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日本代表を目指せ

姉の麗が車イスバスケットボールを初めてから2年経った。


最初は車イスからのシュートもままならず相手の車イスの体当たり(故意の体当たりは反則)に怯んで馴染めなかったが、次第に慣れて高校生ながら次期パラリンピックの中心選手に期待される様になってきた。


ただ、車イスバスケットボールは幅広い年齢の選手が活躍しているので今年度は強化指定選手には後一歩というところで逃してしまったのである。


『コーチ、相談がございますの。』


麗が所属している埼玉ブルズの綿貫コーチに相談をしたのは4月の源一郎と康子が結婚式を挙げた数日後の最初の練習日だった。


『男子チームに加わる事は出来ないでしょうか?』


『今井が今のままなら難しいな。』


実際、車イスバスケでは男子チームに加わり大会で中心選手として活躍する選手がいるが、体力差があるので練習に付いていくだけでも厳しい。


『ワタクシも今のままでは代表入りも無理だと思いますわ。だからこそ男子のチームに入りたいのです。』


男子の練習に付いていくだけでもかなりのレベルアップにはなるだろう。


『しかし、関東のチームは練習参加しか認めてないぞ。』


正式な選手になりたいなら地方のチームに行かなければならない。


『ワタクシの目標はパラリンピックに出る事ですわ。来年、強化指定選手になれるなら練習参加で構いませんわ。』


『練習参加で構わないなら埼玉シャークスに紹介しよう。』


こうして麗はゴールデンウィークの後、ブルズに所属したままシャークスの練習に参加する事になった。



『このみさん、週末のご予定は如何でしょうか?』


『いつも通りで特別な予定はありません。』


『でしたら、ご一緒に調布に行きませんか?ワタクシは出られませんが天皇杯の大会があるのです。』


車イスバスケットボールの天皇杯は50年の歴史を持つ大会だが、参加をするのは男子のチームのみである。


『お姉さまが出られないってなにをされるのですか?』


『試合前の練習と来場者に車イスバスケの指導役ですわ。』


大会の期間中来場者に車イスバスケの体験コーナーを設けて啓蒙活動を行なっている。


『お姉さまが実際にバスケをやるお姿を見た事がないので是非行かせて戴きます。』



このみは週末、康子や遥たちと共に東京パラリンピックの会場にもなった東京・調布にある体育館に出向いた。


『きれいな会場ですね。』


隣にはサッカースタジアムがあり、最寄りの駅からも5分くらいで着いた。


会場に入ると車イスの体験コーナーがある。


『車イスの形もみんな違うんですね。』


麗が使うものと同じタイプの車イスの他、障害の程度により大きさも形も違う競技用の車イスがあった。


『宜しければ実際に車イスに乗ってプレイしてみませんか?』


『私が?』


スタッフの女性から声を掛けられ、このみが車イスに乗ってみる。


『これがお姉さまの視線……。』


自宅で練習を手伝う事はあるが車イスに乗るのは初めてだ。


『ドリブルをして向こうのゴールにシュートしてみて下さい。』


ドリブルの間に膝の上にボールを置いてプッシュ(車イスを漕ぐ事)は2回までと説明を受け、ボールを受け取るが車イス越しのドリブル自体が難しい。


上西が撮影したビデオを観た麗はいとも簡単にドリブルをしていたが、そんなものではなかった。


(お姉さまって凄い。)


改めて麗の凄さを実感したこのみである。


衝立の向こう側はコートと特設スタンドがあり、このみたちはスタンドの座席に腰掛けた。


『コートが近くて迫力がありますね。』


コートでは麗が所属する埼玉シャークスと対戦相手の宮城ジェッツの選手たちがそれぞれ練習をしている。


『麗さんもいますね。』


男子に混じり、麗も練習に加わっているが、一方の宮城も女子の選手が男子と共に動き回っていた。


『あの選手凄い!男子と全然変わらない動きをしている!』


遥が宮城の女子選手を指差して驚いた。


確かに、その選手と比べると麗はスピードもシュートの正確さもだいぶ劣って見える。


試合が始まった。


練習参加の麗はピッチで応援するだけだが、宮城の女子選手は先発出場をしている。


『女子選手も出られるのかしら?』


『はい、たぶんあの選手はそういう登録なんだと思います。』


康子の問いにはっきりは分からないがそう返答した。


それにしてもその女子選手は男子に比べ体格差があるにも関わらず縦横無尽な動きを見せ、コーナーの近くから難しい角度のミドルシュートも難なく決める。


『凄すぎる……。』


試合は第3ピリオドまでは拮抗していたが、最終の第4ピリオドで突き放され結果的に宮城の圧勝に終わった。


『あの女子選手、フル出場でしたね。』


他の男子選手は交代で出たり引っ込んだりしたが、女子選手だけは最後まで交代しなかった。


『お姉さま、お疲れさまでした。』


このみは麗のもとに駆け寄り、労った。


『ワタクシはなにもしておりませんわ。今日、見てもらいたかったのは宮城の藤巻選手だったのです。』


『あの女子選手ですよね。』


『ワタクシの目標ですわ。代表入りをするには藤巻選手に近付かなければなりません。』


車イスバスケは障害の程度で持ち点が決まっていて、麗の2.5に対し藤巻は4.5である。


藤巻と同じ様なプレイは麗には出来ないが、一緒にプレイをする事は出来る。


『そのためには正式にうちのチームに登録した方が近道だと思うぞ。』


そう言ったのはシャークスのヘッドコーチの忽那博俊だった。


『コーチ。ワタクシは練習参加の契約ですけれど。』


『まだ男子に付いていくのがやっとだが、他のコーチや選手は今井なら男子チームでも充分やれるという意見でな。ブルズの綿貫コーチとも連絡は着いている。』


『という事は……。』


麗は女子チームのブルズと男子チームのシャークスの両方と契約をしていずれの試合にも出られる事になり、体力のある男子チームに所属して力を付ければ代表入りもより可能性が高くなる。


『但し、今まで以上にきついから覚悟しろ。』


『望むところですわ。』


このみも麗に最大限の応援をしようと決意するのであった。




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