このみの未来
萌絵と連絡がついたので、このみは育三郎、幸代と共にスノーホワイトに入店した。
『いらっしゃいませ……あら、このみちゃん?』
雪菜の母である紗世がこのみに気付いた。
『いつもお世話になっております。私の祖父母です。』
『孫がお世話になっております。』
このみに続いて育三郎と幸代が挨拶をする。
『こちらこそお世話になっております。この度はこのみちゃんのお母さまが再婚されるという事でおめでとうございます。』
紗世は雪菜からもこのみの母・康子の再婚を聞いていたが、相手の源一郎が副市長であり、商工会議所で知らない人はいない。
『後ほど萌絵さんと奈々さんが来られます。』
『あら?雪菜を呼んだ方が良いかしら?』
『いえ、萌絵さんたちには祖父がお話したいという事で時間を作って戴きましたが、受験前ですので気は遣わないで下さい。』
あくまでも萌絵たちにはランチを一緒に取る程度の時間で済ますつもりだ。
程なくして萌絵と奈々がやって来て席に案内された。
『はじめまして。菊池奈々です。』
『……八木……萌絵です。』
二人とも身長は低く同じくらいだが、性格は正反対で明るくよく喋る奈々に対し萌絵は人見知りで無口だ。
『このみの祖父です。二人ともなかなか凄いとこのみから聞いています。』
『ありがとうございます。私たちもこのみさんからお話を聞きましたが、先ずは高校受験が終わらないとと思っています。』
萌絵は黙って奈々に任せて聞いている。
『私たちの話もまだ先の事です。自宅の建て替えと工場の改装をこれから同時に始めるので半年は掛かります。』
食事が運ばれ、話は一旦途切れた。
『なぜ私たちなんですか?まだ将来どうなるかも分からないのに。』
奈々は率直に疑問をぶつける。
『このみの紹介という事もあるんだが、工房を3つに分けて、高校生、大学生、それに社会人を競わせてデザイナーの卵を発掘したいと思っているのだ。当然君たちはこれから高校生になる訳だから大学生や社会人に比べると知識も技術もビジョンもないだろう。しかし、将来を考えると一番夢を託せるからな。隣と競いながらいろいろなものを吸収して、羽ばたいてほしいのだ。』
萌絵と奈々は顔を見合わせている。
『私たちも今日から暫くの間、このみのところに厄介になるので、今のうちにいろいろ聞きに来てほしいと思っている。半年たって無理そうなら話はなかった事にしても構わない。』
萌絵も奈々もまだなにも始める前にこんなチャンスが与えられるなど思ってもいなかったが、逆に何年たっても二度と来ないかもしれない。
『……分かりました。……頑張って勉強します。……宜しくお願いします。』
奈々ではなく萌絵が育三郎に言い放った。
『萌絵、大丈夫?』
『……うん。やってみようよ。』
引っ込み思案の萌絵であるが、昔からひとつ決めたら一途になるところがある。
『……このみちゃん、ありがとう。二人とも結婚式行くからね。』
『ちょっと、萌絵?』
奈々の意思も確認しないで勝手に披露宴の出席を決めてしまった。
『萌絵さん、ごめんなさい。私、萌絵さんと知香さんとの事知らなくて……。大丈夫なんですか?』
披露宴に知香が出席するのは確実なので、顔を合わせるのは間違いない。
『……大丈夫。別れたって言っても恋人としてだから。友だちなのは変わらないと思う……。』
『そ、そうだよね。私たち、知香とずっと友だちだから……。』
奈々も以前、知香の事が好きだった。
正確には男の頃の[知之]が好きで告白をして振られたが、その後も友だちとして付き合いは続けている。
『……それに、披露宴は勉強になると思う……。』
結婚披露宴に出席する人たちはみんな着飾って来るのでデザイナーの卵には勉強のチャンスでもある。
『なかなか前向きじゃないか?二人とも応援はするから頑張って勉強してほしい。』
『はい、ありがとうございます。』
食事が終わり、萌絵と奈々は受験勉強のために先に店を出た。
『このみ。』
『はい、おじいさま?』
食後のコーヒーを飲みながら育三郎はこのみに尋ねた。
『このみは将来なにかやりたい事はあるのか?』
『いえ、状況の変化に付いていくのがやっとなのでとても将来の事など考えられません。とりあえずは手術をして戸籍も女の子にならないと無理だと思います。』
このみは実の両親の離婚から始まって性同一性障害の認定、メイドとして働いていたら母の再婚で今井家の娘となるなど、目まぐるしく環境が変わっている。
『そうだな。しかしこのみはそんな中でもしっかり頑張っていると思う。』
『たぶん、知香さんの影響だと思います。』
『このみはそんなにその知香くんを慕っているのか?』
育三郎はこのみの話に度々出てくる知香の名前に興味を持ち始める。
『はい。知香さんがいなかったら、今の私はなかった筈ですし、こうしておじいさまおばあさまと会う事は出来なかったかもしれません。』
『なるほど、そうなると私たちにとっても恩人という事になるな。』
『はい。』
このみは笑顔で育三郎に答えた。




