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祖父母の引っ越し

育三郎と幸代が自宅を改築するため暫く今井家に滞在する事になり、引っ越しの日がやって来た。


といっても全て引っ越し業者に任せているのでなにもする事はない。


仮の住まいという事もあり、普段の生活に必要のないもののうち、価値のあるものは市や団体に寄贈したりそうでもないものは処分し、後は貸し倉庫に預けておいた。


なので運ばれるのは衣類などだけである。


『このみさん、おじいさまおばあさまは何時頃お見えになられるのですか?』


『はい、午後一番に来られると思います。』


麗も待ちわびている様だ。


『お昼ごはんはどうされるのですか?』


『はい。市内をいろいろ見て回りたいとおっしゃっていたので、途中でお昼を食べる予定です。』


育三郎たちは引っ越し業者とは別に来るのだが、直線距離で30キロしかないのに電車だと二時間近く掛かる。


最初は上西が車で迎えに行くと言ったが暫く世話になる街を歩いてみたいという育三郎のためにこのみが駅まで迎えに行く事になった。


『おじいさま、おばあさま!』


電車が到着し、改札の前でこのみは手を振った。


『東京駅みたいだな。』


明治時代、近代化に役立ったレンガ作りの工場があった事からこの駅はレンガ風の駅舎になっている。


『渋沢栄一像だな。』


駅前ロータリーには新しい一万円札の顔となる渋沢栄一の像があり、歩いていくと造り酒屋の建物を利用した小さな映画館があった。


『なるほど、映画館という使い方もあるのか。』


育三郎の織物工場も改装して若いデザイナーに貸し出す事にした経緯もあって古い建物の再利用には興味がある。


『そういえばおじいさま、来月卒業する三年生なのですが、将来服飾デザイナーを目指している先輩がいるのですか。』


『貸し出しの件か?』


『はい。昨年の文化祭ではクラス全員のメイド服を僅かな時間でたった二人で縫い上げたのです。』


『ふ~ん。その二人ともという事なのか?』


このみは萌絵と奈々についてそこまで深くは知らない。


『たぶん……。二人は同じ高校に行くって言っておりましたので。』


『今は受験の追い込みか。まあこっちの準備もまだ半年は掛かるから慌てる事もないが、一度会ってみたいものだな。』


『披露宴の招待状はお渡したのですが、まだ返事は戴いておりません。』


このみの顔が曇る。


『どうした、このみ?』


『そのお二人のうちの一人がお姉さまと私を繋いでくれた恩人と不仲になってしまいまして、出席されるか微妙なのです。』


知香と萌絵の関係を説明するには面倒なので分かりやすく言った。


『そうか。その麗とこのみとを繋いでくれた人は源一郎くんと康子をも繋いでくれたという事になるのだな。当然その人は出席するだろうから顔を合わせたくないという事か。』


『はい。その恩人は私と同じ性同一性障害なのです。私にいつもアドバイスをしてくれますし、お姉さまが中学の頃毎朝迎えに来てお姉さまの車イスを押して通っていたと聞いています。』


『それはなかなか出来る事ではないな。なかなか優しい子の様だが、不仲になるなんてどうしたんだ?』


『おじいさん、このみにそんな事まで聞いてどうするんですか?このみ、困っていますよ。』


今まで一歩後ろで黙って聞いていた幸代が助け舟を出した。


『おばあさま、ありがとうございます。その恩人、白杉知香さんと相手の八木萌絵さんは恋人同士だったのですが、別れてしまったと聞きました。』


『ん?このみと同じという事は、元男の子だから女の子と付き合うのも変ではないのか?そうするとその恩人の子が女の子になったから別れたという訳なのか?』


『おじいさん!』


そもそも育三郎にはLGBTという言葉自体理解出来ないのでこのみに対しては最初から女の子として生まれたものとして割り切っている。


『ごめんなさいね、このみ。おじいさんは仕事人間だったから最近の事情に付いていけないのよ。』


祖母はまだ理解してくれている様だが、萌絵がレズビアンだという事を言うと混乱しそうなので止めておいた。


『わしが直接その八木さんとやらに話をしても良いがな。』


『あ。』


このみがふと気付いた。


『どうした?』


『おじいさま、おばあさま。お昼ごはんの事ですが、白杉さんと八木さんの同級生で披露宴に招待状を渡している先輩のお家がレストランをやっているのです。八木さんのお家はそのレストランからも近いのでそこで食べても宜しいでしょうか?』


そのレストランは知香の幼なじみでもある雪菜の両親が経営している[スノーホワイト]という名前の店で、このみも何度か利用している。


『もしまだお昼前なら一緒に食事をしながら話が出来るな。受験中とはいえ、お昼くらいなら大丈夫だろう。』


『電話をして聞いてみます。』


このみはスマートフォンを取り出し、すぐに電話をした。


『もしもし……、このみです。……返事ですか?……出席はしてほしいですけどまだ受験中ですから終わってからで大丈夫です。……今、祖父母が来て先日の話を萌絵さんたちにしたいと言ってるのですが……え?奈々さんもいらっしゃるのですか?……良かったら、お昼をスノーホワイトでごちそうしたいと祖父が言ってますので、一緒に如何でしょうか?……分かりました、お待ちしております。』


このみは電話を切り、育三郎にOKのサインを出した。

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