打掛と制服
冬休みに入った25日以降、このみは勉強の合間に自分の部屋を片付ける程度だったが、康子はおせち料理作りに精を出し、頼子と遥は邸内の大掃除に追われた。
一昨年まではおせち料理は近隣の百貨店から取り寄せていたが、今井家は正月の来客も多く、量も半端ではない事から今年から康子が自分で作ると言ったのだ。
『庭仕事が終われば僕も手伝うけれど。』
上西はそう言ったが、この時期の庭の手入れは落ち葉掃除に追われる一方でなかなか片付かず、ほとんど康子がやっている。
『お母さま、私もお手伝いして宜しいでしょうか?』
やる事がないこのみは、自分の部屋だけでなく麗の部屋の掃除までやり、おせち料理作りの手伝いを申し出た。
『このみさん、ワタクシも微力ですがお手伝い致しますわ。』
去年までは家事を一切やらなかった麗までもがこのみの影響なのか手伝うと言い始め、お嬢さまは手出し無用と言ってきた頼子も、諦め顔で手伝いを許可した。
『麗お嬢さまも今までとはだいぶ雰囲気が変わりましたね。』
『そうなのですか?』
遥は中学時代の麗を知らない。
『遥さんもこの半年間、よく頑張ってくれましたね。来年も宜しくお願い致します。』
『来年もって、明日も来ますけど。』
今日はまだ29日である。
『なにを仰るのですか?あなたはまだ中学生です。ご家族もいらっしゃいますでしょう?年末年始はお家でのんびりなさい。』
もともと遥は、このみと違って中学生の身でアルバイトをする理由がなかった。
このみが今井家のお嬢さまとなる事で、このみを慕う一心でこのみの後を継いでメイドの仕事をやるだけだったのだ。
『あなたは最初こそ失敗ばかりでしたが、本当に頑張りました。その頑張りをご両親に向ける良い機会ではないですか?』
『はい。分かりました。』
遥は冬休みの間中このみのそばに居たかったが、頼子の言い付けを守り年始は4日から出勤する事となった。
『それでは奥さま、麗お嬢さま、このみお嬢さま。今年はこれにて失礼致します。良いお年をお迎え下さいませ。』
『良いお年を。』
遥は少し寂しそうにこのみたちに挨拶をして家を出た。
30日からは父・源一郎とリカルドも終日自宅にいて、午後からは祖父母の育三郎と幸代もやって来た。
『お招き、ありがとうございます。それにしても豪邸ですね。』
初めて訪れた娘の再婚相手の家に育三郎と幸代は目を白黒させている。
『康子さんもこのみも一緒に年末年始を送れると楽しみにしている様だし、自宅と思って寛いで下さい。』
『客間もない我が家と比べようがありませんが、お世話になります。』
このみは初めて過ごす今井家の年末年始を、祖父母と共に送る事になった。
『お陰さまで打掛も1月中には仕上がると思います。』
結婚式で康子が着る打掛の製作も当初の予定よりはるかに早いペースで進んでいる様だ。
『おじいさま、あまり無理をしないで下さいませ。』
このみは職業体験の時に見た仁村翁の死をどうしても育三郎と重ねてしまう。
『大丈夫だ。麗さんとこのみの結婚式を見るまでは死ねん。』
『おじいさま。ワタクシも麗と呼んで下さいませ。ワタクシには唯一のおじいさまですから。おばあさまも宜しくお願い致しますわ。』
頼子は確かに麗が変わったと確信した。
『二人とも打掛を着てくれると嬉しいんだが。』
『残念ですがワタクシはこの身体でございますからお着物は難しいですわ。』
育三郎は少し残念そうだ。
『お父さま、お姉さまより新しい制服のお話を伺ったのですが。』
このみは普段なかなか直接会話する機会がない源一郎に聞いてみた。
『このみもモニターになってくれるのか?それは有難い。リカルド、あれを持ってきてくれないか?』
『カシコマリマシタ。』
リカルドは新しい制服のイラストが描かれている紙を持ってきた。
新しい制服は茶系のブレザーで胸にはエンブレムが付き、灰色のスカートとスラックス、チェックのネクタイをかリボンが選べる様になっている。
『この制服は女子がスラックスを穿いても宜しいのでしょうか?』
『なんだ?このみはスカートよりスラックスの方が良いのか?』
『いえ、今度一年生に上がる女の子がいるのですが、スカートは穿きたくないと言っているのです。』
このみは源一郎に陽菜の話をした。
『すると、このみたちの逆パターンの子というのか?』
『まだ分かりませんが、その傾向の様です。私も、六年生の時に初めて知香さんに会った時は自分でもどうしたいのか分かりませんでした。先生方にもお話をして本人が自分で決めるまで様子をみたいと思います。』
このみも知香から自分の思いが定まるまで焦らない様に言われた事を思い出していたがその言葉に源一郎も康子もこのみの成長を感じた。
『ではその生徒もモニターに加える様にしよう。』
このみは陽菜の喜ぶ顔を想像した。




