神前結婚式
いよいよ源一郎と康子の結婚式当日となった。
遥も特別に前夜から泊まりこんで、朝から頼子と共におにぎりを作っている。
『おはようございます、頼子さん、遥さん。』
『お嬢さま、おはようございます。』
おにぎりを一つ食べ、早々に席を立つ。
このまま麗と共に美容室で着付けと髪のセットが待っているのだ。
『おはようございます。』
車を運転する上西も、今日は礼服を着ている。
『上西さんはずっと運転なさるのでしょうか?』
『今日は神社からホテルまでです。帰りは運転代行を予約してあります。』
披露宴には出席して酒が飲めない様なら不憫だと思っていたのでこのみはほっとした。
『このみさん。』
『はい、お姉さま?』
『顔を近付けて戴けますか?』
麗の言う通り顔を近付ける。
『もっとですわ。ワタクシの手が届くところまで近付けて下さい。』
『……はい。』
麗がこのみの頬に手を当てた。
『ごはん粒が付いていますわ。これではレディが台無しです。』
いつもより少し慌てていたのだろう、このみは顔を赤らめた。
美容室は間口は広いが段差があるので上西と店の従業員が車イスを持ち上げて店内に入る。
二人は市役所に行った時と同じワンピースを着ていたが、順番に着物を着付けてもらい、髪をセットしてもらった。
『お姉さま、きれいです。』
『このみさんもですわ。』
麗は着物は諦めていたが、障害者も楽に着られる着物があると知り、このみと一緒に振袖の着物で式に参列出来る事になった。
再び上西の車に乗り、駅前の神社に向かう。
神社に到着し、控え室には育三郎と幸代が待っていた。
『おじいさま、おばあさま、お待たせ致しました。』
『おお、麗もこのみもきれいだぞ。』
育三郎も幸代も笑顔である。
『今井麗さま、このみさま。記念写真の撮影を致しますので写真室にお越し下さい。』
『私たちも?』
係から呼ばれ、このみは麗の車イスを押して写真室に入ると、白無垢に角隠し姿の康子と紋付き袴姿の源一郎が待っていた。
『お母さま、おきれいですわ。』
麗は花嫁衣装の康子を賛辞するが、このみは声が出せない。
初めてみる母の晴れ姿に驚き、感激しているのだ。
『このみさん、どうされました?』
『……あ、き、きれいです。』
このみはそれだけしか言えず、康子たちに笑われた。
『それでは4名さま一緒にお撮り致します。』
4人の中でこのみが一番緊張している様だ。
撮影が終わり、控え室で式までを過ごす。
『源一郎さん、少しだけこのみと二人だけにして戴けますか?』
康子のお願いに源一郎は麗を連れて康子と離れた場所に移動した。
『このみさん……、今だけこうちゃんと呼ばせてね。』
『お母さん……。』
康子は白く塗られた手でこのみの手を握る。
『こうちゃんのお陰でお母さん、こんな幸せを手に入れる事が出来ました。本当にありがとう。』
このみは康子の顔を見る事が出来ない。
『これからは頑張ってこうちゃんの幸せを手に入れてね。』
『……お母さん……。私こそありがとう。わがままばかり言ってごめんなさい。』
『なにを言っているの?あなたのわがままのお陰でここまで来れたんだから。』
このみの目には涙が溜まっていた。
『せっかくきれいにお化粧したのに台無しよ。頼子さんに直してもらいなさい。』
生まれて初めての化粧だったが、崩れてしまい、慌てて頼子が化粧を直しに来る。
『今井さま、上田さま、お式の準備が整いました。神殿の方へご案内致します。』
『申し訳ございません、ちょっと待って下さい!』
係が迎えに来たが、このみのお陰で式は遅れた。
神殿に移り、神前結婚式が始まる。
このみは育三郎、幸代と並んで康子の後ろ姿を見ている。
(将来私も誰かと結婚するのかな?……そもそも結婚出来るの?でももし結婚出来るのなら神前式が良いな。)
神主が祝詞をあげ、二人はお神酒を飲み交わす。
『それでは、誓詞奉読をお願いします。』
誓詞奉読は神の前で結婚をした事を夫婦で読み上げる儀式である。
その後、指輪の交換や玉串を納めるなど一通りの儀式をして結婚式は無事終了した。
『お母さま、素敵でしたわ。おめでとうございます。』
控え室に戻り、麗がお祝いの言葉を送る。
『このみさん?』
このみはまた泣いていた。
『もう泣かないはずではなかったのですか?頼りない妹ですわね。』
そう言われてもこのみの涙腺は崩壊し、涙が止まらない。
『これではご自身の結婚式は大変な事になりそうですわ。』
『……たぶん……お姉さまの……結婚式の時は……もっと泣きます……。』
泣きながらこのみは言ってみんなを笑わす。
暫くこのみの泣き虫は治らないみたいである。




