制服向上委員会
新学期が始まり、このみたちのクラスでも新しい制服の導入と、モニター募集が伝えられた。
『実際に導入される予定は来年の新一年生からになります。そのため、今の二年生が卒業してからなのですが、まだ正式な決定ではないので希望する生徒にモニターとなってもらいます。』
田口先生が説明する。
『私たちもモニターになれるんですか?』
『なれますが、条件があります。期間は三年生の新学期から1年間になりますが、モニターになる方は今着ている制服は原則着てはいけません。』
気まぐれで今日は古い制服、明日は新しい制服と変えてはいけないのだ。
『その代わりモニターになる生徒には補助が出るので、今の制服が着れなくなった方には良いとは思います。後……。』
田口先生は話を続けるのを躊躇った。
『先生、私が説明しましょうか?』
このみが田口先生の代わりに教壇に立つ。
『この新しい制服は私みたいな生徒が全国的に増えているという背景から提案があったそうで、男子生徒がスカートを穿いたり女子生徒がスラックスを穿いたり出来る仕様になっています。モニターになる生徒は身を持って体験してほしいとの事で、男子も女子もスカートとスラックスの両方を穿くのが条件となっています。』
教室が騒然となった。
ほぼ同時に隣の教室でもどよめきの声が聞こえている。
『あくまでもモニターなので、実際に着用して意見がほしいとの事ですから1日だけでも良いそうです。私もモニターになるのでスラックスを穿く事もあります。』
女子はともかく、男子がスカートを穿いて学校に行くのはかなりハードルが高い。
『母さんに聞いてみないとダメだけど、僕やっても良いよ。』
そう答えたのは田中だった。
たしかに田中の制服はだいぶてかてかしているし、田中のスカートの制服姿を見てみたいとこのみも思った。
『希望される方は金曜日の放課後、制服申込書に記入して視聴覚室に集まって下さい。』
金曜日、集まったのは一年生7人と二年生が5人で、スカートを穿くという条件のおかげで男子は3人しかいなかった。
『二年C組の上田このみと申します。この度新しい制服の向上委員会の委員長に指名されました。先ずはみなさん、モニター募集にご協力ありがとうございます。』
新しい制服のモニター制度導入は源一郎の発案のため、このみが委員長に担ぎ上げられたのだ。
『みなさんには毎月このチェック表に記入をして提出をお願いします。』
このみが示したチェック表は着心地や汚れの目立ち具合などいくつかの項目があり、改善希望や感想を書く欄もあった。
『あの、なぜ男子がスカートを穿かなきゃいけないんですか?上田さんには失礼だけど、男子がスカートを穿くのはおかしくないですか?』
一年生の男子生徒からそんな質問があった。
『普通の男子がスカートを穿く機会なんてないでしょうから敢えてお願いします。あくまでもモニターですから、自分やご両親、クラスの友だちがどう感じるかデータがほしいのです。』
『一度だけで良いんですよね?』
『一度でも良いですが、出来れば季節毎に穿いてほしいですね。気に入ったら毎日でも良いですよ。』
さすがに男子の3人は田中を含め、女装が似合いそうな生徒ばかりだ。
(出来れば村田くんみたいな子に穿いてもらった方が良いんだけどな。)
実際は1学期にモニターの生徒たちから集めた感想やデータをPTA総会で発表し、議題に掛けるため2学期以降のデータはあまり必要がない。
ただ、冬になるとスカートよりズボンを穿きたいという女子生徒がどれだけ増えるかというデータも、新入生が制服を購入する時にほしいのだ。
『男子のスカート、女子のスラックスは一本無償と書いてありますけど、もう一本ほしい時はどうなんですか?』
やはり冬にスラックスを穿きたい女子は多そうだ。
『2本目からは有料となります。』
この12人の他に新一年生のいずみや陽菜が10~15人くらい新しい制服のモニターになる予定である。
『田中くん、お母さん大丈夫だったの?』
『まぁね。3学期が始まる時に制服どうしようかって言うくらいくたびれてたし、スカートもあるって言ったら見てみたいだって。』
不思議な男子だ。
『中田さんと一緒の制服なのも良いしね。』
『え?田中くん、陽菜ちゃんと付き合ってるの?』
陽菜とはクリスマス会以来会っていないし、田中とも普段あまり教室で話す訳ではない。
いつの間にそんな関係になったのか?
『考え過ぎだよ。相手は二つも下なんだし、アドレス教えたから相談に乗ってるだけ。』
相談ならMtFとFtMの違いがあるとはいえ性同一性障害の自分じゃなくなぜ田中なのか?
『彼女、自分が性同一性障害と診断されるのは抵抗があるのかもね。言葉遣いは女の子だし、生理が来たり女子っぽい服がきらいなだけかもしれない。』
だからこのみには相談どころか連絡もしてくれないのか?
『難しいね。』
『そりゃそうだよ。みんな同じじゃないんだから。形にはめる事は出来ないよ。』
田中の言葉にこのみは目から鱗が落ちた様な気がした。
田中は本当に不思議な男子だとこのみは思った。




