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陽菜の入学

始業式の翌日はいずみたち新一年生の入学式である。


今年の入学式は従来の詰め襟、セーラー服の制服に混じってブレザーの制服を着た生徒もちらほら見えた。


このみたち三年生は、登校してきた一年生の制服の胸にリボンを付けて案内をしている。


『今井先輩、おはようございます。』


このみを見付けたいずみが声を掛けた。


『おめでとう、いずみちゃん、双葉ちゃん。』


いずみはいざという時に卒業した姉のセーラー服を着る事も出来るので新制服のモニターにはなっていないが、祖母が制服を取り扱う洋品店をやっている双葉はブレザーの制服を着ている。


『二人とも違う制服だけど似合うよ。』


いずみは一年B組、双葉はA組と分かれてしまった様だ。


『……今井さん……、おはようございます。』


ブレザーの制服にスラックスを穿いた中田陽菜が登校してきた。


『陽菜ちゃん、おめでとう。』


陽菜はショートカットにしていて、可愛い男の子にも見える。


『……変じゃないですか?』


『ううん、似合うよ。』


このみが陽菜の胸にリボンを付けながら言った。


陽菜はいずみと同じB組である。


『あの子ね。FtMかもしれないっていうのは。』


『あ、先生。おはようございます。』


養護の浅井先生に問い掛けられ、このみが答える。


浅井先生はこのみも知香もずっと相談相手になってくれていた。


『FtMの子はMtFとまた違うからね。私も初めてだしまず話を聞いてみたいわ。』


『後で保健室に行く様に言いましょうか。』


『いえ、担任に言ってもらうわ。』


一年B組の担任は3月まで知香のクラスを受け持っていた木田先生だ。


木田先生と浅井先生は同期で、大学生の頃に一緒に新宿2丁目でよく飲んでいたと聞いている。


一年生全員が受付を終え、三年生たちも片付けをし始めていたのでこのみも手伝いに加わった。


入学式が終わり、このみは保健室に行った。


『失礼します。』


『どうぞ。』


まだ陽菜は来ていない。


『木田先生がまず中田さんのお母さんを交えてお話するって言ってたから少し遅くなるって。悪いけど少し待っていてくれる?』


浅井先生がこのみにお茶を淹れて差し出した。


このみ自身、まだ小学六年生だった頃にこの保健室で浅井先生や知香から話を聞いた時の事を思い出す。


あの時はまだ衝動で女装をしただけだったが、知香に惹かれ自分も知香の様に女の子として中学に通いたいという気持ちが高まったのがこの保健室だったのだ。


電話が鳴り、浅井先生が受話器を取った。


『今井さん、応接室に行きましょう。ここは狭いからね。』


陽菜たちは応接室で話をしているらしい。


保健室の鍵を掛け、二人が応接室に行くと果たして陽菜と陽菜の母、木田先生が待っていた。


『失礼します。』


『今お話をした養護の浅井先生と三年の今井このみさんです。』


『陽菜の母の中田冬美と申します。宜しくお願いします。』


陽菜の母、冬美は娘の入学式という事もあり春らしいフォーマルなスーツを着ている。


『陽菜さんと今井さんは顔馴染みなのよね。今井さん、女の子として学校に通う様になった経緯を簡単にお話してもらえるかな?』


ある程度木田先生と陽菜母娘の間で話は済んでいるという感じだった。


『はい、私は小学六年生の時、三中の文化祭で先輩の白杉知香さんにお会いして話を聞き、女の子になりたいと言いました。その前からそういう意識はありましたが、話を聞いた事で白杉さんの様になりたいって強く思う様になったんです。浅井先生と白杉さんからは焦る必要はないと言われましたし、家庭の事情でそれからなかなか踏み切れませんでした。』


陽菜も現時点では同じ様な位置だと思う。


『中田さん自身、どう考えていますか?』


木田先生が陽菜に問う。


『身体の変化とか女だからこうじゃなきゃいけないっていうのは嫌だけど、無理に変えるとかは考えていないです。』


以前と同じ答えだ。


『お母さんはどう思われますか?』


『私もうちの主人も陽菜が他の女の子と違うのは分かっていましたが、このまま女の子でいてほしい気持ちはあります。でも、最終的には陽菜の意思を尊重したいと思っています。』


『木田先生、ちょっと宜しいでしょうか?』


このみが発言の許しを得る。


『陽菜ちゃんは優しい子だからお父さんお母さんの事を思ってまだ悩んでいるのではないでしょうか?私もその後きっかけがあって、その時に友だちからも応援があって決断をしました。陽菜ちゃんもそういう時が来るかもしれません。』


うつむき加減で聞いていた陽菜は軽く頷く。


『中田さん、今井さんにも言ったけど結論を焦らないでね。まずは中学生活に慣れる事。制服の事とかでクラスの子からなにか言われるかもしれないけど、いつでも相談に来て良いから。』


『私も応援するからね。一緒に頑張ろう。』


陽菜は再び軽く頷いた。



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