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台北のメイドさん

『メイフェン、私の先輩。日本語の先生。』


ヤーリンが説明してくれた。


最初からこのみたちに付く様になっていたらしい。


『このみお嬢さまのお話を聞いて私も是非お会いしたいと思っていました。』


メイフェンにそこまで言われると逆に恥ずかしい気がする。


ワッフルの皿にはチョコレートでイラストとサインが書かれ、メイフェン特製のふわふわ魔法はピンク色のドリンクだ。


『甘い!』


このみがドリンクを一口飲むと不思議な味がした。


『お嬢さまの写真、メイドの持ってますか?』


メイフェンもこのみが以前メイドだった事を知っている様だ。


このみはスマホの写真ホルダーからメイド時代の写真を見せた。


『可愛い~、萌え~!』


これではどちらがメイドだか分からない。


このみはメイドの写真をホルダーに分けているので知香とのツーショットや上西と頼子の結婚パーティーの時のもの、文化祭でメイド喫茶をやった時のものがまとめられている。


『この娘も萌え~だね。』


『この人もクァアイウェイニャンです。』


知香を偽娘の先輩と紹介した。


『日本のクァアイウェイニャン、レベルが高いね。』


偽娘というが、このみも知香も性同一性障害なので少し違う気がした。


『台湾では手術をしなくても戸籍を変える事は出来ますし、偽娘もいっぱいいます。』


『戸籍だけ変えて、手術をしない人っているんですか?』


『分かりませんが、手術のためにタイに行く人は多いみたいです。』


なかなか興味深い話を聞けてこのみは満足だった。


『この街、ゲイ多いよ。』


店を出てヤーリンがぼそっと言う。


確かに西門町は華やかだが、日本統治時代に建てられたというレンガ造りの西門紅樓が独特の存在感を放っている。


このみの住むF谷も明治の頃からレンガ工場があり、今でもその施設が残っているが、賑やかな街中にある古い建物になにか惹き付けられそうだ。


『西門紅樓の奥はゲイのお店ばかりよ。』


西門町は渋谷や秋葉原だけでなく新宿2丁目の要素も兼ね備える台湾カルチャーの拠点だったのだ。


さすがに中学生のこのみたちは遠巻きに見るだけで足を踏み入れたりはしないが、興味は津々でうしろ髪を引かれる様に西門を立ち去った。


ヤーリンに連れられ、再び電車に乗って移動をする。


昼に来た路線に乗り、地下から高架に出て劍潭という駅で降りると、改札の前で源一郎たちが待っていた。


『お父さま!』


『どうだこのみ、楽しかったか?』


『はい。とても楽しいです。台湾が好きになりました。』


『まだホンの少しだ。もっと楽しみなさい。』


このみはわくわくするが、大人と一緒だった麗は面白くない。


『このみさんだけズルいですわ。』


『申し訳ございません、お姉さま。案内されたところは人が多すぎて車イスでは難しいです。』


『ワタクシも自由に歩きたいですわ。』


麗が珍しくやっかみを入れる。


普段は一切下半身不随になった事を言わないが、非日常の海外旅行で本音が出たのだろう。


道路を渡るとたくさんの屋台が出ていて活気に道溢れている。


『お姉さま、タピオカミルクティ、飲みませんか?』


少し拗ねている麗にこのみは機嫌取りをする。


『この様なお店で大丈夫なのでしょうか?』


『私も飲みたいわ。ヤーリンちゃんの分も合わせて買ってきて。』


心配する麗を尻目に康子が言った。


『麗さん、こういう時は存分に楽しみましょう。』


庶民的な場所では康子の方が慣れている。


いつの間に源一郎はコンビニで買ったビールを飲みながら揚げ豆腐の様なものをつまんで食べている。


源一郎が屋台で飲み食いするなんて日本ではあり得ない光景だと思う。


『実はこういう雰囲気が好きなんだ。麗に言うと怒られるから言わなかったがな。このみもひとつ食べてみなさい。』


楊枝を刺して口に持っていくと少し匂う。


『臭豆腐だ。揚げてあるから臭いはだいぶ少ないが、本当はもっと臭いんだ。』


これがビールにはよく合うらしいがタピオカミルクティには合わない。


食べ物の屋台だけでなく、えび釣りなどという店もあり、釣り上げたえびはその場で焼いて食べる事も出来るらしい。


歩いていくと異様な光景に出会い、顔を背けた。


『……こじ……?』


露店の一角で物乞いをしている男性がいるが、その男性には手足がなく、泣きながら身体を上下させている。


『見ない振りをするんだ。』


源一郎に耳打ちをされその場を立ち去るが、車イスの麗が強いショックを受けているのが分かる。


強い精神力で下半身不随というハンデを乗り越えてきた麗だったが、親が金持ちだからという側面もあった。


もし社会から見棄てられたら自分もこうなるかもしれないという恐怖感が一気に襲って来たのである。


『お姉さま、大丈夫です。私はずっとお姉さまと一緒です。』


貧困生活に耐性のあるこのみは力強く麗に言った。


麗の不安は一気に拭えるものではなかったが、今はこのみに寄り添って打ち消すしかなかった。


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