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結婚式の娘たち

2月になり、育三郎が手掛けていた打掛が完成したと連絡が入り、上西とこのみ、遥の3人で群馬に向かった。


このみは祖父母の家に行くのが楽しみなのだが、打掛が完成した事で車イスの麗も寛げるバリアフリーの家にリフォームされると聞いているため元の姿を見るのはたぶん最後になる。


『こんにちは、おじいさま、おばあさま。』


『待っていたぞ、このみ。』


古い木造の建物の中には何台も稼働していない織物の機械があった。


『昔は従業員もたくさんいたから全て動いていたが、今は一台だけしか使っておらん。この一台を残して残りは市に寄贈する事にしておる。』


使えなくなった機械だが、近代化の遺産として保存する予定だ。


『空いたスペースに若い人たちが作業出来る場所を作り、自宅を壊してその若い人たちが寝泊まり出来る場所を作るのだ。』


『え?家はリフォームしておじいさまたちが住むのではないですか?』


建て替えをするとは聞いていない。


『源一郎くんから提案があったんだよ。この住居をリフォームしてもバリアフリーにするには問題が多いらしい。工場ほど文化的価値はない家だからな。』


育三郎の説明では1階を育三郎夫妻の住居と食堂にして、2、3階に若い人のための寮にすると言う。


『商工会議所からも是非やってほしいと言われてな。』


衰退した地元産業を若い人たちに引き継ぐための起爆剤になればと言うのだ。


『家を壊したらおじいさまおばあさまはどこに住むのですか?』


『源一郎くんに言われて暫くこのみと一緒に暮らす事になる。あの固っ苦しい家は苦手だが。』


『一緒に生活が出来るのですね!』


このみは短い期間でも祖父母と暮らせる事を喜んだ。


『いつから来られるのですか?』


『今月末になる。宜しく頼むぞ。』


このみの喜ぶ顔を見て育三郎も幸代も少々固っ苦しい家も我慢出来ると思えた。



このみたちは自宅に戻り、打掛の入った桐箱を和室に搬入する。


『これは凄いですね。』


丁寧に着物ハンガーに掛けながら頼子がため息を付いた。


『このみお嬢さま、旦那さまがお呼びでございます。』


うっとり打掛を眺めている暇はない様だ。


『失礼致します。』


このみが源一郎の書斎に入るのは初めてである。


『ちょっと良いか?』


『はい。』


『私たちの結婚式の話をしたい。』


源一郎がこのみに説明を始めた。


具体的には結婚式は3月27日友引の日曜日で駅前の神社で神前式を行ない、午後に市内のホテルで会費制の立食形式とする事にした。


『このみは結婚披露宴に出た事はあるかい?』


『上西さんと頼子さんのパーティーだけです。』


上西夫妻の結婚披露パーティーは近い人間だけだったので今井家の敷地で行ない、このみたち中学生は参列というより半分は給仕役だった。


『中学生ならそうだろうな。普通は会費制でなくご祝儀を持っていき、引き出物を渡すのだ。』


『はい。』


『しかし政治家っていうのは面倒でな。引き出物を渡すという行為は寄附に当たるため出来ないのだ。ご祝儀も場合によっては違反になる事もあるから会費制にしたのだが、分かるか?』


『はい、なんとなく。』


政治家の金品の受け取りは公職選挙法に引っ掛かるという事はこのみも勉強している。


『本来ならお互い再婚同士だし、こんな面倒ならやらない方が良いと思うが康子さんとこのみのお披露目はやるべきだと市長に言われてな。』


市長の中島はこの1月に見事4選を果たし、源一郎は副市長に抜擢された一方、源一郎と康子の媒酌人となったのだ。


『ただ、その方が麗やこのみの友だちも呼びやすいだろう?学生はは半額にしておいた。このみの呼びたい友だちのリストは作ってくれたか?』


予め源一郎はこのみに披露宴に呼びたい友人のリストを作る様に指示を出している。


『はい、こちらに。』


このみのリストには20人くらいの名前が書いてある。


『知香くんたちは麗のリストにも入っているな。』


このみとも麗とも同級生ではない知香たちは麗も招待したいと申し出ているため、重複している名前が結構ある。


『それから、麗とこのみは私たちと一緒にお色直しするぞ。』


『え?』


『良いか、再婚というのはお互いの家族のお披露目なんだ。式の席も私たちの間に二人が座るのだからな。』


本来、新郎新婦が座る中央に麗とこのみが座る事になる。


『結婚式の流れで最初は振袖を着て、お色直しはドレスを着られるぞ。どうだ?』


『ドレスなんて着た事がないので、嬉しいです。』


『二人には本番の練習になるかもしれんな。まあ、簡単にはさせないが。』


源一郎は笑って言ったが、このみは麗と同じ様に実子として扱ってくれる源一郎に感謝している。


『お父さま、ありがとうございます。素晴らしい結婚式になると良いですね。』


『ありがとう。』


源一郎に礼を言われ、このみは部屋を出た。

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