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幸せの天燈上げ

翌日は台北から少し離れて九份という観光地に行く。


『ヤーリン、学校は良いの?』


日本はゴールデンウィークでも台湾は平日なのだ。


『はい、日本語勉強のため言って休んだ。』


確かに、このみたちと一緒に行動するだけで日本語の勉強にはなるだろう。


九份は金鉱で栄えたが金が枯渇した後映画のロケ地として一気に観光名所となった場所である。


日本でも九份にある建物がアニメのモデルになったという噂があり多くの日本人観光客が訪れている。


『この狭いところに車イスで通るんですか?』


九份の街はS字に登る道路の脇から狭い路地が無数に延びて迷路の様になっている。


『車が通るから大丈夫。』


軽自動車なら通れるくらいの路地だが、道路も店も人が溢れかえっている。


『お姉さま、気持ち悪くないですか?』


道はがたがたで、車イスも揺れる。


『大丈夫ですわ。気にしないで下さいませ。』


麗は昨日のショックからもう立ち直っている。


せっかくの旅行に水を差したくはないという思いだ。


『例の建物には行かれないですね。』


アニメのモデルではないと監督に否定されるも、九份に来たらその建物を見ずに帰れないと観光客の目玉なのは変わらないが、その場所は階段になっているために車イスでは近寄れない。


それに加え、ゴールデンウィークのため日本からの観光客でごった返しになっている。


その建物は茶芸館になっていてそこで烏龍茶を楽しむつもりだったが無理みたいだ。


『この先に車イスでも利用出来る茶芸館がありますからお休みしましょう。』


眼下に海を望む場所に茶芸館があった。


『烏龍茶も奥が深いのですね。』


自宅で頼子から茶道を習っているこのみは台湾の烏龍茶をも堪能する。


一向は九份を出て山道を走り、十分という山あいの小さな街に着いた。


鉄道の駅があり、その回りにランタンの店がいくつか並んでいる。


『このランタンに願い事を書いて空に飛ばすんだ。』


色がいくつかあり願い事によって色が違うのだ。


『4人だから一人ひとつづつ願い事を書こう。』


ランタンは4面あるのでそれぞれの願い事を4つ書く事が出来る。


『私は感謝も込めて愛情運にします。』


康子が最初に橙色を選び書き始めた。


『私はやはり事業運だな。』


源一郎が選んだのは藍色である。


麗はなにを選ぶか迷っていた。


『お姉さま、お先に宜しいでしょうか?』


悩む麗にこのみが先に選んだのは赤の布である。


『健康運……ですか?』


『はい、まずはお姉さまの身体が元に戻る様に。お父さま、お母さまがいつまでも健康でいられる様に。それから私も治療が進み無事に手術を受ける事が出来ます様に……。』


そう言いながら筆で書いていった。


『ではワタクシは紫の学業運ですわね。このみさんにはもっと頑張ってほしいですから。』


麗も自分の身体が治る様にと書きたかったが、このみが書いてくれたので感謝の気持ちで紫を選んだ。


『ここで上げるのですか?線路に入ったらいけないって書いてあるのに。』


確かに立ち入ると罰金という立て札があるが、他の人たちも平気で線路の上でランタンを上げたり線路を横切っている。


『そもそも線路を横切らないと向こうには行かれん。』


立て札はあくまでも形式上なのであり、列車が来る時間を外せば自由に線路を行き来出来るらしい。


ランタンの内側に火を着けて、手を放すと空高く舞い上がった。


『さ、瀑布まで歩きましょう。』


暫く歩くと十分瀑布という名所があり、整備された道を進んで行く。空を見上げると歩いている方向にランタンが飛んでいて道ばたにも力尽きたランタンが落ちている。


『うちのはどこまで飛んだかな?』


そんな事を言いながら瀑布に到着した。


『思ったより大きくないね。』


台湾のナイアガラとまで言われ、台湾一の名瀑という触れ込みだっただけに少しがっかりしたが、涼しくて気持ちが良い。



台湾最後の夜はヤーリン父娘も一緒に海鮮料理の店に行く。


『ヤーリン、ありがとう。来年日本に来るの待っているからね。』


蒸した魚を食べながらこのみはヤーリンに感謝する。


『このみ……。クァアイウェイニャンなんて言ってごめんなさい。このみは偽物なんかじゃない、本物女の子だよ。』


『ありがとう。でもやっぱり私は偽娘だから。でも本物を目指す気持ちは誰にも負けないつもり。』


このみはきっぱり言った。


『このみさんらしくない強気な発言ですわね。もちろん、知香さんにも負けないという事ですか?』


『はい、ランタンにも小さくですが書きましたから。』


『健康運とは違うのではないか?』


源一郎が横やりを入れる。


『いえ、無事に手術をする事は本物の女の子に近付く一歩ですからつながっていると思います。』


『ワタクシもこのみさんには期待していますわ。たまにワタクシが落ち込んだら助けて下さいませ。』


麗はやはり昨日の事が気になっている様である。


『はい、お任せ下さい。』


このみは力強く麗に返事をした。


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