓らしいポーズで撮影をしてもらい、その後で近くの花街を歩く。
石畳の上を歩くと独特の音がして気持ちが高まる。
『マイコ、ビューティフル!』
外国人観光客からカメラを向けられ、4人の回りには輪が出来て身動きが出来ない。
『お、なんだなんだ?』
『舞妓がいるらしいぞ!』
修学旅行の中学生たちもやって来る。
『うちの男子たちだよ。』
見ると同じクラスの秋野や遠山、それに清水豊がいた。
『やだ、どうしよう?』
『大丈夫、この顔じゃバレないよ。』
不安がる実花に対してこのみは堂々としている。
『あの、一緒に撮ってもらって良いですか?』
遠山が申し出て、ツーショットで撮ってもらう。
普段はこのみの方が背が低いが、かつらとぽっくりのお陰でこのみの方が背が高く見える。
(鼻の下伸びてる。)
遠山は全然気付いていない。
『おおきに。』
『ど、どうもありがとうございました!』
たぶんあの写真をクラス中に見せびらかすつもりなんだろうが、それがこのみだと分かったらどう思うだろう?
『あんさんはお撮りにならないのどすか?』
にわか仕込みの舞妓言葉で真理が豊に勧める。
(真理、ナイスフォロー!)
小学校からの付き合いである真理はこのみと豊の関係に薄々気付いている数少ない一人だ。
『い、いや、俺は……。』
・良いじゃん、こんな事一生に一度くらいしか体験出来ねぇぞ。』
豊は遠山にスマホを渡し、恥ずかしそうにこのみと並んだ。
このみと並んだ豊はかつらとぽっくりでも同じくらいの背丈である。
(入学した頃は普通に同じくらいだったのにな。)
野球を続けている豊は2年間でかなりこのみに差を付けていた。
店に戻り、制服に着替えたこのみたちはお昼ごはんを食べながらスマホで舞妓姿の写真を豊に送った。
[さっきはありがとう。ツーショットの写真、後で送ってくれる?後、二人には言わないで。]
しばらくして写真と共に送られたメッセージは[!]が無数にあり豊がかなり動揺しているのが分かった。




