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少年少女合唱隊

『おめでとうございます。とてもきれいです。』


麗からプレゼントされたカメラで撮影をしながら知香が康子に挨拶をした。


『ありがとう、知香さん。あなたに初めて会って康太を宜しくって言った時、まさかこういう事になるとは思いもしませんでした。』


『私もです。お色直しをしたらまた撮りに来ますね。』


次に麗のグラスにジュースを注ぎに行く。


『麗さんたちもお色直しされるんですか?』


『はい。ワタクシが赤、このみさんがピンクのお揃いのドレスを着ますの。』


『楽しみです。』


次はこのみだ。


『こうちゃんと麗さんはせっかくのドレスだからそのままで良いからね。』


『本当に知香さんはこういう時、なにかやってくれますね。みんな大丈夫なんでしょうか?』


『うん。伝えられる人には予めこれをやるって言ってあるし、みんな知っている様なやつだから問題ないと思うよ。』


知香が仕切る余興には少し不安なこのみだが、知香は通常営業なので任せるしかない。


源一郎には日本酒を注いだ。


『おめでとうございます。』


『知香くん、本当にありがとう。余興も楽しみにしているぞ。』


『結構プレッシャーです。』


程なくして、4人がお色直しのため中座した。


『やっぱり知香の発案ね。このみちゃんに頼まれた時、おかしいと思ったのよ。』


知香が奈々に嫌みを言われる。


『……でもメイド服より簡単だし、生地はたくさんもらったからこんな頼みならいつでも良いよ。』


『ごめんね、萌絵、奈々。二人ならやってもらえると思ったから。』


知香と萌絵は別れてから初めての会話だが、意識しないで普通に喋っている。


『ま、ずっと受験勉強だったから、リハビリにちょうど良かったわ。』


萌絵と奈々は、受験に合格した日にこのみから連絡を受け、それから1ヶ月足らずで披露宴に出席している約40人分の衣装を作り上げたのだ。


司会の合図でお色直しをし終わったこのみたちが戻ってきた。


源一郎はグレーのタキシード、康子は肩を出したウェディングドレスを着ている。


ここから余興が始まり、大人たちが歌ったりなぜか手品を披露したりいろいろ思考を凝らした出し物が続き、最後に高校生、中学生が全員萌絵と奈々が作った衣装を身に付けた。


衣装は白いベレー帽に白いローブという、聖歌隊を思わせるものである。


『ド○フみたいだ。』


『し○らはいないのか?』


それなりの年齢の大人は昔観たテレビの人気番組の1コーナー、[少年少女合唱隊]を連想している。


発案者の知香が挨拶を始めた。


『麗さんのお父さま、このみさんのお母さま、ご結婚、おめでとうございます。私たち、麗さん、このみさんの友だち全員で讃美歌をお届けしたいと思います。なお、指揮はこのみさん、ピアノは麗さんと、姉妹初めての共同作業で仕切って戴きます。麗さん、このみさん、どうぞ!』


このみは麗の車イスをピアノの前に押して、知香からマイクを渡される。


『白杉知香さん、ありがとうございました。結婚式は教会ではなく神社だったんですけど……。』


大人たちは爆笑した。


『みなさんが着ている合唱隊の衣装は八木萌絵さん、菊池奈々さんが作った手作りのものです。』


いずれ育三郎の工場跡で衣装デザイナーを目指す萌絵と奈々をPRする。


『みなさん、声合わせをします。お姉さま、お願いします。』


麗がピアノを鳴らし、合唱隊のみんなが声を合わせた。


『いつくしみ深き。』


このみがタクトを上げ、麗が前奏を始める。


全く練習もせず、中には式場の受付をするまで歌を歌う事すら聞いていなかった者もいたが、このみは40人をまとめ上げ、歌い終わると大きな拍手が上がった。


『妹背をちぎる。』


譜面を見ても知らない曲と思っていた学生も多かったが、麗の前奏を聞いて分かったのか、みんな歌う事が出来、会場はさらに多くの拍手に包まれる。


歌い終わると、知香が麗の車イスをピアノの前からこのみの脇に並ぶ様に移動し、麗にマイクを渡した。


『お父さま。ワタクシを生んでくれたお母さまが亡くなった時は小さくて全く覚えておりません。物心が付いた頃はワタクシはわがままでお父さまをたくさん困らせておりました。ワタクシの心の支えはバスケットボールでしたが、事故で下半身が動かなくなりワタクシは心を閉ざしてしまいました。そんな時でもお父さまは、人を恨んではいけない、全て自分が与えられた宿命なのだとワタクシを励まして下さりました。しかし、本当はお父さまが一番辛かったと思っています。このみさんと出会い、お母さまに一目惚れしたお父さまを見た時にワタクシを励ました言葉を思い出してワタクシは心からお父さまとお母さまを祝福致しました。お母さま、お父さまの申し出をお受け戴き、ありがとうございます。わがままな娘ですが宜しくお願い致します。』


麗の言葉に会場は涙と拍手で溢れ、マイクはこのみに渡される。


『お母さま……お母さん……。ずっと一人で私を育ててくれてありがとうございました。初めて文化祭でセーラー服を着た時、私の気持ちを察して喜んでくれた事は一生忘れません。次の日、知香さんに会った時にどんなになっても親として支えると言ってくれた事、忘れません。その後、いろいろ辛い事がありました。でもお母さんが言ってくれた事を忘れずに頑張って来れました。まだ私はお母さんに支えてもらわなければ生きてはいけません。今は勉強を頑張って、泣き虫を卒業して、ちゃんと女の子になって、お母さんを支えていける様になりたいと思います。お父さま、私とお母さまを受け入れてくれてありがとうございます。今井家の娘としてお姉さまと仲良く、頑張って参ります。宜しくお願い致します。』


康子は泣いている。


普通の披露宴なら花嫁が親に感謝のスピーチをするのだが、お互い再婚という事もあり、結婚する両親に子どもから感謝のスピーチとなった。


『喜びの歌。』


いつの間にタクトを持った知香が指揮を取り、佐藤しおりがピアノの前に座って前奏を始めた。


『え?聞いてない。』


知香からスピーチの後の歌の話は麗もこのみも聞いていなかった。


ぶっつけ本番だったが、少年少女合唱隊は大成功だった。


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