今井このみの新学期
春休みが終わり、このみは3年生として初めて登校する。
今日からは今井このみとなり、制服も新しくなった。
学校に着くと、掲示板に新しいクラス割りが貼り出されている。
『三年A組……。』
姉の麗も先輩の知香も同じ三年A組であった。
このみは尊敬する二人と同じ教室で中学生活最後の1年を過ごす事になる。
『おはよう。一緒のクラスだな。』
声を掛けたのは清水豊だ。
『そうだね、1年間宜しくね。』
『あれ~?上田さんの名前ないよ。』
このみに近付いて言ったのは安田真理である。
『安田さんと同じA組だよ。ほら。』
真理はこのみの姓が上田から今井に変わった事に気付いていなかった。
『あ、もう今井このみになったのね。おめでとう。』
結婚をしたのが自分ではないのでおめでとうと言われるのに少し違和感がある。
『これからも宜しくね。』
担任はやはり田口先生だ。
教室に入り、出席番号の順番に仮決めされた席に付く。
このみの出席番号は秋野尚吾に続く2番である。
上田姓の時も大体2~3番くらいで今井姓に変わってもあまり変化はないが、三年A組で1番だと卒業式の時に卒業証書を最初に受け取るので唯一[以下同文]ではなくちゃんと読んでもらえる役目があるのでほんの少し残念だった。
因みに姉の麗の時は1番で、車イスのまま卒業証書を受け取るためにわざと1番にされたという話を聞いた事がある。
『さっそくで悪いけど今日は秋野くんと今井さんに日直をお願いしますね。』
出席番号が若いと日直も最初に回ってくるのが面倒だが、今日は授業がないのでやる事は少ない。
『これから中学生活最後の1年を受け持つ担任の田口です。宜しくお願いします。自己紹介は月曜日に改めて行ないますが、今日は苗字が変わった今井さんと転校生の遠山新太くんに挨拶してもらいます。』
予め始業式の日に挨拶をするか田口先生に打診されていたが、このみはどちらでも構わないと言っていた。
しかし、週明けに全員自己紹介をするなら先にやる必要はないので少しばつが悪い気分で教壇に立つ。
『3月まで上田の苗字を名乗っていましたが、この度母が再婚し、私も父の戸籍に養子として入りました。みなさん知っての通り戸籍は[今井康太]なのですが、今井このみの通称でこれから生活をして参ります。宜しくお願いします。』
隣の遠山が不思議そうにこのみを見ている。
『ややこしい奴だな……。』
ぼそっと言ったが、このみの耳にも入ってきた。
『はじめまして、遠山新太です。東京から来ました。埼玉には来たくなかったけど親の都合なので仕方ないです。宜しくお願いします。』
口調は丁寧だが、あまりいけ好かない感じだ。
日直の仕事を終え、秋野と共に職員室に日誌を提出して玄関に向かう。
『秋野くん、卒業式は1番最初に卒業証書受け取るんだね。うちの姉もそうだったって言ってた。』
『今井のお姉さんって伝説のお嬢さまだろ?車イスの。バスケやっているヤツから聞いたよ。』
このみたちと麗は入れ違いで一緒に中学には行ってないが、麗は学校の有名人だったのだ。
『でも1番最初って緊張するんじゃね?出来れば代わってほしいよ。』
秋野はそういうのはあまり好きじゃないみたいだ。
『だったら俺がやってやろうか?』
下駄箱の陰から出てきたのは遠山である。
『遠山くん!まだ帰ってなかったの?』
『転校して誰も知り合いいないからさ、今日名前覚えたの秋野と今井だけだし。』
初めて会話をした相手を呼び捨てするなんて馴れ馴れしいとこのみは思うが、とりあえず遠山の話を聞いてみる。
『同じクラスになったのだし、仲良くしましょ。』
『じゃ、聞くけど今井康太ってなんだよ?』
気になってしょうがなかったのか、唐突に質問してきた。
『私の本名なの。正式にはまだ男だから。』
『ほえ?』
『私はLGBTのトランスジェンダーなんです。いずれ手術をしたら名前も変わるけど。』
『……本当にいるんだ。』
『俺も今井とは初めて同じクラスになったから間近で見た事はなかったけど女の子にしか見えないよな。』
遠山に合わせる様に秋野も言った。
『今井の家ってどんなか見てみたいな。今度言っても良いか?』
今日初めて会った[異性]に突然家に押し掛けられても困る。
『あ、秋野くんとか他の子も一緒なら……。』
『俺も?……今井ん家って豪邸だろ?』
急に振られて秋野が慌てた。
『ごめん……。遠山くんの事よく知らないから。』
秋野の事だってよくは知らないが、同じ三中に二年通っている分まだましである。
『秋野くんの友だちも一緒で良いから。……お願い。』
秋野の嫌そうな顔がよく分かる。
『そん時一緒に今井の友だちも紹介してくれよ。』
馴れ馴れしいにも程がある遠山に押し負けて新学期そうそう変な事になってしまった。




