新制服説明会
この4月から新一年生となる小学六年生の制服採寸と注文の時に新しい制服の説明会が開催され、このみがモニター代表として説明をする事になった。
(恥ずかしいな。知香さんみたいに大勢の人の前で話すなんて無理だよ。)
そう思いながら新しい制服を着たこのみは視聴覚室の壇上に向かった。
『みなさんこんにちは。私は三中二年C組の今井このみと申します。』
今はまだ上田姓であるが、六年生が三中に入学した4月には今井姓になっているため、今井このみと名乗った。
『私は性同一性障害で小学校六年生までは男子として通っていました。みなさんとは入れ違いになりますが、前の生徒会長の白杉さんも私と同じ性同一性障害です。私たちは思春期を迎え、男と女という性の違いを意識し始めています。性同一性障害でなくても男子がスカートを穿いてみたいと思ったり、女子がなんで寒いのにズボンを穿けないのと思う事もあるかもしれません。新しい制服はまずそういった性の垣根を取り払いました。』
壇上には新しい制服を着た田中と沢口実花が立っている。
田中はスカートを、実花はスラックスを穿いていた。
『実際、新しい制服は来年の一年生から導入を目指していますので今年の一年生は従来の制服ですが、モニターとして新しい制服を着て戴く生徒を募集してきました。まだ若干の空きがありますので、この場で新しい制服を着たいという方がいらっしゃいましたら受け付け致します。』
会場から母親の『○○ちゃんスカート穿いたら似合いそう。』という声や『やだよ、俺。』という男子生徒の声が聞こえて結構反響があるみたいだが、田中のスカート姿に違和感がないからかもしれない。
結局、新一年生のモニター希望者は男子6名、女子9名となり、そのまま採寸と申し込みを行なった。
『ありがとう、田中くん、沢口さん。』
『私は服飾部の部長だから参考になると思ってモニターになっただけだけど、田中くんのスカートは良いよね。普段男子が街中で穿けるスカート作りたくなっちゃった。』
そんな時代も当たり前になるかもしれない。
『今井さん、田中さん。』
このみと田中が突然声を掛けられたが、その主が中田陽菜の母だというのは直ぐ分かった。
『中田陽菜の母の時子と申します。クリスマス会の時は陽菜が大変迷惑をお掛け致しました。』
このみが振り返り、壇上にいた浅井先生に目で合図を送った。
『中田陽菜さんのお母さまですね。私、三中の養護教諭をしております浅井と申します。上田さんから陽菜さんの話は聞いております。いろいろ伺いたいと思いますが、お時間は宜しいでしょうか?』
浅井先生はこうなる事を予め予測してこのみに指示を出していたのである。
時子と陽菜はこのみたちと共に面談室に通された。
『改めまして、浅井と申します。大方の話は上田さん……今井さんから聞いています。』
時子は4月からこのみの苗字が変わる事は知らなかったが、浅井先生はわざと両方の苗字を使ってくれた。
『陽菜さんはスカートは穿きたくないという事と、生理や胸が大きくなる事に嫌悪感を抱いていると聞いていますが、男になりたい訳ではないのですね。』
『男性、女性という拘りはありませんが、女の子の身体になるのは抵抗があります。』
陽菜は浅井先生にはっきり言った。
『青葉台小の山本先生からも報告を戴いております。とりあえず上田さんの様に病院でカウンセリングを受けて二次性徴を抑えながら、将来どうすれば良いのかを考えてみては如何でしょう?胸の発育は抑えらると思います。』
まだ陽菜の胸はさほど発育をしていないみたいであるが、なにもしないでいれば発育は進んでいく。
『ただ、私が調べたところだと二次性徴を抑える治療は出血や下り物が出るらしいですし、火照りなど体調の変化もある様です。』
女性はこの時期、将来子どもを作るために成長するのだが、それを抑える治療は男子が坑男性ホルモンで抑える以上に副作用が出る様だ。
『毎日清潔にしていないと病気になるから簡単に考えては駄目よ。』
陽菜は悩んでいた。
『先生、私ホントに分からないんです。でも身体が変化するのは嫌だから、その治療を受けてみたいと思います。』
『それは上田さんに聞いてみた方が良いわね。』
浅井先生はこのみに振る。
『病院の先生からは15歳になるまでホルモン治療を受けられないのはホルモン治療を始めてしまうと元に戻せなくなるって言われたの。当然男の子と女の子では違うけど、治療やカウンセリングをして15歳になるまでに結論を出せば良いんじゃないかな?』
このみも知香には結論はゆっくり出せば良いと言われていたので、陽菜にもそう諭した。
『分かりました。上田さん、宜しくお願いします。』
このみはようやく素直になった陽菜に笑顔で応じた。




