遥のスキル
『あけましておめでとうございます。』
遥の初出勤は1月4日だった。
『おめでとうございます。遥さん、お着替えをしたらリビングに来て下さいね。』
頼子に言われ、遥は急いで着替える。
『失礼致します。』
リビングには康子、麗、このみ、頼子が揃っていた。
『こちらにお座り下さいませ。』
麗に促され、遥は恐る恐る座った。
(もしかしたらクビ?)
4人に囲まれ、遥は震えた。
『遥さん、グラスをお取り下さい。改めてあけましておめでとうございます。』
遥が来たところで、全員で乾杯をした。
『驚きました?』
このみに聞かれ、少し余裕を取り戻した遥だった。
『はい。クビと言われるかと思いました。』
『クビではないけれど、今まで通りという訳にはいかなくなってしまったの。』
『えっ?』
安心したのも束の間、康子からの爆弾発言に再び怯えた。
『やはり遥さんの様に大した事情もない中学生を働かせるのは良くないという話になったの。』
『私の勝手でお手伝いをしているのです。お給金要らないですからここに置いて下さい!』
土日だけだとはいえ、最早生活の一部になっている今井家での仕事を手放したくないのだ。
『この半年間、頑張ってきたあなたにはスキルがあります。そのスキルを生かしてほしいのです。』
『どういう事ですか?』
『この春から今井家においてマナー教室を開校する事になりました。昔なら花嫁学校とか言ったものがありましたが、今は男女差別と指摘されるので男子も女子も参加可能です。遥さんはすでにマナー講座を学んでスキルを取得した先輩として生徒さんを指導する役目を担って戴きたいと思っています。』
頼子が説明した。
『そんな大役……私に出来るでしょうか?』
遥は逆に不安になった。
『大丈夫。遥さんは今まで通りで構いません。あくまでも表向きだから。マナー講座はやりますが、先生は頼子さんとお母さまなの。たまにお姉さまや私、遥さんが教えるだけでお給金は今まで通りだから心配しないで。』
このみの説明で少し遥はほっとした。
『ただし、この講座は中学一、二年が対象なので遥さんがここに居られるは来年3月までです。』
『そうなのですか?』
1年以上あるとはいえ、ずっと居られると思っていた遥はショックを受けている。
『三年生になったらしっかり受験勉強をして下さい。ちゃんと高校生になって、アルバイトの許可をもらえたら改めて契約します。遥さんが希望すればですけれど。』
『分かりました。宜しくお願い致します。』
形は今まで通りという事で、遥は安堵した。
『募集は新しい一年生数名だけに致しますが、心当たりのある方はいらっしゃいませんか。』
康子の問いに直ぐ全員が反応する。
『いずみさんは如何でしょうか?』
いずみはバスケットボールの練習に日参しているので全員が最適だと思った。
午後になり、いずみがバスケの練習にやって来た。
『あけましておめでとうございます、こう……このみさん。』
いずみも今まではこのみを[こうちゃん]と呼んでいたが、[このみさん]と改める様にしたみたいだ。
『あけましておめでとうございます。メガネはどうしたのですか?』
『コンタクトレンズにしました。バスケは動きが激しいですから。』
今まで姉ののぞみ同様にメガネを掛けていたいずみだが、バスケットを始めるにあたりコンタクトに変えたのだ。
『メガネのいずみさんも可愛かったけど、メガネを掛けない姿も美人ですよ。』
『ありがとうございます。』
いずみは美人と言われ喜んだが、この一年で本当に美人に成長したとこのみは思う。
『少しお話宜しいでしょうか?』
このみはいずみにマナー講座の話をし始めた。
『私は無理です。バスケ部に入ったら土日も休めないでしょうから。……双葉に聞いてみても良いですか?』
双葉はいずみの幼なじみで親友である。
『双葉さんね。良いと思います。……あと、陽菜さんにも聞いてもらえないかしら?』
『陽菜?メイド服なんて絶対着ないって言いますよ。』
『メイド服とは言ってないわ。執事用の制服も作るから。』
それなら陽菜も良いだろうといずみは思った。
このみは続いて、新しい学校の制服モニターの話をいずみに持ち掛けた。
『へぇー、制服変わるんですか?』
『そう。実際は来年からだけど、今年は何人かにモニターになってもらうんだって。だから私も着るの。』
『私もモニターやれますか?』
いずみはこちらには興味津々だ。
『お父さまに言っておきますね。新一年生は在校生より多く募集をする様ですから。あと、スカートとスラックスを選べるから陽菜さんにも着てほしいの。』
『分かりました。お話しておきます。』
いずみはこのみが新しい制服の話をした意図を読み取った。




